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臨床推論 Case164

Case Rep Dermatol Med. 2023 Mar 31;2023:6353919.
PMID: 37034844;

【症例】
43歳 男性.

【主訴】
皮疹

【現病歴】
■ 前胸部, 背部, 上下肢, 陰部, 口唇粘膜に繰り返す水疱性の皮疹を主訴に来院した. 患者は約5年前から減量目的でメトホルミンを開始していた. 糖尿病, 高血圧, その他の基礎疾患の既往はなかった. 不規則かつ断続的にメトホルミンを使用していた. 他の薬やサプリは使用していなかった.
■ 初回の皮疹はメトホルミン開始2週間後に出現した. それ以降は皮疹は全身性に断続的に出現し続けた.

【現症】
■ 診察:胸部, 四肢, 外陰部, 口唇に中心が暗色調を呈する境界明瞭な赤~紫色の局面が多数認められ, 水疱を伴っていた.

■ SJS/TEN, 水疱性類天疱瘡の臨床的疑いから, パンチ生検を実施した.
■ 病理:表皮真皮接合部の液状変性, アポトーシス性角化細胞, 好酸球浸潤を伴う色素失調が認められた.

What’s your diagnosis ?






【診断】
汎発性水疱性固定薬疹

【経過】
■ Naranjoスケールスコア合計は10点で, 「明確な」有害事象に該当した.
■ メトホルミン誘発性汎発性水疱性固定薬疹と診断し,メトホルミンを中止した.
■ メトホルミン中止しプレドニゾロン40mgとシクロスポリン100mgによる治療を行い皮疹は改善した.

■ 治療中, 患者は独断でメトホルミンを再度服用した.
■ すると病変がより顕著かつ重症化し, 広範な皮膚剥離と びらん・潰瘍を伴う水疱性病変が生じた.

■ メトホルミンを再度中止し, 外用クロベタゾールプロピオン酸エステル, プレドニゾロン, シクロスポリンで治療し, 臨床的改善後に徐々に減量した.
■ 6ヶ月の経過観察中, 再発なく経過良好である.

【考察】
■ メトホルミンの最も一般的な合併症は, 悪心, 嘔吐, 下痢などの消化器症状である.
■ まれにメトホルミンは皮疹を呈し, 白血球破砕性血管炎, DRESS症候群, 乾癬様・扁平苔癬様薬疹, 光線過敏症反応, 固定薬疹(FDE)などを引き起こす.
■ FDEを引き起こす最も頻度の高い薬剤には, 抗菌薬(トリメトプリム-スルファメトキサゾール, テトラサイクリン, ペニシリン, キノロン系など), 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID), 催眠薬(バルビツール酸系など), 抗痙攣薬(カルバマゼピンなど)などがある.
■ 通常, FDEは皮膚の免疫学的反応として発現し, 原因薬物に再暴露されると同じ部位に病変が再発する. 病変は, 口唇, 手掌, 背部下部, 腰, 鼠径部, 足底に生じることがある. 病変は通常, 浮腫性や水疱性病変に進展することがある単発の病変である.

■ 汎発性水疱性固定薬疹(FDE)は, 全身体表面積の10%以上, かつ6つの部位のうち3つ以上に水疱と びらんを生じるものと定義される.

■ 重要な鑑別疾患はSJS/TENである.

■ メトホルミン誘発性FDEは6例報告されている.

▫️すべて40歳以上で, 女性3例, 男性3例である.
▫️下肢が最も多い. (5例)
▫️顔面に病変を有する患者は1例のみであった.
▫️体幹に関与するFDE病変の報告はなく, 今回の症例では初めて認められた.

■ FDEの治療は主に原因薬の特定と中止である. また, 重症例や症状のある患者には, 全身性抗ヒスタミン薬や局所または全身性ステロイド薬を使用することもある.

■汎発性水疱性はレアでありの最適な治療法はまだ確立されていない. 原因薬の即時中止と, 抗ヒスタミン薬, 鎮痛薬, 消毒薬による支持療法が含まれる. ステロイドの有効性は証明されていないが, 重症例では使用される.


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