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ラブライブ!flowers*を読んで

注意!この記事は「ラブライブ!flowers*」単行本1巻のネタバレを含みます!

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皆さんお久しぶりです。初めましての人は初めまして。蓮ノ空のこと好き好きクラブのかまぼっこです。

先日、「ラブライブ!flowers*」の単行本1巻を読んだので、今更ながら感想を記事にしました。

ネット上の評価が非常に高い本作。先日の2nd Live Tourで披露された6人ver.のDEEPNESSはこの漫画の文脈を汲んだものでした。スクリーンにデカデカと漫画のカットが表示される様は圧巻の一言。

そんなわけで、もはや蓮ノ空のこと好き好きクラブのみなさんにとって必読の一冊といってもいい本作ですが、私の感想は「若干の物足りなさはありつつも、作者の愛と気合が感じられる良作」というものでした。

私が読んでみて感じた良かったところと気になったところを語らせて頂くので、よろしければお付き合いください(筆者は連載版を読んでおらず、単行本1巻の範囲の内容しか知らないことをご留意ください)。

良かったところ

1. 非常に難しいことにチャレンジしている点

私は絵心ゼロの雑魚ですが、仮に漫画家だったとしても、蓮ノ空のコミカライズの話を持ち掛けられたら引き受けないと思います。なぜなら、蓮ノ空のコミカライズは非常にハードルが高いからです。

蓮ノ空のシナリオは長尺ですが、無駄なシーンがあまりありません。ボリューミーかつ高密度という凄まじいシナリオを漫画の尺に収めるのは難しい……というか不可能だと思います。そんな難題に果敢に挑んでいる時点で尊敬に値するのに、漫画オリジナル展開まであるのは脱帽です。

クオリティの高いシナリオを改変するのはプレッシャーが大きいでしょうし、尺はゲームより遥かに短いという制約付き。そのような条件下で破綻のないシナリオを書き上げているのは見事という他ありません。


2. さやか視点で物語が始まる点

ここからは細部について語りたいと思います。

まず、花帆ではなく、さやか視点で物語が始まったので、初っ端からゲームシナリオと異なっており、ワクワクさせられました。掴みはバッチリです。ラブライブ!flowers* を読んだ感じ、つむみ先生は明らかに「さやかほ」推しで、愛を感じられたところも良かったです。


3. 花帆が蓮ノ空を誤解していた理由が補足されている点

花帆が蓮ノ空について誤解したまま入学してしまった理由について説明が与えられていた点も良かったと思います。ゲームシナリオではこの理由についてあまり説明されておらず、「これから3年間を過ごすことになる全寮制の学校についてリサーチしないことなんてあり得る?」と不自然に感じていたので、漫画内で説明を与えられていて少しすっきりしました

まあ、「蓮ノ空」と「蓬ヶ原」を勘違いしていた、という説明も無理がある気はしますが、それでも「花帆の勘違いが不自然」ということに目を付ける着眼点の鋭さとそこに説明を与えようとする前向きな姿勢は素晴らしいと思います。


4. スクールアイドルとの出会いを劇的に描いている点

ゲームシナリオでも花帆とさやかは梢のステージと綴理のステージを目にしていますが、そのシーンは割と淡々としています。ライブの楽曲が流れているわけでもなく、梢も綴理も静止画で、花帆とさやかのリアクションも普通の感動の範疇に収まっています(さやかは一応衝撃を受けていますが)。

一方、ラブライブ!flowers* では、スクールアイドルとの出会いによって花帆とさやかが受けた衝撃をよく描いており、一発で運命的出会いだということが読者に伝わるよう書かれていました。


5. 場面切り替えの小回りが利く点

例を挙げると、26ページのさやかが花帆に蓮ノ空の名所(?)を案内するシーンや、63ページのステージ作り・歌詞作り・衣装作りのシーン、124ページの特訓シーンなどです。

一コマごとに全然別の場所・時間を次々と切り替えていけるのは漫画ならではの表現だと思います。ゲームだと背景やモーションなど、一場面ごとの制作コストが高いので、あまり目まぐるしく場面切り替えできません。

ゲームでは表現されないような細かいシーンを漫画で描写して貰えるのは、ファンとして嬉しいです。


6. 花帆がスクールアイドルに惹かれている描写が丁寧な点

花帆がスクールアイドルクラブのマネージャーとして活動する期間、一人でこっそり踊る描写が2回あったり、夢見ていた女子高生らしい放課後を過ごしても満たされなかったり、とゲームシナリオとは別の形でスクールアイドルに惹かれていく様子がしっかり描かれており、土壇場のスクールアイドルクラブ加入も違和感なく読めました。

また、AWOKEの歌詞が花帆の心に刺さる描写もニクかったです。ゲームシナリオではライブシーンがないので、ライブシーンを描ける漫画ならではの表現でした。こういうの本当好き。


