見出し画像

臨床推論 Case169

Clin Case Rep. 2024 Apr 26;12(5):e8823.
PMID: 38681031

【症例】
既往のない26歳男性

【主訴】
胸痛

【現病歴】
■ 2週間続く胸痛で受診された. 咳嗽, くしゃみ, 笑うことで悪化する.
■ 1ヶ月前に軽度の気管支炎を3週間罹患し, その後持続する乾性咳嗽と胸痛が出現した.  胸部外傷はない.

【現症】
■ 
バイタル:正常
■ 身体診察:胸部の右下後胸壁で触診時の圧痛を認めた. ラ音, 喘鳴, 樽状胸は認めなかった.
■ 血液検査:正常
■ Xp:大きな異常はない
■ CT:以下の通り


What’s your diagnosis ?







【診断】
咳嗽による肋骨骨折

【経過】
■ 胸部CTで第9, 10肋骨の線状骨折を認めた.
■ 40歳以下での咳嗽による肋骨骨折はまれであるため続発性の病的肋骨骨折の原因として副甲状腺ホルモン, 血清カルシウム, 血清蛋白電気泳動を実施したが異常なし.
■ 今後骨密度検査を予定しフォローとなった.

【考察】
■ 非外傷性肋骨骨折は骨粗鬆症, 薬剤, 持続する咳嗽などが原因となる. 特に骨粗鬆症やステロイドは引き金になる.
■ 肋骨骨折に関与する筋肉には, 外・内肋間筋, 横隔膜, 前鋸筋, 腹直筋, 肋間筋がある.
■ 肋骨骨折に大きな性差はないが,職業的・娯楽的活動による誘引は男性で多く, 閉経後の骨粗鬆症により高齢者は女性の方が多くなる可能性がある.
■ 骨折しやすい肋骨は柔軟性が低い中肋骨(第3〜9肋骨)である. 通常1〜2本の肋骨が骨折するが, 重度の外傷では複数の肋骨が関与することもある.

■ 咳嗽誘発性の肋骨骨折は第5-10肋骨が多い(Turk Gogus Kalp Damar Cerrahisi Derg. 2024 Jan 29;32(1):69-74. )

■ 肋骨骨折は骨折線が不明瞭, 軟部組織の重なりによる視認性の低下, 不完全な撮影, 構造物の重なり, 肋骨の配向のばらつきなどにより単純X線での同定が困難なことが多く, 正確性にばらつきがある.

■ 研究では単純X線で最大50%の肋骨骨折を見逃す報告あり.

■ 正確な診断のため胸部CTなどの追加画像検査が必要とされる. CTは単純X線より肋骨骨折の感度が高く, 骨折肋骨の本数に関する情報も提供できる.

■ 骨折肋骨の本数と死亡率の相関, 特に高齢患者での相関はよく知られている. 研究では骨折肋骨の本数の増加が高い死亡率と関連することが示されており, 特に高齢者で顕著である. 高齢患者は骨粗鬆症などにより骨密度が低下していることが多く, 軽微な外傷でも肋骨骨折を起こしやすい.

■ 肋骨骨折の合併症には気胸, 血胸, 肺挫傷, 肺損傷につながる肋骨の変位などがあり, 疼痛管理, 必要に応じた呼吸補助, 胸部理学療法, 副木やブレースによる肋骨骨折の固定, 気胸や血胸などの合併症のモニタリングと治療が必要である.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?