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臨床推論 Case179

J Nucl Cardiol. 2013 Dec;20(6):1184-5.
PMID: 23979819.

【症例】
80歳男性

【既往/治療歴】
心筋梗塞

【現病歴/現症】
■ 発熱, 悪寒, トロポニン上昇を主訴に紹介受診された.
■ 3週間前に当院で左回旋枝(LCX)と左前下行枝(LAD)に2回に分けて複雑な冠動脈インターベンションが行われていた.
■ 血液でCRP, プロカルシトニン上昇あり.
■ 初診時の心電図は以前の心電図と比べて著変なく, 心エコー検査でも新たな壁運動異常や心嚢液貯留は認めなかった.

【経過①】
■ PIPC/TAZで敗血症として治療を開始した.
■ 血培2セットでE. coliが検出された.
■ CTでは特に熱源を指摘できず, ステントがうつっていた.

■ 心筋血流シンチグラフィ(SPECT)では有意な虚血所見は認めなかった.

■ 抗菌薬治療10日後に一旦休薬したところ, 5日後に発熱が再発し, 抗菌薬治療を再開した.
■ 心臓PET-CTを施行したところ, LADステント領域に集積亢進と心嚢液貯留および心嚢液側にも集積を認めた.

What’s your diagnosis ?




【診断】
冠動脈ステント感染による化膿性心外膜炎

【経過②】
■ 心嚢液を1回ドレナージしたところ膿性であった. 培養でE. coliが検出され, 血液培養の結果と一致した. 抗菌薬をセフロキシムとシプロフロキサシンに変更し, 計12カ月間継続した.
■ その後炎症反応は正常化し, 外科的処置は実施せず軽快し, 再発なく経過している.

【考察】
■ 冠動脈インターベンション後の原因不明の発熱では, 冠動脈ステント感染を鑑別に挙げるべきである.
■ 本症例はPET-CTがこのまれだが重篤な病態の診断に有用であることを示唆している.
■ ステント感染のリスクは以下の通り.

AIM Clinical Cases. 2023;2:e221363.

【症例】
52歳 男性

【経過①】
■ 重度の胸痛で受診され, ST上昇しており心筋梗塞の診断で経皮的冠動脈形成術を施行し薬剤溶出性ステントを留置した. PCI後の心電図でST上昇は改善し, 経胸壁心エコーで左室駆出率30-40%を認めた. 患者の症状は改善し, 退院となった.

■ 退院翌日, 激しい胸痛で再入院し, 緊急冠動脈造影を行ったところ, ステントに血栓症を認めた. ステント内でバルーン血管形成術を行い, 末梢側にオーバーラップする形でステントを留置した.
■ 検査所見では白血球数14.03×109/Lの上昇を認めた.■ 経胸壁心エコー再検では左室駆出率低下(45%)と左室側壁および下側壁の無収縮を認めたが, 明らかな弁膜症の疣贅は認めなかった.

■ 入院4日目に, 頻脈, 38.7℃の発熱, 低血圧, 白血球数18.01×109/Lの上昇を認めた.
■ 血液培養を採取し, バンコマイシンとセフェピムの静注を経験的に開始した.

■ 入院5日目の血液培養でMSSAが検出され, セファゾリン静注に変更した.
■ 入院5日目から9日目まで血液培養は持続的にMSSA陽性であった.
■ 入院10日目, 血液培養の陰性化を促進するためセファゾリンにエルタペネムを追加した.

■ 造影CT検査で, は以下の通り.

【経過②】
■ 心嚢液貯留とステント周囲の心筋液体貯留, 前壁心筋の濃度上昇認め, 心筋膿瘍またはステント感染が疑われた.
■ 入院10日目に初めて血液培養が陰性化した. セファゾリンとエルタペネムの静注を7日間継続し, その後エルタペネムを中止した.
■ 冠動脈ステント感染の可能性が懸念されたため,心臓PET検査を実施した.
■ 心臓PETで, ステント部位の疑われる心筋膿瘍に一致して強い集積を認めた.

【経過③】
■ 体力が消耗し, 開胸手術および経皮的ステント抜去はいずれも極めて高リスクと判断された.
■ 多職種心内膜炎チームは, セファゾリンによる6週間の抗菌薬治療と, ステント抜去について検討するための循環器科および心臓外科の外来フォローアップを推奨した.
■ 入院継続して抗生剤投与を継続し, 退院された.
■ その後のフォローアップは来院されてなかった.