7. 水彩世界の文脈を補強した点

ゲームシナリオにおける水彩世界は、梢が新入生歓迎会のために作った曲であり、花帆の初ステージで披露された曲です。

ラブライブ!flowers* においても似たような位置づけではありますが、「梢が花帆を意識して作った曲」という文脈が足されており、より味わい深くなっています。AWOKEの歌詞の引用のときも思いましたが、ラブライブ!flowers* は曲やその文脈を大切にしていると感じます。


気になったところ

1. 梢がただのお姉様になっている点

ゲームシナリオにおいて梢は様々な表情を見せてくれるキャラクターで、その多面性やギャップが魅力の一つです。

漫画でも、絵心がないところや機械オンチなところを描写していますが、これらの要素は表面的な属性に過ぎないんですよね。

ゲームでは梢の人間性の部分で、彼女の気高さと不器用さを表現していました。

活動記録第1話において、梢が家族にしっかりと意思表示してスクールアイドルの道に突き進んだ経緯が語られていました。梢の意識の高さや意志の強さ、スクールアイドルへの並々ならぬ想いが伝わってくる良いエピソードで、お姉様然とした彼女が実は熱い人物だったということを印象付けられます。

その後の第2話では、花帆の指導方針について梢が頭を悩ませる様子が描かれ、彼女の不器用さが垣間見えました。「花帆本人に指導方針を相談してせっかくの楽しみに水を差したくない」といった思いやりなど、慣れないながらも花帆のことを考えるシーンが好きです。完璧超人のように見えた梢が、人並みに悩みながら手探りで花帆の指導方針を模索する様子に人間味を感じました

これらのシーンは漫画では描かれていません。漫画の尺では描ききれなくて泣く泣くカットしたのかもしれませんし、私のまだ読んでいない1巻以降の範囲で梢の人間性に関する描写が補完されるのかもしれません。

ただ、梢という非常に魅力的なキャラクターを丸々一巻分遊ばせておくのは勿体ないと思います。


2. 綴理の鋭さが感じられない点

ラブライブ!flowers* では、表現力の課題にぶつかっているさやかに対し、綴理が"特訓"と称して好みを聞いたり、着ぐるみを着せたりしました。しかし、それだけであれば最初から「さやはさやでいい」と伝えれば済む話だと思います。

加えて、「自分らしくやればいい」と口で言うのは簡単ですが、そう言われて解決するのなら、さやかも苦労しません。結局、漫画ではさやかのスランプが割とあっさり解決してしまいますが、これでは長いこと悩んでいた彼女が馬鹿みたいです。

「いやいや、ゲームの綴理もさやかを近江町市場に連れて行ったり、回りくどいことをしていたじゃないか。」

というご指摘もあるかもしれません。しかし、ゲームシナリオにおいて綴理がさやかを近江町市場に連れて行ったのは、アドバイスを言語化出来なかったからでしょうか?あるいは、かつて先輩にしてもらったことを猿真似しただけでしょうか?

答えはノーです。

綴理はかなり明確な意思を持ってさやかを近江町市場に連れて行っています。

改めて考えてみると、この行動はさやかの悩みを解消する上で非常に効果的だったと分かります。なぜなら、お店の手伝いを通してさやかは自分を応援してくれる人と触れ合い、表現を伝える相手のことを意識するようになったからです。

表現というのは突き詰めれば「伝える行為」です。伝える相手を意識しない表現は形だけの中身のないものになってしまいます。

伝える相手を意識し、「何を伝えるか」「どう伝えるか」ということに思いを巡らせれば、自分らしい表現というものは自ずと生まれます。接客を通してさやかは狭まっていた視野を急速に広げ、無意識のうちに自分らしさを出せていました

「さやかを近江町市場に連れていく」という綴理の一見不可解な行動は、さやかが自分らしい表現を見つけるための実践トレーニングになっていました。「自分らしくやればいい」とアドバイスするだけよりも、余程効果的です。

勿論、綴理が最初から全てを計画していたわけではないと思います。自分でも言語化出来ていない部分はあったでしょう。それでも、他人が求めるものが何となく分かる直感の鋭さや感性の鋭さは綴理の持ち味です。

こうした綴理の"鋭さ"が漫画版の綴理からは感じられなかったのが少し残念でした。さやかを近江町市場に連れていかないのはアリだと思いますが、それなら彼女の視野を広げ、自分らしい表現を模索できるような体験で代替してあげて欲しかったです。


