アーセナルのチャンピオンズリーグを振り返る

イングランドのクラブでCLを優勝したのはマンチェスターユナイテッド、リバプール、チェルシー、マンチェスターシティ、チャンピオンズカップ時代にノッティンガムフォレスト、アストンビラ(マンチェスターユナイテッド、リバプール)の計6チームである。

アーセナルがイングランドのトップリーグで優勝したのは、1931、33、34、35、38、48、53、71、89、91、98、2002、04である。チャンピオンズリーグは55-56からである。それでは戦績を見ていこう。


71-72 ベスト8

ヨーロピアンカップ時代にベスト8でヨハンクライフ、ニースケンス、クロル、カイザーらを揃えこの年を含め3連覇するアヤックスと対戦。ハイバリーでのセカンドレグ、グレアムのオウンゴールで敗退。バーティミー率いるこの頃のアーセナルは69-70にフェアーズカップ制覇(クラブ初のヨーロッパタイトル)、翌70-71には国内ダブルを達成。ボブウィルソン、パットライス、フランクマクリントック、ピーターストーリー、ジョージアームストロング、ジョージグレアム、レイケネディ、チャーリージョージ、ジョンラドフォードらを擁した。


84-85に起きたヘイゼルの悲劇によりイングランドのクラブは5年間の出場禁止、91-92より復帰。これにより88-89国内優勝による出場権は無効。

91-92 2回戦敗退

最後のチャンピオンズカップ、翌年からチャンピオンズリーグに名称変更。この年からイングランドのクラブが復帰。ジョージグレアムが率いたこの年のアーセナルにはトニーアダムスをはじめフェイマスフォー+ディビッドシーマン、アランスミス、ディビッドローキャッスルらがいた。イアンライトはこの年に加入している。ベンフィカに延長のすえ敗れ2回戦敗退。ベンフィカはのちにアーセナルに加わるシュテファンシュバルツ、ワールドユースを制した若きルイコスタが出場した。


96-97アーセンベンゲル体制が始まる。この年から国内リーグ2位にも出場権、シーズン最終盤にニューカッスルに逆転をゆるし得失点差で3位に終わり出場権を逃す。

98-99 グループステージ敗退

91-92以来のCLはグループステージ3位で敗退。この年旋風を起こしベスト4に進むシェフチェンコ擁するディナモキエフ、前年フランス王者ランスにホームで敗れ連敗、敗退が決まる。キャパシティの問題でホームゲームをウェンブリースタジアムで開催することが特別に認められる。

99-00 1次リーグ敗退

1次リーグ、前年に続きホームゲームはウェンブリーで開催。リバウド、フィーゴ、クライファートらのバルセロナ、バティストゥータ、ルイコスタら擁するフィオレンティーナをウェンブリーに迎えるも連敗。3位で1次リーグ敗退、UEFAカップへまわる。決勝でガラタサライにPK戦のすえ敗退、準優勝に終わる。前年に続きウェンブリーでの戦績が思わしくなくホームアドバンテージが得られないことから、翌年からはハイバリー開催となる。2年間のウェンブリー開催のすべてで70000人以上が集まり、新スタジアム建設を推進していくことになる。

00-01 ベスト8

2次リーグ、エッフェンベルグ、エウベル、サリハミジッチらを擁しこの年のCLを制するヒッツフェルト率いるバイエルンとハイバリーでは2点を先取するもドロー、最終節オリンピアでバイエルンに敗れたがリヨンがモスクワと引き分けたため勝点で並び直接対決の結果により2次リーグ突破、ベスト8進出をはたす。この年2年連続でCL準優勝となるバレンシアとのファーストレグを2-1で勝利するも、メスタージャでヨアンカリューに決められ0-1アウェイゴールの差でベスト8敗退。

01-02 2次リーグ

2次リーグ、ハイバリーでのユベントス戦ベルカンプのスーパーアシストからリュングベリのゴールにより勝利、この年CL準優勝するバラック、ゼロベルトらレバークーゼンにもホームで4-1勝利するも、バレロン、トリスタンら擁するデポルティーボに2敗を喫す。最終戦デッレアルピで古巣相手のアンリがデポル戦に続きPKを失敗、サラジェタのセットプレーで敗戦。リアソールではレバークーゼンが勝利、3位で2次リーグ敗退となる。

