マザコン(序章みたいな)

最近の僕は僕じゃなかった。いつからか僕を動かすコントローラの照準はズレていっていたようで、気がつけば僕の思考と行動はどう足掻いても目指すべき正当性にピントを合わせられなくなっていた。ようやく僕自身が壊れているということに気がついてから、厳密には僕自身が僕は壊れていると認めた時から、僕は僕の体が好き勝手行動しているのを眺めることしかできなくなった。無力感の中で、僕は僕よりずっと手に負えない子供になってしまったかのような感覚を抱いていた。

 子供になった僕はある日、眠る母の体に何度も刃物を突き刺した。刺したところから母の体液が噴き出して布団に滲み、布団から飛びだした羽毛はフワフワ僕の視界で舞ってから赤く染まっていった。その情景は天使の羽が舞っているようで、まるで天使が母の魂を迎えにきたようだったし、母の鈍い呻き声は苦しみのない世界を前にして漏れでた歓喜となった。
 気がつくと息は上がっいて肺が締め付けられるように痛んでいた。吸う息に合わせて喉から迫り上がるように鉄の味がし、壊れてしまいそうなほどに心臓のポンプは空回りしていて、不安を助長した。僕は悴む手先をぐっと握った。それから母を布団の片側に寄せて、母が眠るその横に入り込んだ。母の血が冷たく僕を濡らしたけれど、布団の中の母の体温の名残りと母の香りを感じて、僕の心は柔らかくなっていった。動かなくなった母の後頭部をじっと見ながら、体が温まっていくのを感じた。僕は血まみれの手で自分の頭を支えた。それから足を布団の中で折り曲げて、そしたら母を自然と蹴ってしまったから母は少し布団から飛び出たかも知れないけど、お構いなしで僕は眠ってしまった。

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