いつかはクラウン

　車庫を新しく作った。
「いつかはクラウン」とあの究極のＣＭに憧れ、あえて大きめの車庫を作った。
堀車庫なので、当時、結構高くかかった。
しかし、あれから何十年経ったろうか。いまだ、その車庫に入っているのは、中古の軽自動車である。
「この車庫を作らなかったら、クラウンはとうに買えてたんとちゃうの？」
と、誰かが言う。
　確かに。いつまで経っても、本物のクラウンは入ってきそうにない。
広すぎる空間の中に、不釣り合いの小さな軽自動車が、ポツンと鎮座している。
「クラウンと同様、タイヤも４本、ハンドルも１個ある。アクセル踏めば、前に進むし、ブレーキを踏めばちゃんと止まる。なんらクラウンと変わらないんと違う？」
「車内が狭いだろ」
「狭い？子供が立っても大丈夫だし、クラウンより背は高いでしょう」
「ドアの開閉音が違うよ」
「聞こえないふりをすればいい」
「シートの座りごごちが全然違うよ」
「ニトリで高いクッション買ったらいいのに」
「フロントパネルが洗練されているし、軽とは全然違う」
「色々な機能ついてても、操作わかんないでしょう？」
「・・・・」
「あのな、そもそも排気量が違う。アクセルに足を乗せるだけで、急加速するが、この軽は思いっ切りふかしても坂道を上がらないんだよ！」
「そんなに急いでどうすんの。ゆっくり動くだけでいいんじゃない？」
「とろとろと遅いと煽られるんだよ！」
「まあ！それこそこっちの思う壺じゃない。撮影して投稿できるわ！」
 　
「あのう、、明日から、この軽をクラウンと呼ぶことにするわ」
　こうして、やっと念願のクラウンが車庫に入ったそうな。
　車は相変わらず軽のままだけど、、、