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胆嚢摘出後の腹痛の考え方

Cleve Clin J Med. 2011 Mar;78(3):171-8.
PMID:21364161


【症例】
26歳 女性

【経過】
⚫︎ 患者は4ヶ月前に症候性胆石に対して腹腔鏡下胆嚢摘出中を施行されている
⚫︎ 病理は胆石と慢性胆嚢炎の所見であった

⚫︎ 数ヶ月後に手術前と同様の心窩部痛と背部痛が出現した
⚫︎ 食後30分で痛みが始まり、最長4時間続く
⚫︎ 痛みで夜中に目が覚めることもある

⚫︎ 受診時BT38.4℃ 他のバイタル異常なし
⚫︎ 黄疸なし 上腹部に軽度の圧痛あり

胆嚢摘出後症候群とは?

⚫︎ 胆嚢摘出後症候群は手術前と同様の症状をさす
⚫︎ 10-40%で認められ、2日-25年の期間で発症したという報告あり
⚫︎ 女性43% 男性28%に認める
⚫︎ 胆道または非胆胆道かを考える
・ 胆道:狭窄、停留したままの結石、新規の結石、腫瘍、オッディ括約筋不全
・ 非胆道:GERD 胃潰瘍 膵疾患 肝障害 冠動脈疾患 IBS など


【症例の続き】
⚫︎ この患者のラボは以下の通り

この患者の次に必要な検査は?

A. ERCP

⚫︎ この患者は胆管炎の可能性があがる
  他に胆汁漏、胆汁腫を考慮する必要がある

⚫︎ 胆汁腫はエコーで確認できる(Cureus 11(8): e5459.)

胆汁腫 biloma

⚫︎ 胆管損傷は術中に25%で確認される
⚫︎ 胆管損傷の場合はプレゼンは様々である
・ 胆汁漏の場合は平均術後3日目にわかる
・ 胆管損傷による胆管狭窄は長期間にわたって何も症状は出ないだろう

⚫︎ 手術中に胆管造影を施行しているか確認する必要がある
⚫︎ 手術中に実施していれば胆管結石の陰性的中率は99.8%であり不要な術後ERCPを避けられる

⚫︎ 総胆管結石の腹部エコーはどうしても感度が落ちるが、これは術者の影響を受ける
⚫︎ MRCPは感度82%特異度97%である
⚫︎ エコー正常・MRCP正常=総胆管結石除外、とはならない


【症例の続き】
⚫︎ 術中胆管造影は行われていなかった
⚫︎ ERCP施行したところ総胆管の中部~遠位部にかけて造影欠損を認めた
⚫︎ ESTを施行したところ総胆管から3個の小結石が摘出された
⚫︎ 処置後、食事再開となった

⚫︎ しかし5日後に再度腹痛が増悪した
⚫︎ ラボは以下の通り


痛みの原因として可能性が一番高いのは何か?

A. 総胆管の処置はされたが、肝内管または胆嚢管遺残に結石が残っている可能性がある

⚫︎ ERCP後の膵炎は施行後6時間以内に生じたら疑うべきである
⚫︎ 12時間後以降に生じる可能性は低い
⚫︎ 膵炎のリスク:若年 女性 再発性膵炎の既往 カニュレーション困難 副乳頭括約筋切開術後

⚫︎ 括約筋機能不全の可能性もあるが、ESTが治療法で最近施行されたので確率は低い

次にすべきことは何か?

A. MRCP
⚫︎ 胆管炎は認めず、肝機能も正常なのでERCPを繰り返すのは適切ではない
⚫︎ Park先生の報告では肝内結石患者66名行ったstudyでMRCPと経皮経肝胆管造影は精度として同等であった
  MRCPの肝内結石の感度97% 特異度99%であった

【症例の続き】
⚫︎ MRCPを受けたが肝内に結石はなくエコーも問題なし

⚫︎ しかし患者の痛みは続き、体重は5kg減っている
⚫︎ この時点で心因性ではないかと疑いがもたれた

次のステップは?

A. 超音波内視鏡検査

⚫︎ 胆嚢管結石を探すには超音波内視鏡検査が必要
⚫︎ 以前と同様の症状・エピソードが続いているので結石由来の可能性が高い
⚫︎ MRCPや通常のエコーでは胆嚢管内や胆嚢遺残の十分な評価は得られない

【症例の続き】
⚫︎ 超音波内視鏡検査を施行したところ胆嚢管遺残部または胆嚢遺残部に7mmの結石を認めた  総胆管には問題はなかった

赤矢印は胆嚢管遺残または胆嚢遺残の7mmの結石

⚫︎ 腹腔鏡での胆摘は開腹に比べて遺残がおきやすい
⚫︎ 胆管は可能な限り総胆管の近いところで切断される
⚫︎ 腹腔鏡下では総胆管の損傷を避けるため、胆嚢寄りで切断され、より長い胆嚢管遺残を残す
⚫︎ 胆嚢管内結石や胆嚢遺残は胆嚢摘出後症候群としては稀な病態である
⚫︎ もちろん開腹手術でも起きうる
⚫︎ 手術中に胆管造影をルーチンに行うことは議論のあるところである
  手術時間が長くなる、残っていてもたいてい悪さしないで自然に落ちる、偽陽性などデメリットが多い

【症例の続き】
⚫︎ 再度ERCPを受けた
⚫︎ 造影では総胆管は正常で長い胆嚢管と小さな胆嚢遺残を認める

黒矢印は胆嚢管遺残で造影欠損を認める
赤矢印は長い胆嚢管遺残、黒矢印は小さい胆嚢遺残である


⚫︎ 胆嚢管切開術を施行し、結石は無事摘出された

⚫︎ 胆嚢管遺残結石はまれである
⚫︎ 内視鏡的に治療が困難であればESWLはよい適応である
⚫︎ また再度開腹手術は成績良好で近年は再手術も腹腔鏡でされることがある

⚫︎ この患者は内視鏡後再発なく経過している

【考察】
⚫︎ 胆嚢管遺残結石はまれである
⚫︎ 胆嚢摘出術後の胆嚢管遺残結石の発生率は2.5%未満である
⚫︎ そもそも診断が難しい
⚫︎ 腹部超音波では感度27% 特異度100%という報告あり
⚫︎ MRCPとERCPも報告はあまりなく、まとまったデータはないが精度は100%ではない
⚫︎ 今回の超音波内視鏡検査で見つけたが過去にまとまったデータなし

⚫︎ 胆嚢摘出後の結果、疼痛の原因になっていたRCT(Surgeon.2019 Feb;17(1):33-42.)

⚫︎ 以下の全てを鑑別にあげ、精査する必要がある(のかもしれない)
・消化管:胃潰瘍 GERD
・肝炎
・膵炎
・総胆管結石
・良性または悪性腫瘍による胆管狭窄
・胆管炎
・Oddi括約筋狭窄
・Oddi括約筋機能障害
・胆嚢管遺残
・不十分な胆嚢摘出
・other:寄生虫 筋骨格系の痛みなど

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