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臨床推論 Case148

Brain Sci. 2022 Jun 13;12(6):773.
PMID: 35741658

【症例】
51歳 男性

【主訴】
歩行障害 呂律障害

【現病歴】
■ 2019年4月に小細胞癌が認めた.
■ 2019年5月から2020年11月にかけてVP-16, カルボプラチン, 化学療法, 放射線療法で複数回治療している.
■ 2021年1月 PET-CTで, 右肝葉, 腹腔内にリンパ節腫大があり再発を認めた.
■ 2021年2月3日と25日に患者はペムブロリズマブ療法を実施した.
■ 2021年4月15日 歩行障害, 呂律障害が出現した.
■ 2021年4月29日に再びペムブロリズマブで治療したところ症状は著しく進行し, 修正Rankin Scaleスコアは4に悪化した.

【現症】
■ 神経学的所見:指鼻試験で測定障害, Romberg徴候陽性, 運動失調性歩行, 眼振がみられた. 脳神経は正常で, 項部硬直は認めず. 筋力, 筋緊張, 腱反射は正常.
■ 髄液:初圧120mmH2O, 細胞数2/μL, 蛋白51.45 mg/dL
■ MRI:軽度の小脳萎縮あり.

■ PET:両側小脳半球の代謝の低下あり.■ 自己免疫性脳炎抗体パネルでは血清と脳脊髄液の両方でGAD65抗体とSOX1抗体が陽性であった.■ 血清GAD65抗体1:30とSOX1抗体1:10, 脳脊髄GAD65抗体1:100とSOX1抗体1:10であった.

What's your diagnosis ?







【診断】
ペムブロリズマブ関連自己免疫性脳炎(AE)

【経過】
■ CTCAE-5.0よるとirAEのグレードは3に該当する.
■ 5日間0.4g/kg/日の静注用免疫グロブリン(IVIg)を投与された.
■ 著明に改善しmRSは1に改善した.
■ 本例は過剰な免疫抑制療法によって腫瘍の再発することをおそれ, ステロイドや免疫抑制療法は使用せず.
■ ペムブロリズマブ治療は継続した.
■ 1年後のフォローアップでAE症状は改善し, 腫瘍もstableで転移性病変も縮小していた.
■ 血清中GAD65抗体1:1に低下した.

【考察】
■ ICIの神経系のirAEの発生率は2〜6%で,そのうち脳炎の発生率は0.05%である.

■ PubmedからICI関連AEの症例を50例解析した.
▫️ 自己抗体をありは28例、自己抗体なしは22例であった.
▫️ 平均年齢61.5(19-81)歳 男:女=1:1
▫️ 腫瘍の種類:肺がん(20例), メラノーマ(12例), 腎細胞癌(6例),胸膜中皮腫(3例), ホジキンリンパ腫(2例), 卵巣がん(1例), 乳がん(1例), 子宮内膜がん(1例), 子宮がん(1例), メルケル細胞ん(1例), 胸腺がん(1例), 尿路上皮がん(1例)であった▫️ICI:ニボルマブ(15例), イピリムマブ/ニボルマブ(11例), ペムブロリズマブ(7例), シンチリマブ(1例), デュルバルマブ(2例), ドスタルリマブ(1例), アテゾリズマブ(2例)
▫️投与-発症:中央値3ヶ月(4日-18ヶ月)
▫️CSF:細胞数上昇21例, タンパク質上昇35例, オリゴクローナルバンド陽性7例であった.
▫️28例で脳脊髄液または血清中の自己免疫抗体陽性が認められた.

  □ Ma2(10例), GAD(7例), Hu(3例), NMDAR(4例), SOX1(2例), Ri(1例), GABAbR(1例), CASPR2(1例)であった.
  □ 1例でHuとNMDARの二重陽性であった.
▫️重症度:CTCAE-5.0基準でGrade 2が3例, Grade 3が29例, Grade 4が15例であった.
▫️ステロイドやIVIG, 血漿交換, リツキシマブによる治療後31例で改善した.  しかし13例は改善せず, 6例死亡された.

■ ICI関連AEのメカニズムは, 提唱されている機序は以下の通り.
① ICIによって誘導される免疫応答がCNS自己抗原と交差反応する可能性がある.
② AEは腫瘍と密接に関連している. ICIは腫瘍の免疫応答とCNSに対する免疫応答を同時に増強する可能性がある.
③ ICIは神経細胞表面の自然免疫分子を認識し, 補体系または細胞傷害性を介して直接神経細胞を殺傷し, 細胞内抗原の放出を導く可能性がある.

■ AEに加えて, ICIは他の神経合併症も引き起こす可能性がある報告があるのは以下の通り.
▫️重症筋無力症
▫️ギラン・バレー症候群
▫️慢性多発性神経障害
▫️単神経障害など
■ 他にCNS合併症には非感染性脳炎, 脱髄疾患, 脳動脈血管炎などがある.

■ 治療はGrade 1のirAEのみがICIを継続するとなっている.
■ Grade 2〜4のirAEはICIを中止し、免疫抑制療法で治療する必要がある.
■ しかしICI療法を中止すると、当然ながら腫瘍が進行する可能性がある.
■ 強力な免疫抑制は腫瘍の再発と関連する可能性がある.
■ この筆者たちはGrade 2およびGrade 3の患者にはIVIgまたは血漿交換を最初の選択肢とし, 初めからICIを中止しない方針をとっている.
■ 患者がこの治療に反応せず症状が進行する場合は, ICI治療を中断しより強い免疫抑制剤を使用している,
■ レビューでも同じようにGrade2では継続したり中止したりしている.
■ ICI関連AEは神経免疫学の比較的新しいトピックであるため, 今後より多くの症例と多施設研究が必要である.

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