【考察】
■ 冠動脈ステント感染症はPCIの稀な合併症で,外科的治療を要するが多い. 本症例は内科的治療のみで良好に治療し得た冠動脈ステント感染症の稀な一例である.
■ まれな疾患であり, 冠動脈ステント感染症の診断は困難である.
■ 確定診断がついた例のは多くの場合, 外科的介入後または剖検で得られる.
■ 文献のレビューでは, 23例の冠動脈ステント感染症の報告を同定した(一部のみ記載).

大半は50歳以上の男性で, 本症例のように発熱と胸痛を主訴としていた. また, 心筋膿瘍や感染性心嚢液を合併した症例も多かった. 冠動脈ステント留置後10日未満に感染症状を呈した症例は「早期感染」, 10日以上経過した症例は「晩期感染」と分類された.

■ 冠動脈ステント感染症は, アクセス部位の複数回穿刺, 長い手技時間, 24時間以上の動脈シース留置, 薬剤溶出性ステントの使用など, より頻繁に起こることが示されている.

■ 報告された冠動脈ステント感染症の19例(82.6%)は黄色ブドウ球菌が原因で, 3例は緑膿菌, 1例はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が原因であった. 注目すべきは, 本症例を含むすべてのMSSA冠動脈感染症は早期発症に分類されたが, ほとんどの晩期感染症はMRSAによるものであった.

■ 2000年にRobert Dieterが冠動脈ステント感染症の診断基準を提唱した.

Definitive diagnosis
⚫︎ 感染性冠動脈ステントまたはステント複合体の証拠がある病理学的検体

possible diagnosis  以下の少なくとも3つの基準を満たす
⚫︎ 発症4週間以内の冠動脈ステント留置
⚫︎ 同一の動脈シースまたは動脈穿刺部位の合併症の周囲で複数回の心臓手技を繰り返す
⚫︎ 血液培養陽性の菌血症
⚫︎ 細菌感染がない状態での発熱(>38.6℃)
⚫︎ 細菌感染がない状態での白血球増多症
⚫︎ 急性冠症候群
⚫︎ 炎症と一致する心臓画像所見

■ 剖検または手術検体など冠動脈ステント感染が証明された場合, 確定診断とされた.
■ Dieterの基準では, CTや心エコー, MRIなど複数のイメージング検査を用いて冠動脈ステント感染症の臨床診断を確立することを提案している.
■ 経食道心エコーは11例で使用され, そのうち5例(45.5%)で冠動脈ステント感染症を疑う所見が得られた. 11例で冠動脈造影検査も行われた. 全例でステント部位またはその遠位に複数の真性瘤または仮性瘤を認め, ステント感染症に合致していた. しかし, どのイメージング検査が冠動脈ステント感染症の検出に最も適しているかは不明である.

■ 冠動脈ステント感染症の治療は, 内科的治療と外科的治療を組み合わせる必要がある. 抗菌薬治療が主体であるが, 良好な臨床転帰のためには外科的治療が必要なことが多い.

■ 全体の死亡率は高く, 入院中に39.1%が死亡していた. 早期発症感染症の死亡率は42%, 晩期感染症では36%であった(P=0.806). 早期発症感染症は, 内科的治療のみの場合も内科的・外科的治療併用の場合も33%の死亡率であった. 一方, 晩期感染症では, 外科的治療を受けた患者は内科的治療のみと比較して有意に死亡率が改善していた(14% vs 75%, P=0.048).

■ 本症例は, 冠動脈ステント留置約8日後に早期発症感染症の症状で発症した. 発熱, 白血球増多, 菌血症, 最近の冠動脈ステント留置, 急性冠症候群など, Dieterの基準で冠動脈ステント感染症の疑い例に該当した. また, 感染を示唆する画像所見も認めた. 本症例ではCT所見が感染に合致していた. さらに, 心臓PETも感染を示唆しており, 診断が不確実な場合はPETの有用性が示された. 本症例は, 循環器内科医, 心臓外科医, 感染症専門医からなる多職種チームアプローチで治療された. いくつかの患者因子により, 外科的治療は極めて高リスクと判断された. しかし, 新規の抗菌薬併用療法と支持療法により血液培養の陰性化が達成され, 内科的治療を完遂することができた.

■ 冠動脈ステント感染症はPCIのまれではあるが知られた合併症で, 高い死亡率と関連している. 冠動脈ステント留置後30日以内に発熱, 白血球増多, 菌血症, 新規の急性冠症候群を呈する患者では, 本疾患を強く疑うべきである. 複数の画像検査が診断の助けとなり, 患者は標的抗菌薬治療を選択し外科的治療の適応を判断できる多職種チームで管理するのが最善と思われる. 早期発症感染症は内科的治療のみでも効果的に治療できる可能性があるが, 晩期感染症は抗菌薬治療と外科的治療を組み合わせたアプローチが有益と考えられる.

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