02-03 2次リーグ

1次リーグ首位通過(ドルトムント、オセール、PSV)、2次リーグ初戦トッティ、カッサーノらローマとのアウェイをアンリのハットトリックでさい先よく勝利、バレンシア、アヤックスら前年国内を制した3チームによる死のグループと呼ばれたなか4戦引き分け、最終戦メスタージャでのバレンシア戦に臨む。引き分けでも突破のなかヨアンカリューの2発に沈み、3位で2次リーグ敗退となる。

03-04 ベスト8

のちに無敗優勝を達成するこのシーズン、CLではグループステージ(インテル、ディナモキエフ、ロコモティフ)で開幕3戦を1分け2敗で敗退寸前、第4戦ハイバリーでのディナモキエフ戦終了間際アシュリーコールのゴールでからくも1-0勝利、息を吹き返す。続くジュゼッペメアッツァでビエリ、カンナバーロらインテルを5-1で下すと最終戦も勝利しグループステージ首位通過を決める。ベスト16モストボイ要するセルタをスイープ、ベスト8でチェルシーと対戦。クラウディオラニエリには過去1度も負けてないなか初戦アウェイを順調に引き分け、2戦目ハイバリーで先制するも後半立て続けに失点、終盤のウェインブリッジに沈みベスト8敗退。

04-05 ベスト16

グループステージ首位通過を決めたローゼンボリとの最終戦、セスクファブレガスがアーセナルのCL最年少ゴールを記録(17歳217日)。ベスト16でバイエルンに敗戦。初戦アウェイでコロトゥーレのミスからクラウディオピサロに決められ1-3勝負の大勢は決する。(2戦目はハイバリーアンリのゴールで1-0勝利)

05-06 準優勝

ハイバリーラストイヤー。ジダン、ロナウド、ベッカムら銀河系と呼ばれたレアルマドリー、ネドベド、若きイブラヒモビッチ、この年加入したヴィエラらのユベントス、リケルメ擁するビジャレアルを下し初の決勝進出。負傷者が続出し急造のディフェンスラインで守備的に戦ったことが功を奏し決勝までの6試合でクリーンシート達成。その立役者レーマンはバルセロナとの決勝の舞台でいきなり退場。(交代を強いられたピレス、そのピレスに突然先発を奪われたレジェス両者にしこりを残し退団となる。)数的不利のなかセットプレーからソルキャンベルが決めて先制。ゴール前をさらに固めロナウジーニョが沈黙するなか、終盤にイニエスタ、ラーションら選手交代で流れを掴んだバルセロナに立て続けに2ゴールを許し惜しくも準優勝となる。

06-07 ベスト16

エミレーツスタジアムのデビューイヤー。グループステージ首位通過(ポルト、CSKA、ハンブルグ)、ベスト16PSVに敗れ敗退。同点で迎えたセカンドレグ終盤フレブが不用意に与えたセットプレーからアレックスに決められた。

07-08 ベスト8

ティエリアンリが抜けて若手主体となったチームはベスト16でディフェンディングチャンピオン、カカー、ピルロらを擁するミランを圧倒。ベスト8リバプールとはリーグ戦を含めてタフな3連戦となり、国内リーグの優勝争いもかさなり選手層の不足を露呈した。アンフィールドでのセカンドレグ1-2ビハインドのなか84分にティーンエイジャーのウォルコットがカウンターから独走、この時点での勝ち抜け弾をアシストしインパクトを残した。その直後の2失点でベスト8敗退となる。

08-09 ベスト4

ベスト16セスクが欠場するなかオリンピコでのPK戦を8人ずつ蹴って制しローマを撃破。続くビジャレアルエルマドリガルでアデバヨールがオーバーヘッドを決めドロー、ホームで圧倒しベスト4に進出する。ベスト4ではCロナウド擁するマンチェスターユナイテッドに圧倒され敗退。

