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政治家は中央銀行トップの覚悟を見習え

世界の指導者のなかでいちばんその発言が注目されるのは誰か。それは超大国アメリカの大統領かもしれません。しかし、わたしはFRBのパウエル議長なのではないかと思っています。

中央銀行であるFRBの金融政策の行方は世界経済に直結します。それゆえFRBの政策決定とともに大事なのが議長の発言です。世界の市場関係者は、議長の発言のみならず、その表情から息遣いまで注目します。パウエル議長の発言次第で、株価や為替などが変動します。ある意味、実利を伴うだけにバイデン大統領の発言より注目されるのです。

パウエル議長は政策決定の後に記者会見を開いていて、会見の度に政策金利の引き下げに関する言動がないか一斉に目が注がれます。ところが、おもしろいことにFRB議長による定例の会見が始まったのは、最近になってからなのです。

会見を始めたのは「リーマンショック」に対応したバーナンキ元議長です。バーナンキ元議長は、未曽有の金融危機に対して、異例のゼロ金利政策と資産の買い入れなど量的緩和を推し進めました。大量の資金供給によって金融機関は安定化し、経済も回復していきました。

そんな中、バーナンキ元議長が重視したのが「市場との対話」です。議長自らが定例の会見に臨むことで市場の信用を得ようと試みたのです。ところが当初、バーナンキ元議長の試みも空回りします。株価の下落など市場の動揺を抑えつつ、引き締め路線への転換を図るという一見相反する政策を進めなければなりません。

当初は、発言の意図がうまく伝わらず、「バーナンキショック」と呼ばれる動揺を招いてしまいます。しかしその後は、自らの言葉を通じてうまく政策を操作して通常の金融政策に戻す道筋をつけました。

実は日銀総裁が、FRB議長よりも早く定例会見を始めていたことは忘れられがちです。黒田前総裁は、いわゆるアベノミクスを支援する形で会見を活用してきたのはよく知られています。いまの植田総裁は、超低金利や巨額の国債残高など「負の遺産」を処理するため、ある意味、パウエル議長以上に神経を使いながら会見に臨んでいることでしょう。植田総裁にとって、会見はまさに「武器」です。しかし失敗すれば、先日の円安水準をめぐる発言のように自分に跳ね返ってきます。

ひるがえって政治家の発言に重みがないのは情けないことです。その発言がすぐさま市場での反応に現れる植田総裁と違って、政治家の発言はすぐさま反応が出るわけではありません。しかし海外では就任直後の辞任に発展したイギリス前首相の例があります。記者の追及が物足りない面も政治家の発言を軽くしてしまっている一因かもしれません。

最近では、いわゆる自民党の政治資金問題で、岸田総理大臣は「火の玉になって取り組む」と宣言しましたが、その対策は野党案に比べてはるかに甘いものです。また少子化対策の財源についても医療保険を適用すると言い出し、その負担額もどんどん増える有様です。岸田総理大臣も自らが選んだ植田総裁の覚悟を見習ってほしいです。


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