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名作フリーゲームノベル『親愛なる孤独と苦悩へ』

             魂は作品となり、時を越える。
   


フリーゲームでノベルをよく遊ばれるかたなら、おそらく説明不要とおもわれる。
同人ゲーム・オブ・ザ・イヤー2017年ノミネート作品であり、数々の部門賞を授与された同人ゲームである。
※現在、無償配布中のフリーゲーム

この作品は、心理カウンセラーである橘真琴とクライアントである相談者とのやり取りを描いた物語となっている。
章単位で物語が独立しており、都度変化するクライアント視点で物語は展開していく。


クライアントのひとりである内田 姫紗希。
教育実習生として悩みを抱えた彼女は、
ネットでとあるカウンセリングのサイトを
見つけるが……。


ノベルゲームは数多くあれど、中々にレアな題材だとおもわれる。

ノベルゲームは、ストーリージャンルとして『恋愛』が多い傾向にある。
これは、多くの人間が経験していることもあり、比較的描きやすいことが理由のひとつにあるだろう。

あとは学園ものも多い。
いちばん楽しい時期(とある人間にとっては真逆のケースもある)だからかもしれない。
とにかく、恋愛×学校は描きやすさと人気が高い。

フリーゲームだと需要=供給の図式は必ずしも言い切れないが、普遍的なジャンルであることは他媒体からも窺える。
(面白いかどうかはもちろん別だが)

対して、当作品のような専門性を有する題材は、造形が深くないとリアリティーという点でリスクがあり、制作上ハードルが高く結果的に数は少なくなりがちである。
迂闊に手を出そうものなら、○✕警察の格好のエサになる。SNSこわい。

いろんなタイプの物語を楽しみたいというプレイヤーにとっては、このレアリティーの一点で既に付加価値がある。

そして、単に珍しいというだけでなく、その中身においても実に丁寧に描写されている。

カウンセリング描写。
具体例を示し、
心理状態を分かりやすく解説している。


「え?    でも、心理学とかむずかしんじゃないの?」

とおもわれるかたもいるかもしれない。

だが、そこは安心していい。

この作品は『ノベルゲーム』であり、専門書でもなければ学術誌でもない。
あくまで、作品のテーマである『人が生きていく上での苦悩』を読み解くためのツールなのだ。

作中では様々な悩みを抱えた人物が自身の抱える問題と向き合っていくことを描写しているが、それをより分かりやすくするために扱われている。

言葉を言い換えたり、見方を変えたりして『自分自身ですらわからない自身の心』を手探りでカタチを確かめていく過程が実に丁寧に描かれている。

『まこっちゃん』こと、橘 真琴。
色鉛筆で描かれたような
暖かみのあるタッチのイラストも魅力のひとつ。


デフォルメの効いた親しみのあるキャラクターイラストも魅力。
テーマの性質上、重くなりがちな雰囲気を和ませており、クリックがつらくない。

こういった題材は物語が深くなるメリットはあるが、得てして重苦しくなり満足度が高いと分かっていてもつい起動や読み進めるのが億劫になりがちでもある。

そこをイラストの暖かさで上手くフォローしてくれるので、気負わずにプレイできるのはイラストを用いたノベルゲームの特性が良い方向に働いている好例といえる。

 「え?    でも、和んじゃったらテーマの重さが感じられないんじゃ……?」

と、おもったアナタ。

ご安心ください。

 各々が抱える問題について向き合うシーンにおいて、喜怒哀楽を豊かな表情で見せてくれるので、とても感情移入して没入感を得ることができるのだ。
これも、デフォルメされた表情がより活きておりイラストの強みが発揮されているといえる。


プレイ時間は結構長い(忘れた)。
特に最終章はプレイしていて特にそう感じた。
だが、物語の締め括りとしてとても綺麗なものであったとおもう。
複雑化した現代社会においては、様々な立場に置いて様々な悩みがあるだろう。
だからこそ、この作品が描いた人の心が多くの人に届いてほしいとおもう。

奇しくも、この折に偶然起動し作中で2024年という舞台設定にロマンチストな乙女座である私は運命を感じざるを得ない。(え? パソコン内部時計と連動とかじゃないよね?)

記事公開時においてダウンロードできたので、今からでも簡単にプレイ可能。
落としといて損はない。
いつまでもあるとおもうなフリゲと時間である。

後述するが、とある理由からもすこしこの作品には思い入れがある。

ぜひ、まこっちゃんと苦悩を抱える人たちとの物語を見届けてほしい。
アナタ自身の苦悩も、すこし変わるかもしれない。


※追記

間違っていたら大問題なのであまり大きな声では言えないが、個人的にどうしても伝えたいことであり、表題に関わることなので記す。(調べればいいのだが、何故かその気になれない)
実はこのゲームをプレイしたのは四年前になるのだが、当時やっていた旧Twitterにおいて当作品のことをフォロワーさんと話していた。
その時、おそらくは当作品の作者の関係者とおもわれるアカウントとすこしやり取りした記憶がある。(経緯は忘れた)

重要なことなのだが、記憶が朧気だ。
話半分に聞いてほしい。

僕がTwitterで作品の感想をつぶやくと、作者の関係者(友人?)を名乗る人物がコメント(リプだったか?)をしてきた。
仮にAさんとする。

Aさん「○○(作者の名前)も喜んでるとおもいます(意訳)」

なにか違和感のある表現だった。

その時に僕は知っていたかどうかも定かではない。

作者が、亡くなっているらしい。

その時の記憶なので、ハッキリしない。
だが、僕の中で衝撃的だったからか確信に近い感覚はある。
(やっぱりビビって検索したら出てきた。すこし確度は上がった。と同時に苦しい)

作品の内容もあり色々とおもうところはある。
が、当時僕がおもったのは『作品』というものが与える影響についてだった。

人間はいつか死ぬので、死ねば世界に対して干渉する術を失う。
どんなに偉大で素晴らしい人でも。
だから、世界に干渉するのは生きている人間の特権だと僕はおもっていた。

でも、この作品の作者が亡くなっていると知って愕然とした。

作品は作者が死して尚、誰かに届き、その心に、考えに影響を与えることがある──。

これはもちろん、作品が素晴らしいものであったからというのが大きい。
著名人のような誰もが知る歴史上の偉人、一部の非凡な者の作品故だろう。

それでも、僕は自身でも手掛けていたノベルゲームという身近なもので自身の死後に誰かに影響を与えることがあるという事実に衝撃を受けた。

この作品のような強さでなくても。
ほんのひとりでも、誰かになにかを届けることができたら。
死ねば終わりだとおもっていた自分のような凡人でも、生き続けるものが作れるんじゃないかとおもえた。

そういった背景もあり、この作品は創作をする人はもちろん、そうでない人にも、ぜひプレイしてみてほしい。
長いけど、ちゃんとエンディングまで見届けてほしい。

長々書き連ねたけど、言いたいことはいつも同じかもしれない。



※2024.5.13
初稿。


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