09-10 ベスト8

グループステージ首位通過(オリンピアコス、スタンダール、AZ)、ベスト16ポルトをホームで5-0撃破する。ベスト8でバルセロナと対戦、カンプノウでメッシの4ゴールに沈む。

10-11 ベスト16

グループステージ、エドゥアルドダシルバがシャフタールの一員としてエミレーツで凱旋ゴール、暖かい拍手が送られた。ベスト16でこの年CLを制するグアルディオラ率いるバルセロナをホームで2-1撃破、勝ち越し点となったセスクのカウンターからナスリの切り返し、アルシャビンのゴールにエミレーツは揺れた。迎えたセカンドレグ先制を許すも後半相手OGで1-1とした直後、オフサイドとなったファンペルシがシュートを放ちこれが遅延行為とみなされ2枚目のイエローカードで退場、アーセナルリードとなった直後の厳しい判定とすでにイエローカードをもらっていたファンペルシの不注意な行動が物議を醸した。その後1-3となりベスト16敗退。

11-12 ベスト16

ベスト16サンシーロでイブラヒモビッチら擁するミランに0-4の敗戦を喫する。迎えたセカンドレグ、ロシツキーのゴールなど前半で3-0とするも一歩及ばず敗退。ファンペルシのゴール前のチップキックは決まらなかった。

12-13 ベスト16

ベスト16でこの年CLを制するハインケス率いるバイエルンをホームに迎えるも1-3で敗戦。アリエンツアレーナでのセカンドレグ開始早々に先制ゴール、終了間際に2-0とするも一歩及ばずアウェイゴールにより敗退。

13-14 ベスト16

ドルトムント、アーセナル、ナポリが勝点12で並ぶが(マルセイユが勝点0)得失点差によりグループステージ通過。ベスト16でバイエルンに敗退。ヤヤサノゴがスタメン出場した。

14-15 ベスト16

ベスト16モナコとのホームゲームを1-3で敗戦。コンドグビアのミドルシュートから0-2ビハインドのなかオックスレイドチェンバレンがロスタイムに得点するもその後不用意なボールロストから決定的な3失点目をカラスコに許す。セカンドレグを2-0で勝利するもアウェイゴールにより敗退。

15-16 ベスト16

ディナモザグレブ、オリンピアコスに開幕2連敗後ホームでバイエルンに勝利、最終戦直接対決でオリンピアコスを下しからくもグループステージ通過。ベスト16でバルセロナに敗退。カンプノウでは若いイウォビをスタメン起用、冬に加入したエルネニーがゴールを決めた。

16-17 ベスト16

パリSGを抑えてグループステージ首位通過。ベスト16バイエルンにアウェイで1-5の敗戦。迎えたホームゲームでも1-5、2戦合計2-10。のちにチャンピオンズリーグ出場権を逃すが幕切れのような象徴的な敗北となった。


アーセナルがチャンピオンズリーグの優勝経験が無いなかでも欧州の強豪のひとつに数えられる(たとえばスーパーリーグ構想の初期メンバーや資産価値ランキングなど)というイメージは近年のCL19年連続出場(マドリー、ユナイテッドと3チームのみ)が大きい。これはクラブにもたらす収益というもの以上にクラブのイメージに与える影響が大きい。近年プレミアリーグのチームは莫大な収益を得ている。そのぶん競争は激しいが、少なくとも定期的にでも欧州最高峰の舞台に参加することはクラブの継続的な発展に必要不可欠である。

アーセナルは2000年代前半にトップレベルの選手を揃えて魅せたスキルフルで攻撃的なサッカーがグローバリゼーションの時期と重なって世界的な人気クラブとなった。この時期は優勝した強豪クラブに優るとも劣らない戦力を備えていたという意味ではヨーロッパのタイトルをもっと緻密に狙っていくこととの戦略的、戦術的ジレンマがあった。
一方で2010年代以降は7年連続ベスト16敗退で逆に勝負弱さを印象付けることとなった。

