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臨床推論 Case165

Intern Med 63: 989-992, 2024
PMID: 37558481.

【症例】
64歳 女性

【既往/治療歴】
シェーグレン症候群:数年PSL3mg内服

【現病歴】
■ 胸部X線で偶然右中肺野の空洞と両側下肺野の浸潤影を指摘され, 4年前に当科を受診した. 喀痰からMycobacterium intracellulareが分離され, NTM感染症と診断された. 眼科疾患を認めたため, エタンブトールは使用せず, リファンピシン, クラリスロマイシン, シタフロキサシンで治療を行っていた. 
■ しかし, 治療にもかかわらず空洞は拡大し続けた.

■ 治療継続中, 大量喀血のため当院へ緊急搬送された.

【現症】
■ バイタル:身長155cm, 体重35.4kg, 体温36.2℃, 血圧131/81mmHg, 脈拍112/分, SpO2 95%(10L/分), 呼吸数32/分.
■ 診察:右前胸部で呼吸音は減弱していた.
■ 血液検査:白血球数9,400/μL, CRP 2.85mg/d, ヘモグロビン8.3g/dL.
■ 胸部X線:右上肺野と両側下肺野の浸潤影の拡大, 左肺野の気管支血管束に沿ったすりガラス影を認めた.
■ 胸部造影CTは以下の通り

What’s your diagnosis ?







【診断】
肺MAC症による肺動脈瘤破裂

【経過】
■ 挿管し, 集中治療管理となった.
■ 3D-CTで右肺動脈から分岐し動脈瘤と関連する血管を認めた.

■ 肺動脈造影で, 右肺動脈上行枝と交通する動脈瘤を確認し, 同部位からの造影剤漏出を認め, PAAが出血源と同定された.
■ 責任血管をコイルで塞栓したところ, 造影剤の漏出は消失し手技を終了した.

■ PAE後, クラリスロマイシン, シタフロキサシン, アミカシンで治療したが, 喀痰塗抹で抗酸菌陽性が持続した.
■ PAE後, 膿性痰の垂れ込みが持続し, 右中下葉の炎症が遷延し連日気管支鏡下吸引を要した.
■ 肺動脈造影では肺動脈の血流が乏しく, 肺胞ガス交換への実質的な関与に乏しいことが示唆された.

■ 入院28日目に感染コントロール目的に右全肺切除術を行った.
■ 病理所見では, 右上葉に45×25mmの空洞があり, その周囲にコイルを認めた. ZN染色で乾酪壊死巣付近に抗酸菌の集塊を多数認めた. コイル塞栓部位に動脈瘤は確認できなかったが, その近傍に器質化血栓で閉塞した血管様構造物が多数見られた.

■ 手術3ヶ月後, 喀血の再発は認めず. 術後115日目に退院した.

【考察】
■ 肺動脈瘤(PAA)は発生部位により中枢型と末梢型に分類される. 中枢型は先天性心疾患や結合組織疾患が原因となることが多く, 末梢型は感染症, 自己免疫疾患, 肺高血圧症, 悪性腫瘍などの発症後に後天的に生じる.

■ 感染性PAAは梅毒, 細菌, 真菌, 結核, 敗血症性肺塞栓症などに関連することが多い.

■ Rasmussen瘤は結核罹患肺の空洞内に発生するPAAを指す. Santelliらは, 慢性空洞性結核患者の約5%にRasmussen瘤が認められると報告している. 近年, NTMの発症率は結核を上回り著しく増加している.

■ NTM感染症によるPAAは稀な病態であり報告は2例のみである. 本症例では, 右上葉の空洞を中心に乾酪性肉芽腫が見られ, チールネルゼン染色で多数の抗酸菌を認めた. 造影CTで栄養動脈となる肺動脈を伴う3cmの管腔内動脈瘤を認めた. これらの所見は結核によるRasmussen瘤に合致する.

■ 末梢型PAAの破裂は死亡率が高い. 肺動脈塞栓術は血行動態が不安定の場合, 外科的治療と比較して死亡率を大幅に低下させる.

■ 一方, 出血が治まっても感染が持続する場合は外科的治療が推奨される.

■ 本症例では全肺切除により感染がコントロールされた. NTM感染症によるPAAは稀ではあるが, 特に病勢コントロールが不良な症例では, 結核だけでなくNTM感染症でもRasmussen瘤が起こりうることを認識する必要がある.


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