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東京旅行日記(一日目/二〇二四年五月二十二日)その1

東京旅行してきた。

結構日にちが経ってしまったので忘れているところもあるが、北海道の田舎に生まれ、札幌というそこそこ大きな地方都市に暮らす中年男性が、一週間東京に行ったらどうなるのかということを書いておきたい。

まれに参考になる人もいるだろう。

何かの仕事のついでということもなく、有給を使って一週間分の休みをとり、自分でスケジュールを組んだ。一人旅だ。
四十代半ばという年齢でこういう旅行ができる人は少ないかもしれない。

今の日本は、自分が子供のころと比較して、どんどん衰退している。
物価もあがっている。改善の見込みもない。
自分は同世代に比べて貧乏なので、多少お金を溜めても物価高の誤差にしかなりそうにない。

強いて言えば、結婚や子育てをしていないので何とか暮らせているが、何事も楽しめる精神状態のうちに楽しんでおかないとダメなような気がしている。

初日は仕事して、そのまま空港に向かう。

ひさしぶりに押し入れから取り出した大きめのバッグ。
必要なものを入れて、職場に持っていったところ、いきなりチャックが壊れる。
つまむ部分が折れてはじけてあっという間に行方不明だ。

きっと何かの身代わりになってくれたんだよねそうだよねと神妙な気持ちになったものの、この閉まらないバッグを空港に預けられるのか不安になる。

突発的な残業もなく、ほぼ定時で仕事が終わる。

職場の人に、無事空港に着いたら、飛行機を見ながらコーヒーを飲んでいるような浮かれた写真をインスタに挙げるよう指示される。
長期休暇なのに背中を押してくれる、ありがたい職場である。

特に問題なく札幌駅から新千歳空港に到着する。
荷物もテープどめかビニール袋に入れるから大丈夫だと言われる。ありがたい。

北海道興農社のMilkStandで三番目くらいに高い銘柄の牛乳をいただく。
一瓶500円くらい。
コーヒーよりも高い牛乳のほうが浮かれているという判断だ。
実際、味が濃くておいしい。ような気がする。
写真を撮ってインスタに挙げる。

はなまるうどんを食べて21時発スカイマークに登場する。
機体がノロノロ動いているところから、急に加速する瞬間が好きだ。

窓側の席、久々に見る眼下の眺めを楽しむ。
ほとんど真っ暗だったが、都市部は結構明るい。

飛行機は遅れて当然だと思っていたが、予定時刻より10分早く羽田空港に到着する。

最後にこの空港に来たのは10年以上前だ。
なんとなく降りて、なんとなくみんなが歩いていく方向についていく。
時間が深く人は少ない。しばらく歩いていて急に不安になる。
この方向、本当にあっているんだろうか。
人の群れになんの根拠もなく付いていると気付いてしまった。

思い返してみれば、そこにはその便に乗った人しかいないのだから、素直について行けばよかったのだ。
しかし、ちょっと逡巡しているうちに、あっという間に広い建物の中で一人っきりになってしまった。
天下の羽田空港でこんなに人がいないことがあるんだろうか。

次に行かなければいけないのは荷物を受取る場所だ。
しかし、空港内、いくら探しても案内が見つけられない。
スタッフの人も全然いない。焦る。

困っていると、タラップ方向からさっきまで一緒に飛行機に乗っていた乗務員の方々が現れた。
ここしかないと思って自分の行くべき方向をうかがう。

まったく仕事風ではない油断した格好のおじさんがひとり、閑散とした空港の構内で困った顔をして話しかけてくるのは、さぞ滑稽だっただろう。

相手はプロなので露骨ではなかったが、わずかに戸惑いの表情を浮かべていたのを、私は見逃していない。彼らはプロである前に人間なのだ。

たった一人で歩く羽田空港は大きい。
しょんぼりした足取りで教えてもらった荷物受け取り場所に向かう。
もう自分だけだったらどうしようと不安だったが、結構人が残っていて荷物を待っている。
やがてビニール袋に包まれた私の荷物が流れてくる。
もともと頻繁に使っていたものではない上に、ビニール袋ごしなので、他人の荷物のように見える。「おまえは誰だ」と何かで見たセリフが頭に浮かぶ。

すでに23時を過ぎているが、ここからが本番だ。
北海道には40年以上住んでいるが、東京の滞在時間は人生全体で累計しても10日あるかどうかだ。何が起きてもおかしくない。

最初の関門は羽田空港のモノレール。
生まれて初めてのSuicaである。

この東京旅行で私はたくさんの初めてを経験することになる。
東京はじめてツアーのはじまりだ。

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