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臨床推論 Case150

AACE Clin Case Rep. 2022 May 13;8(5):191-193.
PMID: 36189133

【主訴】
全身の関節痛

【既往・内服歴】
サルコイドーシス:片肺移植後
肺アスペルギルス症予防:7年間ボリコナゾール400mg/day内服中

【現病歴・現症】
■ 1年前から進行性のびまん性の骨の痛み, とくに肩や股関節の痛みのため受診された.
■ 診察:左手指の軟部組織の腫脹と疼痛を伴う結節を認めた. ばち指は認めず.

■ 採血:ALP469 U/L↑, 骨性ALP↑125μg/L, PTH-int 137 pg/mL↑, CRP正常
■ Xp・CT:両側股関節と両側大腿骨近位に多発性の骨膜炎を認めた.

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【診断】
ボリコナゾールによる骨膜炎反応

【経過】
ボリコナゾールを中止したところ, 画像上の骨変形は持続したものの, 症状は改善した.

【考察】
■ びまん性の骨痛は, 代謝性または炎症性疾患, 骨腫瘍など様々な疾患によって引き起こされる.

■ ボリコナゾール誘発性骨膜炎は, 症状と血液検査, 画像所見によって診断される. 主に下肢の関節に局所的な骨痛を呈することが多い. 上肢の関節にも生じることがある. 生化学は骨性ALPが持続高値になる. 骨膜炎は高用量で生じるが, ボリコナゾールのトラフ値は正常範囲内であることが多い.

■ 症例の大部分は免疫不全患者で報告されている. 免疫不全患者では, 真菌の予防または治療のためにより高用量または長期間のボリコナゾールが必要とされることが多い. そのため薬物への暴露量が高くなり, 骨膜炎のリスクが高くなる.

■ さらに薬物相互作用およびCYP2C19遺伝子多型によりボリコナゾールの代謝が速くなって, トラフ維持に高用量が必要になる可能性患者がいる.

■ 本症例では予防のために低用量を使用していて骨膜炎を発症した. 肺移植患者での侵襲性肺アスペルギルス症により高用量を使用するため, 骨膜炎も見られやすくなる.

■ 免疫抑制状態での骨膜炎はボリコナゾール誘発性骨膜炎と肥大性骨関節症を鑑別する必要がある.
▫️ボリコナゾールによる骨膜炎:非対称性で扁平骨(肋骨, 鎖骨, 肩甲骨, 寛骨臼, 手)に好発しする. 局所的で形は結節状, 緻密, 不規則である.
▫️ 肥大性骨関節症:対称性で指趾の太鼓ばち指を伴い, 長管骨に好発する. 骨膜反応は線状である.

Cleveland Clinic Journal of Medicine April 2017, 84 (4) 270-272;

■ ボリコナゾールはトリフルオロメチル基を有するため, 血中フッ化物濃度の上昇が骨芽細胞の増殖と骨フッ素症の原因であると考えられている. 骨フッ素症の症状はびまん性の骨痛である. 上肢と下肢の関節ともに影響を受ける.

■ 本症例のようにボリコナゾールの中止により骨膜炎の症状は改善したことが診断を裏付けている. しかし放射線学的所見は通常, 薬剤の中止後も改善しない. 臨床的に必要な場合は非フッ素化抗真菌薬への切り替えにより骨膜炎のリスクを減らすことができる.

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