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臨床推論 Case159

Cureus 15(6): e40257.

【症例】
55歳男性

【主訴】
胸部不快感 胸痛

【現病歴】
■ 2週間続く胸部不快感を主訴に救急外来を受診した. 胸痛は鋭く, 胸部中央に限局し, 強さは3-5/10 放散せず, 呼吸困難を伴う.
■ 2年前より週1回MTX15mgと2週間ごとにアダリムマブ注射を受けている.

【既往/治療歴】
高血圧, 2型糖尿病, 心房細動, 血清陽性RA(長期MTX使用中)

【現症】
■ 来院時のバイタルサインには異常なし.
■ 身体所見: 頸静脈怒張, 両肺底部にラ音あり.両下腿浮腫があり, 前腕の伸側表面に散在するリウマチ結節と, いくつかの指の拘縮があり. 他にMCP関節と足首に軽度の圧痛と浮腫, 両側のPIJとDIJの多発性両側浮腫, ハンマートゥ変形が見られた.
■ 採血結果は特記すべき異常なし.
■ CT:厚さ最大5 cmの大量の心嚢液貯留, 心肥大, 軽度の冠動脈石灰化, 亜区域無気肺, 軽度の両側胸水貯留, 複数の小さな縦隔リンパ節が認められた

【経過】

■ 入院時にアダリムマブとMTXは心膜炎との関連の可能性があるため中止した.

■ 患者は心臓血管外科により左前側方開胸術を受けた. 術中に300ccの漿液血性液が排液され, 心膜生検が行われした. 病理結果で線維素, 線維化, 小リンパ球および好酸球を含む慢性炎症細胞浸潤が見られしたが, 肉芽腫や悪性所見は認められず. 線維素性心膜炎の診断となった.

■ その後再燃なく経過した. 外来でアダリムマブ再開したが再燃は認めず, MTXは中止したままだった.

What’s your diagnosis ?








【診断】
MTXによる心嚢液、胸水貯留

【考察】
■ MTXのcommonの副作用には, 肝酵素の上昇, 血球減少症, 日和見感染症, 皮膚症状, 乾性咳嗽, 間質性肺炎, 記憶障害, 悪心, 頭痛, めまい, 漿膜炎などがある.MTXによる心膜炎は稀である.

■ 注目すべきことに, 患者は長期間大きな薬物レジメンや用量の変更なくMTXで管理されていたにもかかわらず, 心膜炎と胸水を発症した. 心嚢液の分析では感染性または悪性の原因は否定的であった. 心膜の病理組織学的検査では, 線維素, 線維化, 小リンパ球および好酸球を含む慢性炎症細胞浸潤が認められ, 線維素性心膜炎と一致していした. MTXは直ちに中止され, 患者は2年間厳重に経過観察されたが, 心嚢液や関連症状の再発は認めず. これらの所見は, MTXが患者の心膜炎を引き起こした可能性が高いことを示唆している.

■ 過去15年間にMTXによる心嚢液貯留は8件の報告あり.
▫️3例ではMTX単独使用による心膜炎が生じ, 5例ではMTXとともに他の薬を併用していた.
▫️平均年齢は42歳で男5例, 女3例であった. 関節リウマチ, 胞状奇胎, 乾癬性関節炎, 皮膚乾癬, T細胞リンパ腫であった.
▫️MTX投与に伴うその他の合併症として, 心嚢液貯留に伴う胸水貯留が9人の患者に認められした. 他に肝毒性, 心肥大, 無気肺などがありした.
▫️心嚢穿刺, 心嚢液または胸水の吸引, MTXの中止, 経口ステロイド剤, 抗菌薬, またはその両方の併用など, さまざまな治療が実施されした.
▫️心嚢液または胸水の細胞診では, 反応性中皮細胞, 散在する好酸球, リンパ球, 軽度の慢性炎症など,所見は様々であった. 8例中6例では, 心嚢液の細胞診で白血球数正常範囲内の漿液, 血糖正常, 悪性または感染の証拠がなかった. 
▫️症状消失までの平均時間は, MTX中止後2~3週間であった. 1例は, MTXの中止に加えてステロイド剤で治療されている. 1例心嚢液貯留および胸水貯留の再発を認めたが, MTXの継続中に発症し中止後に改善した.

■ これらの症例はMTXの使用と心嚢液貯留または胸水貯留との関連を示唆しされているが, 更なる研究が必要である.

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