隠れた名作フリーゲーム『クビキリ』。ホラーを通して描かれる人間性。
く ノスタルジックホラー。
※注意
若干のネタバレを含みます。
気になるかたや、N.K.を信じてくださるかた(いねーよ)は、ぜひダウンロードしてやってみてください。
そのおもしろさに反して認知されていない作品がある。
いわゆる隠れた名作とか埋もれた作品とか呼ばれるヤツだ。
それはまあ、知る人ぞ知る的なある種の優越感、
「みんな知らないけど、俺はこの作品の良さを知ってる」
をもたらしたりする。
それはそれで良いが(作者的には良くないかもしれないが)、DL数やコメントが少ないと
「こんな良い作品なのになー……」
と、少々さみしいような気持ちになるのも事実だ。
まあ、究極的にはレビューなんて他人の評価に過ぎない。
話題作りのために押さえときたいとかいう理由でもなければ、
てめーが遊んでおもしろいかつまんねーか
という価値基準が絶対正義である。
時間は有限だから、ヒット率を上げたいという意味では有益性はある。
個人的にはハズレ(酷い言い方だが)を引くのもある意味楽しみのひとつではないかとおもうが、昨今の倍速視聴問題(本当に問題かどうかは論じない)を鑑みると時代だなあというおっさんのテンプレ感想で落ちがちだ。
だから僕は、自分でやってみておもしろかった作品を自分というサンプルひとつの信憑性レベルで「名作」と勝手にラベリングして発信する。
正直、評価なんて言ったもん勝ちみたいなところがあるんじゃないかとおもう。
自分が平均的な感性、価値基準を持っているとおもうなら、母数の大きさは当てになるだろう。
レビュアーの評価基準(簡単に言えば好み)が自分と近似であるなら、主観ひとつでも信頼度は高いと言える。
むしろ混じり気がない分クチに合う可能性は高いとすら言える。
(故に個人レビュアーは自分の評価基準を明示しておいたほうが親切とおもう)
脱線した。
ホラー好きの僕がオススメしたいフリーノベルゲーム『クビキリ』の紹介をする。
微ホラーと書いてあるが
ふつうに怖いです。
あれ、僕だけですか?
めっさ怖かった。
いや夜にひとりでプレイしてみてくださいよ。
うしろ気になるから。
主人公は中学生グループのひとりの男の子で、卒業を控え仲の良い友達がバラバラになってしまうこと、将来に対する漠然とした不安を抱えて過ごしているという入り口。
そんな中、突如あらわれるハサミを持った幽霊が現れる。シザーマンか。
首を刈る怪異から逃れる方法はひとつだけ。
友達の名前を呼ぶこと。
これがおおまかな話の概要である。
あんまり怖くないと制作側はいっているが、幽霊であるクビキリ、かなり怖い。
幽霊系特有のふいうちエンカウントが怖すぎる。
うしろを向いたら
な、なんだとおおおおおッ!?
と、スタ○ドと見紛うインパクトだ。
ビジュアルもけっこー怖い顔してる。
みんな怖いってレビューしてないけど、ホントにこわくないの?
N.K.はマウスを持つ手が震えてました。
怖がりですので。
チキン野郎がホラー作品楽しむ一番の資質だよなあとおもう今日この頃。
オカルトホラー系作品でのストーリープロットのスタンダードとして、
・変死体が見つかる(まだ他人事)
↓
・主人公の近親者が犠牲に(不安)
↓
・犠牲者が増えていく(焦り)
↓
・幽霊(呪い)なので成仏(解呪)させて解決しようという流れになる
↓
・故人のルーツを探るパート
(生前の様子や出生、呪いの起源など)
↓
・解決策で生存
↓
・実はまだ……オチ
というパターンをしばしば見かける。
特にジャパニーズホラーといわれるものは比較的その傾向を感じる。
フリーゲームでホラーが流行った頃にも、和風や現代日本を舞台にしているとこの手の流れを良く見た。
原点がどこかは置いておいて、1ジャンルの派生した様式として定着していたのだろう。
フリーノベルゲームでも現代日本で幽霊を扱うとそういった流れのものはあるが、ご多分に漏れずこの作品もその筋をなぞっていくこととなる。
ホラーやサスペンスといった作品は、生命の危機が常に隣り合わせであるため緊張感が維持されることが多い。
長編やテキストメインのノベルゲームでよく批判される冗長さや中弛みを緩和するため相性が良いジャンルだと感じる。
対極として日常系があるが、ホラーは「いつくるか分からない(特にオカルト系)」という不安感から日常シーンすら油断ならない。
日常と非日常という対比効果もありながら、いますぐにでも失われるかもしれない日常は尊さすら感じられる。
また脱線した。
この作品はオカルト系ジャパニーズホラーとしての典型の流れを汲んでおり、クビキリや過去にまつわる出来事といった掘り下げやフレーバーはしっかり成されており完成度は高い。
そういったタイプのホラーが好きなかたなら、充分満足できるだろう。
そして、その魅力は純粋なホラーに留まらない。
個人的に最も好きなのは、等身大の人物の心の機微だ。個人差があるとはいえ、みな年相応で各々進路に悩んでいるし、恋もすれば友人と離れたくないともおもっている。
そのあたりの空気感というか、あの年頃特有の先の見えない不安感のようなものが上手く表現されている。
ホラーというジャンルを通して描かれるホラーでないモノ。の記事でも書いたが、この作品でも非日常や生命の危険に際して、秘めたる想いが発露する。
そしてそれは、美しいものとは限らない。
この作品はホラーという形態を取っているが、その実ホラーを介して等身大の少年少女の繊細な心理描写も描いており読後感がエモい。
居心地の良い場所が時間の流れという不可避の現実により失われてしまうという大人への移行期間はクビキリという名の、ある種の通過儀礼を暗示しているようにもおもえる。
主人公は周囲との差を感じ戸惑う姿がその象徴として観るものに共感と懐かしさを呼ぶ。
その様はまさしく、ノスタルジックホラーともいえる読後感をプレイヤーに与えてくれる。
ホラーとしても、センチメンタルなヒューマンドラマとしても楽しめる隠れた(隠れてるよな?)良作である。
ぜひ、プレイして感想を届けてほしい。
作者さん、続編作ってくださいおねがいします。
noteで記事にするより人気チューバーに実況されたほうが認知されるんだろうなあ。
ごめんな無力で。(ボソッ)
※2024.4.16
画像リンク追加。加筆訂正。
※2024.2.20
初稿。
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