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臨床推論 Case177

J Med Case Rep. 2018 Feb 5;12(1):27.
PMID: 29397796

【症例】
33歳 白人男性

【主訴】
胸痛 呼吸苦

【既往/治療歴】
なし
喫煙:0.5箱/day 
飲酒:なし 
違法ドラッグ:なし

【現病歴】
■ 前日から急に発症した胸痛と呼吸困難を主訴に来院した.
■ ゴミ袋を持ち上げた時に胸痛が出現し, 痛みは鋭く, 持続痛で背部への放散を伴う痛みであった.
■ 節々の痛みと悪寒もあったが, 発熱・咳嗽・喀血・体重減少は認めなかった. う歯, 海外渡航歴, 感染者との接触はなかった.

【現症】
■ バイタル:BT37.1℃, HR110/分, RR18/分, BP126/78mmHg.
■ 診察:口腔内は正常で, 心音・呼吸音に異常はなし. 腹部圧痛はなし.
■ 血液検査:WBC 13,700/mm3, ESR 48mm/hr, CRP 84mg/dl.
■ 心電図:洞性頻脈とST上昇を認めた.

■ 胸部CT:大動脈解離は否定的で心嚢液貯留を認めた.

■ 経胸壁心エコー:左室駆出率55%で少量の心嚢液を認めた.


【経過①】
■ 急性心外膜炎・軽度心嚢液の診断でインドメタシンを処方され帰宅となった
■しかし 2週間後の外来で呼吸困難と胸痛が悪化し入院となった.

■ 緊急心エコーで中等量以上の心嚢液貯留と右室流入障害・下大静脈拡張を伴う心タンポナーデの所見を認めた.
■ 心嚢ドレナージを行い約550mlの膿性心嚢液を排液した.
■ 培養と細胞診に提出したところ, 好中球優位の白血球増多と連鎖状グラム陽性球菌を認めた.

What’s your diagnosis ?






【診断】
化膿性心外膜炎

【経過②】
■ バンコマイシンとピペラシリン・タゾバクタムで治療開始した.
■ 培養ではS. intermediusが同定され, ペニシリンとセフトリアキソンに感受性を示した.
■ 他の感染源を調べたが感染巣は見つからなかった.
■ 経過中に収縮性心膜炎へ移行したため外科的心膜切除術を施行し症状は改善した.
■ セフトリアキソン静注を計7週間行い退院となった.
■ 6ヶ月後には症状は消失し心エコー所見も正常化した.

【考察】
■ 本症例は, 基礎疾患のない健康成人に発症した原発性の急性化膿性細菌性心外膜炎である.

■ 2週間の経過で症状が進行し, 心タンポナーデを伴う化膿性心嚢液貯留を認め, 緊急ドレナージと抗生剤治療を要した. さらに収縮性心膜炎へ移行し外科的心膜切除を要し, 最終的には良好な転帰を得た.

■ 急性心外膜炎の原因は様々であるが, 細菌性は現代では1%未満とされ, 連鎖球菌・ブドウ球菌・インフルエンザ菌・結核菌などが原因菌として多い.

■ 他臓器からの直接波及や血行性播種によることが多く, 特に肺炎や膿胸からの波及が大半を占める. 明らかな感染源がない一次性細菌性心外膜炎は非常にまれである.

■ S. anginosus groupは口腔内常在菌だが膿瘍形成をきたしうる菌種であり, 肝・腹部・脳・肺の膿瘍の報告はあるが化膿性心外膜炎の報告は少ない.

■ 本症例では感染源は不明だが, 口腔内からの一過性菌血症により心外膜へ感染した可能性が考えられた.

■ 化膿性心外膜炎は急速に進行し死亡率も高いため, 早期診断と迅速な治療介入が重要である.

■ 化膿性心外膜炎の臨床診断は難しい. 胸痛・心膜摩擦音・奇脈といった典型的な急性心外膜炎の所見を欠き, 非特異的な感染徴候のみ示すことがあるためである.