近年なかなかチャンピオンズリーグで好成績は収められなかったが、過去の戦績からいってもクラブはイングランドの古豪から世界的な強豪へと飛躍を遂げたのである。もしある時期にクラブが列車に乗り遅れていたら、今とはまったく違ったものであっただろう。プレミアリーグも違ったものであっただろう。私たちはその恩恵にあずかっているといっていい。またその期間に堪能した喜びや失望といった感情は、ひとつひとつが思い出でありそれだけでも素晴らしい。もちろんそれにタイトルが加われば言うことはない。


アーセナルが獲得しているヨーロッパタイトルは、69-70インターシティーズフェアーズカップ、93-94カップウィナーズカップの2つである。

69-70 フェアーズカップ優勝 

フェアーズカップ決勝はアンデルレヒトとホーム&アウェイで対戦。初戦アウェイを1-3で落とすも、ホームで3-0勝利。クラブ初のヨーロッパタイトルを獲得。

93-94 カップウィナーズカップ優勝 

前年CWCを優勝したパルマと決勝で対戦。スカラが率いゾラ、ブロリン、アスプリージャらを揃える。92-93ミランの58戦無敗を止めたチームでもある。イアンライトが出場停止により先発したアランスミスがボレーを沈め1-0で勝利。


カップウィナーズカップは前年の国内カップウィナーが参加(イングランドではFAカップ)、インターシティーズフェアーズカップは前年の国内リーグの上位クラブが参加、71-72からUEFAカップに名称変更され、99-00からCWCがUEFAカップに統合され、2010からヨーロッパリーグに名称変更した。

90年代以降ヨーロッパタイトルに近づいたのは、チャンピオンズリーグでは上記05-06シーズン。ヨーロッパリーグでの18-19シーズン、UEFAカップ99-00シーズン、カップウィナーズカップ94-95シーズンである。

94-95 カップウィナーズカップ準優勝

2シーズン続けてCWC決勝進出、ケアテイカーのスチュワートヒューストンが率いレアルサラゴサと対戦。エスナイデルのボレーに沈み、同点に追いつくも延長でシーマンが頭上を破られ1-2で敗戦。

99-00 UEFAカップ準優勝

UEFAカップ決勝でガラタサライにPK戦のすえ敗退。延長戦でアダムスがゲオルゲハジを退場に追い込むもタファレルの活躍もあり準優勝に終わる。

18-19 ヨーロッパリーグ準優勝

アゼルバイジャンのバクーで行われたEL決勝でウナイエメリ率いるアーセナルはチェルシーに1-4で敗戦。国内リーグ5位に終わりCL出場権のかかった試合で、古巣相手のジルーにゴールを許した。試合前には政治的な理由で開催地に入国できなかったムヒタリアンに対して、クラブは十分に寄り添っただろうか。もしかしたら試合以前にこの時期のクラブの体制は問題を抱えていたといえるのかもしれない。


また93-94CWC優勝にともない翌94スーパーカップでミランと対戦。前年CL決勝でドリームチームと呼ばれたバルセロナを4-0で下したミランはバレージ、マルディーニ、ドナドーニ、サビチェビッチ、ボバンらが出場した。ホーム&アウェイで行われ0-2で敗退、タイトルを逃している。

普段応援しているチームが、クライフやカイザー、ジタンやロナウド、フィーゴやリバウド、ロナウジーニョ、バティストゥータ、サビチェビッチやメッシなどスーパースターとの対戦、本拠地ハイバリーやエミレーツスタジアムに迎えるワクワク感はヨーロッパ戦の醍醐味ともいえる。


かつてはチャンピオンズリーグの常連で常に決勝トーナメントに進出し、ELに参入してこなかったアーセナルの規模からすると2つのタイトルだけでは正直物寂しい印象がある。もちろん2つのタイトルはクラブの誇りであるし、近年はELも勝ち抜けていない。そこに至る苦労は想像に難くない。
チャンピオンズリーグタイトルの獲得はクラブの悲願といっていいだろう。

23-24シーズン、16-17シーズン以来のチャンピオンズリーグ出場となるミケルアルテタ率いるアーセナルの活躍に期待したい。


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