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臨床推論 Case174

Indian J Endocrinol Metab. 2013 Jan;17(1):174-6.
PMID: 23776877

【症例】
34歳 男性

【主訴】
脱力

【現病歴】
■ 2日間の四肢脱力を主訴に救急外来を受診した.
■ 早朝に脱力を自覚し, 2日間で悪化して動けなくなった.
■ 過去6ヶ月以内に同様のエピソードを3回繰り返していた. 最初の2回のエピソードは2~4日間続いた後, 自然に寛解した. 救急外来受診の3週間前に3回目のエピソードを経験している.
■ 今回は過去のエピソードと比べて一番重症であった.

【現症】
■ バイタルサイン正常.
■ 診察: 四肢近位および遠位筋の脱力を認め上肢の筋力は3/5, 下肢は2/5で, 低緊張, 深部腱反射低下, 両側バビンスキーは底屈した. 高次脳機能, 脳神経, 感覚, 括約筋の検査は正常だった. 甲状腺腫大なし.
■ 血液検査:血清Na138, K1.4, クロール97, CK810であった. 他の電解質や血算は正常. T3 36.27 ng/dl↓ , T4 4.32 μg/dl↓, TSH 33.70 μIU/ml↑ 抗TPO 288 IU/mL↑.コルチゾール・レニン正常であった.

What’s your diagnosis ?









【診断】
甲状腺機能低下症による周期性四肢麻痺

【経過】
■ K補正し, レボチロキシン開始したところ症状改善した.
■ 1年後問題なく経過している.

【考察】
■ 低カリウム性周期性麻痺(HPP)は, 意識障害や括約筋の障害を伴わず, 1つ以上の四肢の純粋な運動脱力と腱反射低下を呈する低カリウム血症を特徴とする.
■ 突然発症するのが特徴的である.
■ 発作性弛緩性脱力を特徴とする稀なチャネル異常で, 治療により可逆的である.
■ 主にカリウムの細胞内移動によるもので, HPPの一般的な臨床診断は家族性周期性麻痺, 甲状腺中毒性周期性麻痺, バリウム中毒である.
■ 甲状腺中毒症ではHPPエピソードの再発が報告されている.

■ 甲状腺機能低下症の初発症状としてのHPPは極めて稀であり我々の知る限り,今までに35例しか報告されていない.

■ 急性神経筋麻痺は, 数日から数週間で進行する筋力低下を特徴とする一般的な神経救急疾患の1つである.

■ 急性神経筋麻痺の鑑別診断には, 類似の特徴を示すものがあるが, 各疾患には詳細に評価する際に何らかの手がかりがある.

▫️前角細胞関連疾患:ポリオおよびウエストナイルウイルス,

▫️末梢神経/神経根関連疾患:ギラン・バレー症候群, ポルフィリン症, ジフテリア, サイトメガロウイルス多発神経根炎, ライム病, 重金属中毒(ヒ素, 水銀, ヘキサカーボン), 薬物中毒(有機リン酸エステルおよびクロウメモドキ), クリティカルイルネス多発ニューロパチー, ダニ麻痺, 血管炎性ニューロパチ

▫️神経筋接合部関連疾患-重症筋無力症:ランバート・イートン症候群, 神経麻痺性毒素(ダニおよび蛇咬傷), ボツリヌス中毒, 有機リン酸エステルおよびカーバメート, 高マグネシウム血症, 遷延性神経筋遮断, 抗コリンエステラーゼ薬の過量投与

▫️筋疾患-周期性麻痺(低カリウム性:遺伝性および続発性, 高カリウム性):低リン酸血症, ICU症候群, 多発性筋炎, 皮膚筋炎, 感染性筋炎(例:デング熱), 急性横紋筋融解症など.

■ 稀な症状の中で, デング熱による低カリウム性四肢麻痺の症例も報告されている.
■ さらに, COVID-19パンデミック中には, SARS-CoV-2感染に関連したギラン・バレー症候群の症例が, 四肢麻痺を含む様々な症状で報告されている.

■ 甲状腺機能低下症は,般的に遭遇する甲状腺疾患である.
■ 甲状腺ホルモンが不足すると, 全身の代謝が著しく阻害される.
■ 先進国における甲状腺機能低下症の有病率は約4~5%である.

■ 原発性甲状腺機能低下症の典型的な症状以外に, 下腿筋の偽肥大, 思春期早発症, Koecher-Smeglaine-Debre症候群, 多嚢胞性卵巣, 甲状腺機能低下症性眼症, 大量の心嚢液貯留, Van Wyk-Grumbach症候群, 橋本脳症, 偽性脳腫瘍/下垂体過形成, 反復性の悪心・嘔吐を伴う体重減少など, 様々な稀な症状が報告されている.

■ 詳細な病歴と身体所見から, 多くの場合は迷わず診断がつくが, まれに非典型的な症状のために臨床医を誤診することがある.

■ 反復性低カリウム性麻痺は甲状腺機能低下症の極めてまれな症状で, 見逃されることが多い.

■ 甲状腺機能低下症に関連した37例のまとめ. (一部のみ記載)


▫️ 大部分はアジア諸国(N=31; 83.8%)からで, 最多はインド(N=22; 59.5%)からの報告である.
▫️本症例を含む35例のうち, 女性男性比は1.5であった.
▫️大多数の症例(17例, 48.6%)は18歳から40歳の間であった.
▫️最年少は, び漫性甲状腺腫を伴うイギリスの8歳女児であった.
▫️文献で報告されている最高齢は, 甲状腺機能低下症および関連疾患(一過性甲状腺機能低下症, サイアザイド系利尿薬を服用中の本態性高血圧の既往のある低カリウム性ミオパチー)と診断された日本の59歳女性であった.
▫️ 両極端の年齢の症例はいずれも女性であった.

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