■ ほぼ全例で発熱を認め, 胸痛は25-37%, 心膜摩擦音と奇脈は50%未満にしか認めない. 検査所見では炎症反応上昇を示し, 心筋逸脱酵素は約半数で上昇する. 胸部X線では心拡大の他, 肺浸潤影・胸水・縦隔拡大を伴うこともある. 心電図は大半で急性心外膜炎の所見を示すが, 10-35%は正常のこともある. 心エコーは最も感度が高く, ほぼ全例で心嚢液貯留を認めるが, 心外膜炎の原因鑑別はできない. 化

■ 膿性心外膜炎が疑われれば診断的治療目的に緊急心嚢ドレナージを行い, 心嚢液の性状・細胞数・培養検査を行うべきである. 結核性の可能性があればPCRやADA測定も有用である. 治療は広域抗生剤を直ちに開始し, 培養結果に基づいて4週間のレジメンを行う. 重症例ではバンコマイシン・第3世代セフェム・フルオロキノロンの使用を考慮する. 難治例や合併症例では外科的心膜切除術の適応となる.


以下Uptodateより


【病因】
■ パターンは3つ
①心筋病巣からの直接拡大や外傷・胸部手術による汚染, 胸腔内感染巣からの直接波及.
②血行性散布.
③横隔膜下化膿性病巣からの拡大.

■ 抗生物質以前の時代では, 肺からの波及が2/3であった. 抗生物質開発以降の化膿性心膜炎の大規模症例シリーズ2つでは, 直接的な肺からの拡大がそれぞれ20%と25%を占め, 血行性散布が29%と22%, 穿通性外傷や手術が24%と29%, 心筋膿瘍または心内膜炎が22%と14%であった.

■ 胸腔内感染巣からの感染の直接波及 : あらゆる微生物が, 感染した肺から心膜に広がる可能性がある. 肺炎球菌が最も多い. 1900年から1973年の間の肺炎球菌性心膜炎113例のレビューでは, 93%の症例で先行する肺炎があり, 67%が膿胸を伴う肺炎であった.

■ 食道穿孔後:この合併症は致死的で, 食道穿孔による続発性膿気心膜炎の患者60人のレビューでは, 生存率はわずか17%であった.

■ 血行性散布:あらゆる微生物が血行性経路で心膜嚢に広がる可能性がある.黄色ブドウ球菌と様々な連鎖球菌が最も一般的である. 肺炎または膿胸は菌血症を伴うことがある. そのような場合, 患者は血行性散布または気管支動脈循環への微小な敗血症性塞栓を介して心膜感染を発症し, 心膜, 心筋, 隣接縦隔へ二次的に広がる可能性がある.

■ 心筋病巣からの拡大:感染性心内膜炎は, 弁輪部膿瘍, 敗血症性冠動脈塞栓, または心筋膿瘍が心膜へ直接感染することがある. また心内膜炎の状況下で無菌性の炎症性心膜液貯留が発生することもある. そのため, 心内膜炎または壁在血栓の状況下で心膜液の臨床所見がある場合, 必ずしも化膿性心膜炎を意味するわけではないが慎重に評価が必要. まれに, 心筋梗塞に感染が合併し, 膿瘍形成と続発性の化膿性心膜炎が起こることがある. 心筋膿瘍は, 黄色ブドウ球菌やサルモネラなど敗血症がついてしまうことがある. そのような患者は, 膿瘍の心膜への直接拡大により化膿性心膜炎を発症する可能性がある. まれなケースでは, 冠動脈ステントが黄色ブドウ球菌に感染し, 冠動脈瘤と化膿性心膜炎を引き起こすことがある.

■ 穿通性外傷または手術:穿通性外傷または胸部手術の早期または晩期合併症として発症する可能性がある. こうした患者の大多数は, 縦隔炎または膿胸の臨床的徴候または症状を伴う. 一部の胸部手術後患者では, Dressler症候群と化膿性心膜炎との区別が困難な場がある. 黄色ブドウ球菌, 腸内グラム陰性桿菌, カンジダ属が多いが, どの細菌も引き起こす可能性があります. ナイフ創による化膿性心膜炎はしばしばpolymicroであり銃弾や砲弾の破片創はクロストリジウム属による心膜炎をもたらす可能性がある.

■ 横隔膜下病巣からの感染の拡大 : ドレナージされていない横隔膜下膿瘍は2%の症例で心膜への拡大をもたらす. アメーバ肝膿瘍, 十二指腸または胃潰瘍の破裂, 感染性胆管嚢胞, 腹膜炎, 腹腔内腫瘍の心膜への浸潤などがある.

