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臨床推論 Case185

Respir Med Case Rep. 2024; 51: 102086.

【症例】
既往のない80歳 男性

【主訴】
発熱 咳嗽

【現病歴】
■ 1.5ヶ月続く咳嗽と呼吸困難で受診された. 発熱や悪寒, 鼻汁, 寝汗, 消化器症状, 泌尿器症状は否定. しかし, 過去1ヶ月で4kgの体重減少と食欲低下を訴えた. 患者は非喫煙者. 慢性肺疾患の既往なし, ペットなし. 2ヶ月前にドバイに旅行し, 毎年アメリカに旅行している.

■ 患者は2週間前に外来を受診し, 両側性肺炎と診断された. 10日間のレボフロキサシン投与を受けたが改善せず, 咳は持続し, 依然として呼吸困難があった.

【現症】
■ バイタル:発熱なし, 血圧正常, 心拍数102回/分, 室内気でSpO2 85%.
■ 身体診察:両側肺野で呼吸音あり, びまん性のラ音. 腹部は柔らかく圧痛なし, 下肢浮腫なし. 触知可能なリンパ節腫大なし.
■ 血液:WBC13000 CRP3 抗体関連は陰性
■ 胸部CT

■ BALを施行し, 白血球数627/μLで70%が好中球. PAS染色は陰性. 培養でCandida albicansが検出された.

【経過①】
■ 経験的にメロペネムとメチルプレドニゾロン40mg/日を開始. 咳と呼吸器症状は改善し, 19日後に退院となった. 暫定診断は器質化肺炎として, グルココルチコイド治療を継続するよう指示された.

【経過②】
■ 20日後, 患者は呼吸困難と咳の増悪で再入院.

■ 胸部CT

■ 意識下鎮静と硬膜外麻酔を用いて, 胸腔鏡下肺生検を施行.

■ 中分化型の粘液性腺癌が明らかとなった. 腫瘍細胞はCK7, CD20, CDX2陽性で, TTF1とPAX8は陰性. 消化管原発の転移性腺癌と原発性肺粘液性腺癌が鑑別に挙げられた.

■ 患者の呼吸不全は改善せず. 高齢と癌の診断を考慮し, 家族と相談の上,BSC方針となり亡くなられた. 

【考察】
■ 肺腺癌は肺癌の中で最も頻度の高い組織型である. 通常, 咳, 喀血, 体重減少を伴い, 画像所見では疑わしい結節や腫瘤が見られる. 肺炎などの他の肺疾患のミミックとして両側性浸潤影として来ることが稀にある.

■ Detterbeckらは肺炎様の浸潤影または consolidationを呈する腺癌を肺炎型肺腺癌(P-ADC)と定義した. CTでは, 非閉塞性の局所的または広範な肺の consolidationなど, 様々な形態で現れる可能性がある. 不均一な air bronchogramや葉間裂の膨隆がP-ADCの診断を支持する可能性があるとの報告もある. P-ADCは肺のびまん性非閉塞性充実性浸潤として現れ, 腫瘤性病変を欠く. これは, ウイルス性, 細菌性, または炎症性肺疾患と混同されるため, しばしば誤診につながる. 放射線学的所見には, 両側多葉性分布, 葉間裂膨隆, 低吸収域サイン, air space, CT血管造影サイン, 随伴結節, 胸水, リンパ節腫大, 異常な air bronchogram, すりガラス影が含まれる.

■ 気管支肺胞癌は, lepidic growthを含む気管支肺胞性増殖パターンを示す悪性腫瘍を表す用語として使用されていた. Lepidic growthは肺胞破壊を伴わない拡大を意味する. しかし, 最近の分類では肺腺癌を上皮内腺癌, 微小浸潤性腺癌, 浸潤性腺癌の3つに分類し, 気管支肺胞癌の概念を廃止した. Lepidic growthパターンは現在, 浸潤性腺癌の一部として認識されている.


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