臨床推論 Case87
Mol Clin Oncol.2017 Feb; 6(2): 177–181.
PMID:28357588
【症例】
59歳 男性
【既往】
肛門周囲膿瘍を1年前に治療した
【現病歴/現症】
⚫︎ 1ヶ月前からの発熱のため受診
⚫︎ 1日に1-2回数時間の発熱と発汗を認めている
⚫︎ セファレキシンやキノロンで治療されたが効果なし
⚫︎ 喫煙や違法ドラッグはない
⚫︎ 入院時バイタル:BT36.8℃ HR70bpm
⚫︎ 両側肺底部にcrackles、顔は毛包炎が散在、う歯あり
⚫︎ ラボ:Hb11.6 TP5.2 Alb2.9 LDH626 CRP6.37 PCT23.96
⚫︎ 自己抗体、HIV、CMVなどの検査は陰性で各種培養検査も陰性
⚫︎ エコーでは脾腫(13.2×4.5cm)を認めた
⚫︎ さらなる精査のため骨髄穿刺したが異常なし、骨髄培養も陰性
⚫︎ 抗生剤や間欠的にステロイドを投与しているが熱は治らず
⚫︎ 徐々にHb、PLTが低下してきた
⚫︎ PET検査で脾臓にのみ集積した
⚫︎ 脾臓摘出し病理結果は以下の通りで大型の異型リンパ球あり
CD5(+) CD20(+) BCL2(+) Ki67>90%でCD3(-) CD10(-) CD21(-) CD30(-)であった
What’s your diagnosis ?
【診断】
脾臓原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
【経過】
⚫︎ R-ECHOP療法を開始したところよく反応した
⚫︎ しかし2サイクル目に発熱、Hb低下、PLT低下あり
⚫︎ 骨髄検査で血球貪食症候群が疑われ、VP16、デキサ、γグロブリンで対応した
⚫︎ 6サイクル治療し安定して経過していた
【考察】
⚫︎ Primalry splenic lymphoma(PSL)はNHLの全体の1%未満と珍しい
⚫︎ ただし全身性のNHLにおいて脾臓病変を認めるのは30%前後である
⚫︎ 一番多いのはリンパ腫はlarge B cellである
⚫︎ 発熱、倦怠感、左上腹部痛、体重減少、発汗などを呈する
⚫︎ 初期段階では無症状でラボ異常でないため診断はむずい
⚫︎ FUOとなりうる珍しいリンパ腫は脾臓に加え、下垂体限局、大腸限局、中枢原発、IVLなどがある
⚫︎ 本例のようにPET検査はFUOの診断に役立ち、65%前後で診断される
⚫︎ 特にCRPやESR上昇しているFUOではPETが診断に寄与する
⚫︎ PSLでのPET検査は感度96% 特異度91%である
⚫︎ 脾臓の生検は針生検(sFNA)、コア生検(sCB)、脾摘がある
⚫︎ FNAとCBは脾腫のある脾臓悪性腫瘍の診断に十分な精度であると報告はあるが、脾臓のリンパ腫に対しては精度は落ちる
⚫︎ また合併症は出血、破裂などがあり16%起きるとされている
⚫︎ とくにリンパ腫は出血しやすいとされている
⚫︎ そのため状態が悪くて脾摘ができない、といった状況ではない限りFNAやCBは行わない
⚫︎ 脾摘は診断だけでなく治療につながることもある
⚫︎ 脾摘は早期のリンパ腫において血球回復と予後を改善した報告がある
⚫︎ 脾臓原発リンパ腫の場合、種類によっては脾摘に加えケモや放射線を加える必要がある
⚫︎ FUOに対して脾摘をした報告(Acta Haematol 2008;119:83–88 )
・肝脾腫+FUOの54例に対して脾摘した報告
・39/54例72%で確定がつき、15例/39例28%は脾摘で診断がつかず
15例はその後のフォローで診断がついた
➡︎リンパ腫が多い
・手術に伴う合併症は14例26%で認めた
・うち一ヶ月以内に手術に関連した死亡は8例、手術とは関係なく1ヶ月以内に亡くなったのは1例あり
・死亡のリスク