【微生物検査】
■ 黄色ブドウ球菌は化膿性心膜炎の最も一般的な原因で, 22-31%を占める. これらのレビューでは, グラム陽性菌が40〜45%の原因となっており, polymicroはまれ. 肺炎球菌は, 胸腔内感染巣からの直接波及での多い菌である.

■ 他にサルモネラ菌血症も報告あり. 嫌気性菌による感染の稀なケースを含め, 他の多くの細菌が化膿性心膜炎の原因として報告されている.

■ 真菌は化膿性心膜炎ではわりと多い. 26人のシリーズで, 真菌が症例が19%を占めていた. これら患者達はカンジダ血症の素因があった. カンジダ心膜炎10症例の臨床的特徴をまとめた2つのレビューでは, 6人の患者が静脈栄養, ステロイド投与, 長期抗生物質療法, 悪性腫瘍, 火傷, アルコール依存症など, カンジダ血症のリスク因子を1つ以上有していた. 残りの4人の患者は最近心臓手術を受けていた.

■ 結核は, HIVの有病率が高い後進国で, 亜急性または慢性の化膿性心膜炎の最も一般的な原因である.

【臨床症状】
■ 化膿性心膜炎は通常, 高熱, 頻脈, 咳嗽, 胸痛を呈する. あるシリーズでは, 入院前の症状の平均持続期間は3日間(範囲1〜6日)であった. 別のシリーズでは, 心膜炎の臨床的特徴は, 原因となる感染の発症から平均10日後に発現した.

■ 発熱はほぼすべての患者で認められる. 胸痛は, 他の病因の急性心膜炎と比較して化膿性心膜炎では少ない(患者の25〜37%). 術後では, 化膿性心膜炎の患者のほとんどが縦隔炎または胸骨創部感染の他の徴候を認める.

■ 心膜摩擦音は, 化膿性心膜炎の患者の35〜45%に認められる.

■ 心タンポナーデの発生率は, 42〜77%と報告で幅がある. 突然の心臓の代償不全は急速に死に至る可能性がある.

■ 化膿性心膜炎の患者の大多数は急性に発症するが時折, 比較的潜在的な感染経過をたどる患者がいるがまれに潜在的に発症するタイプもある.

【心電図】
■ 大多数は, 急性心膜炎に典型的な心電図所見を有している. ただし, 10〜35%の患者では心電図が正常である可能性がある.

【心エコー】
■ 心エコー図:化膿性心膜炎の患者における液体検出に非常に有用であるが, 化膿性貯留液と無菌性炎症性心嚢液とを区別することはできない.

【心嚢液】
■ タンパク質, グルコース, 細胞数とともに, グラム染色, 抗酸菌染色, 真菌染色, 培養を提出する. 通常, タンパク質濃度は高く, グルコース濃度は35 mg/dL未満である. 白血球数は一般に著明に上昇し, 6000〜240,000である. 培養のために十分な心膜液検体を採取することが重要で手術で綿棒だけ提出するのは不十分である.少なくとも0.5 mLの液体を送る必要がある. また尿中肺炎球菌抗原が役立つかもしれない.

【治療】
■ 化膿性心膜炎の治療は, 心膜ドレナージと抗菌薬治療である.

■ フィブリン形成は, 拘束性心膜炎および持続性化膿性心膜炎への進展における重要なステップであると考えられている. 心膜穿刺中の心膜内線溶療法は, 持続性化膿性心膜炎および拘束性心膜炎を予防するための考慮される. それでも, 心膜穿刺が実行可能でない場合, または線溶療法が失敗した場合は心膜切除術を検討する.

■ 心膜切除術は, 心嚢穿刺だけで難渋する場合に行われる. 剣状突起下心膜切開術が推奨される. 癒着がひどい, 隔壁化した濃厚な化膿性心嚢液貯留, 再発性タンポナーデ, 持続性感染, および拘束性心外膜炎の発症時に実施する.

■ 抗生剤の治療期間は一般に, 適切なドレナージと感染細菌の抗菌薬感受性に応じて, 合計約2〜4週間が必要である.

【予後】
■ 報告では死亡率20〜30%である. 拘束性心膜炎は, 経過中に3.5-30%で合併する. 早急な診断と適切な治療が求められる.

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