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淡紅藤のひと

広場からの帰り道

帰り道を30秒ほど歩いていたところ、淡紅藤のひとが足が痛いといい、救護車に乗ろうと提案したところあっさり拒否された。私の手をぎゅっと握り、歩いて帰る、でもゆっくりしか歩けないけど、と言う。
・・・こういう時は子どもが聞いてほしい話しがある時だ。でもこの子は私が担当するクラスの子ではない。私と同じ支援員がいるのになぜ私に頼ってきたのか・・・

握った手をずっと離さない。歩いている間一定の力で私の手を握る。・・・なんだろう、この圧迫感。淡紅藤のひとは、何を私に話すのか・・・

  • そういえばさ、いつも遅れてくるけど何か理由あるのかな?との問いに、うん・・・カウンセラーの先生が人が多くてうるさい時間に登校するのが難しいなら、少し時間をずらして登校してみよっか、と言われたから。

大勢のひとがいると心がざわざわする。うるさい声も笑い声も・・・きらい。

  • ・・・そっか。お家の人はそれでいいって良いっていってるんなら良かったね。と返すと、私のお父さん〇〇にいるんだ。そこには兄弟夫婦がいて、あやちゃんがいるんだ。まだあやちゃんは3歳。私あやちゃんに会えるのを楽しみにしているんだよ。お父さんの家に行ったときにいっつも一緒に遊んでる。

  • ん・・・淡藤紅のひとのお父さんとお母さんは別々に住んでいるんだね。でも〇〇にいるんならいいね。

私が赤ちゃんの時にお父さんとお母さんは離婚したんだ。だから私は記憶がない。

  • え・・・離婚って言葉知ってるの、だってまだ・・・〇才だよね?との問いに、明確に淡紅藤のひとは、知ってる、と答えた。

  • お父さんがいる、〇〇という所は、私の友達でお医者さんがいるよ。あそこさ、ゆめタウンあるよね?いつかそこに行きたいと思ってるんだ。だけど、会う時は博多とか天神なんだよね。〇〇のゆめタウンって、うちらが住んでるゆめタウンとどう違うの?と言うと沢山教えてくれた。ほんとありがたい。話は尽きることなくいっぱいお話した。

お母さんは、お母さんの兄弟が経営している会社で仕事してる。最近は〇〇島に行って来てお茶買ってきてくれたよ。と水筒を取り出し匂いをかがせてくれた。時間が経っていて匂いはしなかったが、淡藤紅色のひとにとって愛情を感じるのだろう。

淡紅藤のひとはお父さんとまた会えると楽しみにしている。誕生日に。お父さんの家に行ったときにいつもゆめタウンで買ってくれるという。でも誕生日に何を買ってもらうか決めていないらしい。
 色々話していて沢山の集団が私達を追い越していく。中には目配せする教員や子ども達もいた。でもみんな私達を静かにスルーしていく。後に同僚が、淡紅藤のひとがNさんから離れなくてぴったりくっついているから何やらあるんだろうな・・・って思ってたと教えてくれた。

うん。そうなの。わかった?ずっと一定の力で私の手を握って話さないんだ。あの子は多分いろいろ抱えてる。でもそれを自覚できてない。無理もないね、まだあの年だしさ・・・

家族の事聞いている間、時々、雲が太陽を隠す。それで明るくなったり暗くなったりする。その度に、ほら今暗くなった・・・雲が流れたから太陽の光で地面が明るくなった、と始終言っていた。その間もずっと一定の力で私の手を握っている。・・・何だか悲しくなってきた。

結局学校にたどり着いたのは最後だった・・・幸い勤務時間内だったので良かった。学童に連れていき、遅くなった説明をし引き渡し完了。
 責任者はどうして遅くなったのか尋ねた、理由を説明すると納得してくれた。本当にお疲れ様、と労ってくれた。
 職員室に戻ると管理職が即行駆け寄ってきて、遅くなりましたね、色々対応ありがとうございます、休憩もなかっただろうからもう帰ってもいいですよ、とほほ笑んでいた。

私は考えてみる。なぜ淡紅藤のひとは始終力を弱めることもなく私の手を握ったのか。あの年齢にしちゃ長すぎるし強すぎる。もっというと、夫とラブラブであったときでさえそんな事はなかったwww。今はラブラブでもなく単なる同居人だけれどww
答えはないのだろう。だけど、私なりに答えを出してみる。

淡紅藤のひとにとって、お父さんと会える楽しみの時間は、最後にあった日から始まり、会える日までつづく。会えたらまた次会えるまでお父さんを待つ時間になる。時間というより、季節が変わっているので、お父さんと会える日を待つ季節、といった方が正しいかもしれない。
 淡紅藤のひとは、終始、しあわせだと言っていた。・・・幸せなのになぜ私に家族のことを話し、強く手を握ったのか・・・
淡紅藤のひとは、心の底で、お父さんと会える約束したものの、いつか破られる日が来るかもしれない、そうしたらあやちゃんにも会えなくなる、お世話したいのに出来なくなる、そんな日が突然やってくるかも知れないという事を感覚的に察知しているのかも知れない。そしてそれは本当に淡紅藤のひとの家族がバラバラに違う方向に向かっていく、そして二度と会えなくなるという事を感覚的に分かっているのかも知れない。

そのXデーはお父さんかお母さんの再婚だろう。今のところその影はないが、大人は巧妙に隠す。いつか突然その日が来るのかもしれない。

たくさんのもしもを持つのなら
私の心はそのとき
喜びが散らばり始める
あなたへと繋いでて

一青窈 つないで手

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