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臨床推論 Case167

Chest. 2023 Apr;163(4):e163-e166.
PMID: 37031987

【症例】
60歳 男性

【主訴】
咳嗽 呼吸苦

【現病歴】
■ 人工呼吸を要したレジオネラ肺炎で入院加療1ヶ月後, 持続する呼吸困難と咳嗽を主訴に呼吸器内科を受診した. 入院中の胸部CTでは左上葉の浸潤影を認めた.


■ 気管支洗浄液培養でレジオネラが検出され, レボフロキサシンによる治療と2週間の人工呼吸管理を行った. 抜管後の胸部X線では浸潤影はほぼ消失していた.
■ 退院1ヶ月後, 患者は呼吸困難を訴え, 新たな胸部CTを施行したところ, 新規の浸潤影が出現していた. もともとあった浸潤影が移動したようにも見える.

【現症】
■ バイタル:正常.
■ 身体診察:左側で粗い捻髪音を聴取. 心血管系, 腹部に異常所見なし.
■ ラボ:白血球7,980/μL(好中球68%), ヘモグロビン11.8g/dL, 血小板60.7万, CRP 0.35mg/dL(<0.5). PT, APTTは正常範囲内.
■ 呼吸機能検査:%VC 81%, FEV1 79%, FEV1/FVC 76.58, DLco 61%.
■ 気管支鏡検査では, 右気管支と左上葉支に異常はなく, 左舌区支が軽度圧排されていた. 左下葉支とその区域支は反時計回りに約150度回転していた.

What’s your diagnosis ?





【診断】
特発性左肺捻転

【経過】
■ 肺炎に続発した特発性左肺捻転である. 無気肺と同様, 病変部(本例では上葉)の重量増加が捻転の原因となり, 人工呼吸による高圧の関与も考えられた. CT上の気管支異常から疑われた.

■ 気管支鏡で確定診断した.


■ 胸腔鏡下整復術を施行した.
■ CTアンジオで血流が保たれていたため整復を試みたが, 気胸により捻転は自然解除されていた. 胸腔鏡では, 舌区付近に癒着を認め, これを剥離した. 術後の気管支鏡では解剖, 口径ともに正常化し, 画像上の異常も消失した. 呼吸機能検査でも改善を認めた.

【考察】
■ 肺捻転とは, 肺全体あるいは単一肺葉が気管支血管茎を軸に回転することと定義される. この回転により気管支血管系が部分的あるいは完全に閉塞し, 気道閉塞と血管圧迫による急性呼吸不全を来す. 早期診断, 治療がなされないと肺組織の壊死に至る. 180度以上回転すると気管支血管茎が急性閉塞する.

■ 腸管が腸間膜を軸に捻転する腸閉塞は比較的よく見られるが, 肺捻転は稀で発生率は0.089-0.4%.

■ 報告例の70%以上は胸部手術(開胸術, 肺移植など)や外傷後に発生し, 30%までが特発性とされる.

■ 術後肺捻転の主因は右上葉切除で, 好発部位は右中葉. 特発性肺捻転は, 肺癌, 無気肺, 大量胸水, 気胸に関連して報告されている.

■ 臨床症状, 身体所見は非特異的で, 無症状のこともあれば, 呼吸困難, 咳嗽, 発熱, 胸痛を訴えることもある. 身体所見では頻呼吸, 低酸素血症をしばしば認める. 検査所見では白血球増多を認めることもあるが診断特異的ではない.

■ Daiらの診断アルゴリズムでは, 胸部X線で浸潤影の増悪や移動を認めた場合, 原因検索のためCTと気管支鏡検査が有用とされている. 胸部CTでは肺葉の無気肺や浸潤影を認め, さらに気管支・血管構造に注目すると, 狭窄, 途絶, 解剖学的逆転などに気づく. CTアンジオでは肺動脈閉塞も描出される. 気管支鏡検査では, 気管支狭窄, 気管支口の変形, 気管支の解剖学的逆転などを認める.

■ 予後は肺組織の血流状態に大きく左右されるため, 適切な診断と治療が重要である. これにより, 虚血再灌流障害, 肺塞栓・梗塞, 膿瘍, 壊疽, 死亡などの合併症を予防できる.

■ 肺捻転に対する治療は, 捻転した肺の整復または障害部位の切除(肺葉切除または全摘)である. 整復後の再膨張, 機能回復の成功例も報告されているが, 合併症予防のため全例で切除を勧める意見もある. 治療方針の決定には, 血流状態, 肺組織のviability, 再手術までの時間などが判断基準とされている.

■ 肺捻転の死亡率は高く, 特発性で3.1%, 術後で8.8%, 外傷後では22.2%に及ぶ. 誤診, 治療遅延, 全肺捻転は予後不良因子である.



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