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臨床推論 Case190

Intern Med. 2020;59(5):711-714.
PMID: 32115519

【主訴】
65歳 男性

【既往歴】
高血圧症
慢性腎障害

【現病歴】
■ CKDがありX年1月にCre1.90 8月にCre2.74になり腎臓内科に紹介受診された.
■ 受診時Cre3.70と上昇傾向でびまん性の甲状腺腫大あり.
■ 精査目的で入院となった.

【現症】
■ 採血は以下の通りでIgG4高値と甲状腺機能低下症あり.

■ CT:顎下腺腫大, 甲状腺腫大, 腎萎縮あり.

【経過】
■ 甲状腺機能低下, 腎萎縮, 顎下腺腫大, IgG4高値からIgG4RDが疑われた.
■ 甲状腺を生検したところIgG4RDに特徴的なIgG4陽性形質細胞浸潤や花筵構造は認めず.
■ 顎下腺の生検は希望されず, 腎臓は萎縮しており生検はできていない.
■ PET施行したところ骨盤部に集積あり.

■ 血清蛋白電気泳動:β分画M蛋白ピーク(2.7 g/dL)を認めIgG-κ型M蛋白が検出された.
■ 追加検査で尿中ベンスジョーンズ蛋白陽性, κ/λ比227であった.

■ 骨髄検査:HE染色で濃染・腫大した核と不均一に分布する腫瘍細胞の増殖を認めた. CD138染色陽性で, 腫瘍形質細胞の割合は≥20%であった. さらに腫瘍細胞の大部分がIgG4陽性で, κ鎖染色も陽性だった.

What’s your diagnosis ?





【診断】
IgG4陽性の多発性骨髄腫

【経過②】
■ 腫大した甲状腺の精査では抗TG抗体と抗TPO抗体は陰性で, 組織生検ではリンパ球・形質細胞浸潤や悪性所見を認めず, IgG4-RDやMMとは無関係の散発性原発性甲状腺機能低下症(橋本甲状腺炎疑い)と診断された.

【考察】
■ 本症例のポイントは2点である. まず, IgG4型MM患者は腫瘤性病変の存在により, IgG4-RD患者と類似の臨床像を呈しうることが示唆された. また, 血清IgG4値上昇を認めるが腫瘤性病変の生検で有意な所見を認めない患者では, 潜在的な悪性腫瘍の検索のため全身検査を行うべきである.

■ IgG4型MM患者は腫瘤性病変の存在により, IgG4-RD患者と類似の臨床像を呈しうる. MM患者は腫瘍形質細胞の増殖による単クローン性γグロブリン血症を呈し, 血清蛋白電気泳動でMピークを認める. したがって, IgG4型MM患者ではIgG4分泌腫瘍細胞の増殖とIgG4のモノクローナルな増加により, IgG4-RD患者と同様に血清IgG4値上昇を認める.

■ 骨髄生検でIgG型MMと診断された158例のうち, IgG4分泌型は6例(4%)のみだった. 平均血清IgG4値は2,700 mg/dLとIgG4-RDより高値だったが, 臓器障害の重症度や特徴的所見と他の分泌型との相関に関する報告はなく, 鑑別診断は困難である. ほとんどの症例は血清モノクローナルIgG4上昇や溶骨性病変などの特徴的な臓器障害所見からMMと診断されたが, 2例は腫瘤性病変(慢性副鼻腔炎, リンパ節腫脹, 膵頭部腫大)を認めIgG4-RDとの鑑別を要したと報告されている. 両症例ともMMによる臓器浸潤または臨床的意義のない臓器腫大を示し, IgG4-RDによる臓器障害の可能性は除外された. 本症例も, これら2例と同様にIgG4型MMに腫瘤性病変を伴う稀な症例であり, 特に散発性原発性甲状腺機能低下症による腫瘤性病変やMMとIgG4-RDに共通して認められる腎機能障害などの臓器障害も伴っていたため, IgG4-RDとの鑑別が特に困難だった. 急性腎障害の増悪は腎硬化症を背景としたMMによる尿細管障害によるものだった. 同様に, 進行性貧血も腎性貧血を背景としたMMによる骨髄抑制によるものだった. 顎下腺腫脹については, 口腔乾燥がなく経時的に進行性に腫大したことから生理的変化と考えられた. 高TSH値は長期間治療されなかったことによるものだった.

■ 血清IgG4値上昇を認めるが腫瘤性病変の生検で有意な所見を認めない患者では, 潜在的な悪性腫瘍の検索のため全身検査を行うべきである. 血清IgG4値上昇はIgG4-RD患者だけでなく, 関節リウマチなどのリウマチ・膠原病, アレルギー性疾患, 悪性腫瘍患者でも認められる. 血清IgG4値上昇(>135 mg/dL)を示したがIgG4-RDと診断されなかった患者の解析では, 非IgG4-RD 635例中125例(19.6%)に悪性腫瘍を認めた. 一般的にIgG4-RDの診断過程で腫瘤性病変が検出された場合, 悪性疾患を除外することが不可欠である. 特に膵癌や胆道癌患者の約10%で血清IgG4値上昇を認めるため, 他疾患除外のために組織生検が必要である. しかし, IgG4型MM患者では腫瘤性病変を形成せずに血清IgG4値上昇を呈しうる. 本症例では, 腫瘤性病変を認めたが有意な所見はなく, 血清IgG4値上昇に基づいて悪性腫瘍を疑い全身検査を行ったことがIgG4型MMの診断につながった.

■ IgG4型MM患者は腫瘤性病変があれば, IgG4-RD患者と類似の臨床像を呈しうる. 血清IgG4値上昇を認めるが腫瘤性病変の生検で有意な所見を認めない患者では, 潜在的な悪性腫瘍の検索のため全身検査を行うべきである. 血清IgG4値上昇を認めるがIgG4-RDの診断基準を満たさない患者では, 腫瘤形成を伴わないMMなどの悪性疾患や, IgG4-RDの初期の詳細検査で検出されなかった固形癌の可能性がある. したがって, 可能な限り全身検査を行うべきである. 血液悪性腫瘍の評価やPET-CTを用いた包括的な身体検査も考慮すべきである.

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