見出し画像

臨床推論 Case175

Brown Hospital Medicine. 2024;3(2).

【症例】
56歳 既往のない男性 

【主訴】
便秘

【現病歴】
■ 1週間のうちに4回, 重度の便秘を主訴に来院した.
■ 来院前は毎日排便があり便秘の既往はなく, 内服薬もなかった.
■ 初診の10日前に約400gの殻付きのカボチャの種を食べた後, 排便も放屁もできなくなった. 救急外来に複数回受診され, 下剤と浣腸を処方され帰宅していた.
■ 複数の下剤と浣腸, 自宅での摘便を続けたにも関わらず, 排便はなかった. 時折少量の種や殻を除去することはあった.
■ しかし便秘, 腹部不快感, 膨満感, 直腸痛は持続していた. 悪心, 嘔吐, 発熱, 悪寒, 胸痛, 呼吸困難は否定した.

【現症】
■ 身体所見:腹部膨満で腹壁はソフト, 触診にて軽度の不快感を伴っていた.
■ 造影CT検査:大腸全体に中等度から大量の便塊を認め, 直腸は7cmと拡張していた. 直腸壁の肥厚は1週間前のCTと比較して増悪していた.

What’s your diagnosis ?







【診断】
かぼちゃの種による腸石

【経過】
■ 一般内科病棟に入院後, 浣腸後に用手的排便を試みたが失敗に終わった.
■ 直腸内腔は空虚で, 硬い便塊(鋭い種子の殻)を触知した. これは「結腸クランチ徴候」陽性としても知られる.
■ 消化器内科にコンサルトし, ポリエチレングリコールによる大腸内視鏡前処置と2時間毎の浣腸を実施した.
■ 入院2日目から種子や殻を含む透明な液状便が出るようになった.
■ 直腸閉塞の素因の有無を評価するため, 腫瘍性病変や器質的原因の評価目的に大腸内視鏡検査を施行した.
■ 直腸S状結腸に腫瘍性病変は認めず, 胃石は完全に排出されていた. 肛門管近くの直腸に多発する全周性潰瘍を認め, カボチャの種による圧迫が原因と考えられた(図2).

■ 無事退院し, 定期受診まで毎日ポリエチレングリコールを内服し排便し続けるよう指示した.

【考察】
■ 胃石には毛髪胃石(毛髪の摂取による), 乳酸胃石(乳糖や乳製品による), 薬物胃石(薬剤による), 植物胃石(果物や野菜による)などがある. 植物胃石は最も一般的な胃石で, 消化不能な植物性物質の摂取によって引き起こされる.

■ 種子による胃石は植物胃石の一種で, 米国では稀であり, 70%以上が東地中海地方と中東で発生している.

■ 種子胃石はスイカの種, ヒマワリの種, ウチワサボテンの種, バナナの種, カボチャの種, ナツメヤシの種, ポップコーンの種など他にも稀な原因によって引き起こされる.

■ 種子胃石はの地理的な分布の違いは, 果物や野菜を多く含む食事, したがって種子の摂取量が多いことを反映していると考えられる. カボチャの種やヒマワリの種は米国では年中入手できる. カボチャの種による胃石の症例報告はごくわずかで, 米国での報告は2例のみである.

■ 胃石は消化管のどこにでも発生しうるが, 通常は胃に認められる. しかし種子胃石は直腸S状結腸に最も多く認められる. これは種子の外殻は酸と人の消化酵素に抵抗性があり, 小さいサイズゆえに幽門と回盲弁を通過できる. 殻が結腸に到達する頃には脱水され硬い胃石を形成し, 排出が困難になる可能性がある.

■ 胃石は通常, 器質的原因, 精神疾患, 嚢胞性線維症などの素因を伴う. 対照的に, 種子胃石は素因のない患者が大量の殻付きの種子(外皮のある丸ごとの種子)を食べることで引き起こされる. 種子胃石の治療に関するデータは限られているため, 患者の腸閉塞のリスクを高める素因を考慮するのが妥当と思われる.

■ 種子胃石は直腸に発生するため, 一般的な主訴は便秘で, 次いで非特異的な腹痛や直腸痛である. 重大な直腸出血や穿孔は稀である. 診断には最近の食事歴が重要である. 直腸指診で「結腸クランチ徴候」が陽性となることがあり, これは種子の残渣の鋭いあるいは不整な縁を持つ「カリカリ」とした塊が触知されることである. 腹部画像検査は, 胃石を可視化し, 外科的介入を要する可能性のある合併症を除外するのに役立つ.

■ 種子胃石部位の直腸潰瘍や腸管壁の潰瘍が認められることがあり, これは硬い胃石と未消化の種子の殻の鋭い縁による圧迫壊死の病態が原因と考えられる.

■ 特定のタイプの植物胃石を溶解するための具体的な治療選択肢はいくつかあるが, 種子胃石の治療指針は明確なものはない. 選択肢には, 下剤と浣腸による保存的治療, 用手的摘便, 麻酔下の検査, 内視鏡的治療などがある.

■ 本症例では, 患者の大腸内視鏡検査前に下剤(ポリエチレングリコールによる前処置)と浣腸による保存的治療で種子胃石は消失した.

■ 後ろ向きの症例集積研究では, 69%の種子胃石が摘便で管理でき, 22%の症例で手術を要した. 種子胃石が直腸よりも近位(胃, 小腸, 大腸)にある場合, 特に腸閉塞が疑われる場合や, 非手術的治療が奏功しない患者, 重大な出血や穿孔などの合併症を有する場合には, 外科的治療が必要となる. 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?