3. 花帆が少女漫画的過ぎる点

綴理から突き放されて落ち込むさやかを、花帆が慰めるシーン。ゲームと同じシチュエーションが漫画でも描かれました。ただ、その印象は大幅に異なります

漫画の花帆は、ワガママに突き進む自分を例に挙げ、「もーっとワガママになっていいよ!」と元気よくさやかの背中を押します。

一方、ゲームの花帆は、さやかに対して具体的に「〇〇したら良い!」とは言わずに、綴理やさやかの姉の心情について自分の想像を伝えるに留め、彼女の再起を見守っていました。このシーン以外にも、さやかのお店手伝いを見に来たり、スケートで無理していないか確認したり、気遣いが垣間見えるシーンが多々あります。

自分は成長していない、と吐露するさやかへの一言。さやかの言葉自体は安易に否定せず、花帆視点での感想を伝える。
さやかを心配して近江町市場まで来た花帆。最初は遊びに来ただけの体をとっていた。押し付けがましくならないよう気遣いながら、しっかりさやかを見守りに来ていて姉ポイント高し。
さやかがオーバーワークになっていないか心配し、わざわざ迎えに来る花帆。問題が起きてからではなく起きる前から、自発的に動いているところに面倒見の良さが表れている。

前向きさとは別の、優しさや気遣い、包容力といった資質が日野下花帆という少女に奥行きを与えています。個人的思想ですが、彼女にこうした資質があったからこそ、「さやかほ」は成立していると思っています。

しっかり者な反面、意外と視野狭窄に陥りがちなさやかと、猪突猛進なタイプでありながら他人のことは俯瞰的に見られる花帆。非常にバランスの良いコンビです。ただの元気っ子と真面目ちゃんがキャッキャしているのとは一味違います。

漫画の花帆の対応も、花帆らしいとは思うのですが、1巻全体を通して花帆が「少女漫画の主人公」の枠を飛び出ない印象です。極論、ラブライブ!flowers* における花帆の人柄を説明すると「少女漫画の主人公」の一言で済んでしまいます。

花帆に限った話ではなく、ラブライブ!flowers* の登場人物たちは皆、キャラクターっぽく見えます。ポジティブガール、お姉様、真面目ちゃん、不思議ちゃん……少女漫画のキャラたちが集まってスクールアイドル活動をしているような。

とはいえ、漫画の尺でゲームシナリオのようにキャラの多面性を描くのが困難であることもよく分かります。私が高望みし過ぎなだけかもしれません。


4. 百合表現が露骨な点

これは完全に私の好みの問題なので、悪い点ではありません。良い点と感じる人もいるでしょう。

ラブライブ!flowers* はゲーム以上に百合エンジン全開です。物語が始まって早々に、転び掛けたさやかを花帆が助けようとし、二人で抱き合う展開になります。

「さやかほ」に限った話ではなく、ユニットメンバー同士でも、頬を染めるシーンや背景に花が咲くようなシーンが随所にあります。

ラブライブ!flowers* がファンメイドの二次創作であれば「好きにやってください」としか思わなかったでしょうが、公式出版物として考えると、「ちょっと表現が露骨過ぎるかな」と感じました。

ゲームでも百合を連想させるシーンは多いですが、あくまでも「連想させる」だけであって、決定的な表現にならないよう気を遣っている様子が見られます。素材を提供してくれるだけであって、料理を提供するわけではないというか。

そんな絶妙な塩梅の表現を見て、思わずニヤリとさせられるのが好きだったんですよね。「運命的な出会い…!」「抱き合う二人…!」みたいなのは、ちょっと違うというか。

梢から「花帆」と呼ばれ、付き合い立ての彼女のような反応をする花帆。決して付き合ってはいない(103期活動記録第16話PART1)
夜遅くまで逆さまの歌探しを手伝った結果、慈から問い詰められた瑠璃乃。決して浮気をしたわけではない(104期活動記録第1話PART17)

あと、漫画の梢は花帆をクラブに勧誘する際、「あなたに一目惚れしたみたい」と冗談とも本気ともつかない言葉を囁きますが、これは流石にちょっとやり過ぎかなと思いました。

確かに梢は花帆大好き星人ですし、ゲームでも初対面の花帆に対して遭難ジョークをかましていましたが、それでも初対面の下級生相手に挑発的なアプローチをかけるとは思えないんですよね。あくまでも私の解釈ですが。


まとめ

惜しい点もありましたが、漫画の短い尺の中に物語が破綻なく収まっており、漫画版蓮ノ空としては十分なクオリティだったと思います。

特に、オリジナル展開を描いている点には、回転拍手を送りたいです。1巻の時点ではゲームの世界線とそこまで大きくずれていませんでしたが、2巻以降、物語はどんどん未知の方向へと突き進んでいくことになるでしょう。それが今から楽しみです。

また、1巻で水彩世界に新たな文脈を加えたように、既存の楽曲に新設定・新解釈を加えてくれることも期待しています。

ラブライブ!flowers* の益々の躍進を願って、この感想記事を締めたいと思います。お付き合い頂きありがとうございました。


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