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連載~時間に負けた男~ 3話 

この部屋で男は来る日も来る日も、どこにも通じない携帯で番号を押し続けた。

おぼろげに覚えている知人の番号
有名な企業の番号
警察、消防など公共施設の番号
男は思いつく番号をひたすら押し続けた。

だが一向に手にもつ携帯はどこにも繋がる気配がない。

誰かと話したい。

誰でもいいから話したい。

もう何千回番号を押し続けたのだろうか?

小さな窓を見上げて見ればいつのまにやら夏が過ぎるのを感じた
何回目かの冬が訪れようとしていたある日

ふと自分の携帯の番号に電話を掛けてみた。
自分の携帯に自分で電話を掛けるなんて・・・

「プルプル、プルプル」
えっ!
どこかを呼び出す音が携帯から聞こえた!
えっ!

一体どこを呼び出しているんだ?
男は固唾をのんで携帯の呼び出し音に集中する。

自分の携帯を呼び出しているだけなのか?

今まで自分の携帯に電話など掛けたことが無い
自分の携帯に電話を掛けるとこうなるものなんだろうか?
男があれやこれや考えていると突然呼び出し音んがやんだ
どうやらどこかに繋がったようである
「もしもし」
恐る恐る男は独り言のように話しかけた
「もしもし」
「どちら様ですか?」
男は驚きと嬉しさが同時に沸き起こった
「もしもし!」
「切らないでください!」
男は必死に電話の相手に食らいついた
「もう何年も人と話していないのです!」
「どうか話をしてください!」
男は矢継ぎ早に切り出す
「あっ、はい」
電話の相手は面食らっている様子だったが男はそんなことはお構いなしに話し続けた。

電話の相手は声の調子から中年の男性のようだ
男は久しぶりに誰かと会話するよろこびから、とめどなく話し続けた。

自分の身の上話や今の世の中の状況を聞いたり、子供の頃のエピソードなどを延々話し続けた。

男は時間を忘れて話し続けた
一時間は話しただろうか?
延々男の話を聞かされた電話の相手はもう大分話したので、後日また電話に出るので一旦電話を切りたいと男に伝えた。

男は残念そうだったが無理を言って嫌われたら、もう二度と電話には出てくれないと思いしぶしぶ電話を切ることに同意した。

「では明日また掛けますのでどうか電話に出てください!」
電話の相手は哀れに思ったのか、電話に出ることを了承して電話を切った。

男はもう話さない電話を両手で握りしめ天井を仰いだ
「やった!」
心の中で男は叫んだ。

翌る日の朝
男は朝から電話をしたくてそわそわしていた。


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