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臨床推論 Case171

EJCRIM 2024;11

【症例】
頭皮メラノーマと診断された男性

【既往/治療歴】
結腸癌:前方切除と術後補助化学療法後
上行大動脈瘤:4.5cmで安定して経過

【経過】
■ 患者は頭皮メラノーマと診断され, 根治的切除術を受けた. 初回のCTでは転移は認めなかったが, 4.5cmの上行大動脈瘤が見つかった(図1A). この時点で瘤手術の適応はなかった.
■ 経過観察のCTでは6ヵ月後も瘤サイズは安定していた(図1B).
■ その7ヵ月後のCTで, 新たに右肺転移巣が見つかった. 右肺斜裂に10×12mmの結節状肥厚, 右下葉に5×10mmの肺病変があり, いずれも転移性メラノーマに合致していた(図1C, 赤矢印).
■ 初回CTから15ヵ月後, 低容量の転移性メラノーマに対しペムブロリズマブ治療を開始した.
■ ペムブロリズマブ開始3ヵ月後のCTで転移巣は完全に消失していた.(図1D, 緑矢印).
■ しかし, 上行大動脈瘤が4.5cmから6cmに急速拡大していた(図1D).

■ そのため, 瘤の急速拡大と手術閾値を超えたサイズから, 心臓胸部外科に手術目的で紹介された.
■ 術前最終のCT胸部と大動脈造影を22ヵ月目に行った. 肺野は転移巣は認めなかったでが, 上行大動脈は7cmに急速拡大していた(図1E).


■ 1週間後に大動脈瘤切除, 手術を受けた.
■ ICUを2日で退室でき経過は良好であった.

■ 病理:肉眼的には内膜は正常で, 黄色の局所的粥状変化の部位があった. 大動脈壁は肉眼的に正常に見えた. 解離の明らかな証拠は認められなかったが, 中膜のH&E染色切片では, 炎症性大動脈炎(肉芽腫性/巨細胞性)でみられるような, 組織球様細胞のクラスターを伴う, 層状の多発性中膜壊死を認めた.



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【診断】
irAEによる大動脈炎

【考察】
■ 文献報告はあるものの, 薬剤誘発性大動脈炎は極めて稀な疾患である.

■ Webbらは子宮頸癌IVB期に対するシスプラチン化学療法後の大動脈炎症例を, KoyamaらはGCSF製剤による大動脈弓大動脈炎の報告をしている.

■ 免疫チェックポイント阻害剤誘発性大動脈炎や大動脈周囲炎の発症が明らかになりつつあり, その表現型は様々である. ニボルマブの使用時にサーベイランス画像で偶発的に発見されることもあれば重度の症状を呈した報告もある.

■ Liguoriらは, 転移性膵癌の治療中にアテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド2サイクル後に重度の腹痛を発症した患者の症例を報告している. CTで腹部大動脈炎が判明し, ステロイド投与とアテゾリズマブの中止で速やかに改善した. しかし, 患者の悪性腫瘍が再発した際にアテゾリズマブを再開したところ, 大動脈炎が再発した. これもプレドニゾロンに反応した. その後, 患者はペムブロリズマブに切り替えたところ大動脈炎の悪化はなかった.

■ しかしペムブロリズマブが大動脈弓大動脈炎の症例に関連していると報告された. 本症例と同様, 患者は転移性メラノーマの治療中であった. 高用量ステロイドを開始しペムブロリズマブを中止した. しかし高用量PSLにより体重増加と不眠を引き起こしたため, PSLからTCZに変更した.

■ 既知の大動脈瘤を有する患者では, 免疫チェックポイント阻害剤の開始時に大動脈炎や大動脈周囲炎が発症したとの報告がある. Royらは, CTで3年間安定していた腎動脈下大動脈と左総腸骨動脈瘤の患者が, 転移性肺扁平上皮癌に対するニボルマブ治療中に急性大動脈周囲炎を発症した症例を報告した. CTで, 以前の画像にはなかった瘤部位の大動脈炎を認めた. これもステロイドとニボルマブ中止で改善した. (BMJ Case Rep. 2017 Sep 23;2017:bcr2017221852. )

■ ニボルマブ誘発性大動脈周囲炎はFDG PET/CTでも, 既知の腹部大動脈瘤患者で観察されている.( Clin Nucl Med. 2020 Nov;45(11):910-912. )

■ 2つの研究で, 切除された大動脈瘤の6.1%と4.3%に大動脈炎が組織病理学的特徴として認められた. 既存の瘤では大動脈炎を起こしやすい可能性がある.

■ 本症例では, 患者は既知の安定サイズの大動脈瘤を有していた. 経過観察のCTで, ペムブロリズマブ開始直後から急速に拡大する大動脈を認め, 組織病理学的に大動脈炎と診断された. 時間関係から, ペムブロリズマブ関連大動脈炎による瘤拡大が示唆された. 免疫チェックポイント阻害剤による大動脈炎の多くはステロイドで治療される. これは外科的修復を要したペムブロリズマブ誘発性大動脈炎の初の報告例の1つと考えられ, 既知の大動脈瘤患者が免疫チェックポイント阻害剤治療を開始する際には慎重な経過観察が重要であることを強調している.

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