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津田梅子の留学が国費だった意味を考える

まもなく新しい5千円札の顔となるのが、女性教育の発展に尽くした津田梅子です。日本で最初の女子留学生としてアメリカで学び、女子英学塾、いまの津田塾大学を創立しました。その梅子の業績について学ぶ講演会が都内で開かれました。

梅子は二度の留学経験があり、生物学の研究者としてアメリカに残る選択もありました。ところが、良妻賢母が尊ばれる日本の教育を変えたいとという思いが強い。日本に帰って、女性の地位向上につながる教育者としての道を選択します。梅子の決意に感銘を受けると共にもう一つ見逃せない点がありました。それは梅子が留学したのが国費であった点です。

講演では梅子が女性の地位が低い日本の状況を海外に積極的に発信していたことが紹介されました。こうした反政府とも取れる梅子の行動は友人を心配させたということでした。ここは非常におもしろい点です。当時の政府からすれば留学させた意図とは違っていた訳ですが、国費留学が結果的に女性教育の先駆者を生んだことは、図らずも偉大な成果になったと言えると感じました。

このことは広い意味での公教育がいかに重要かを示しているのではないかと思います。梅子の留学は私費ではかなわず、国費であったからこそかなったと言えます。いま、公教育の弱体化が顕著です。教師は部活動から事務作業までやらなければならず、疲弊しています。そのため教師の成り手が見つからず、教育の質の低下が心配されています。かたや多くの中学生が学習塾に通っており、学力を支えているのは学校ではなく、学習塾なのが実情です。そして学習塾に通えない子どもたちとの間で学力格差が生じています。

いま少子化対策を目的とした子育て支援に力が注がれています。また忙しい教師の負担を減らすため働き方改革が進められています。さらに子育て世代の教育費負担を減らそうと私立を含めた教育の無償化が図られています。

これら一連の政策は好ましいものだとは思います。しかしいま必要なのは、少子化を克服しようというのではなく、少子化を前提とした上での政策だと思います。学力格差を解消するため、一人一人に寄り添った教育を実現するため、そして国の競争力を高めるための公教育の立て直しです。そのためには教師が授業に集中できる環境づくりが大事であり、そのための働き方改革であるべきです。私立学校も大事ですが、少ない資源を活かすためにもまずは公立学校の教育の質を上げることが何よりも大事だと思います。

アメリカでは学校の分業体制が明確で、教師の仕事は授業を行なうことです。ところが好景気による人手不足は学校にも及んでいて、一部の州では「週4日」の授業に切り替える学校が出てきています。こんな状況にならないためにも教育改革は急務です。国費留学が人生を変えた津田梅子の講演を聞いてその思いを強くしました。

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