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臨床推論 Case168

Cureus 16(4): e57591. 

【症例】
76歳 女性

【既往/治療歴】
症候性食道裂孔ヘルニア:PPI
心不全

手術や癌の既往や家族歴はない

【主訴】
腹痛 嘔吐

【現病歴】
■ 入院6ヵ月前に心窩部痛と嘔吐が出現し, 消化器内科医を受診して胃内視鏡検査と生検を受けた. 生検では食道裂孔ヘルニアとヘリコバクターピロリ菌性胃炎が認められ, 除菌が確認されないままH. pyloriの順次治療が行われた.
■ その後, 心窩部の間欠的な疼痛発作を繰り返していた.

■ 入院1週間前から心窩部に急性の疼痛と嘔気, 嘔吐が出現し受診された. 24時間以内に排ガス, 排便を認めていない.

【現症】
バイタル:問題なし
身体所見:上腹部の膨満と波動が認められたが, 触診で圧痛はなく, 心窩部から臍部周囲は鼓音を呈した. 腹部の聴診で腸雑音は亢進していたが, 腹膜刺激症状はなし.
血液:特記すべき異常なし

腹部CT:

What’s your diagnosis ?







【診断】
胃捻転 Gastric volvulus (GV)

【経過】
■ CTで胃の不均一な拡張と胃体部の縦軸方向の捻転, 胃排出の遅延, 鏡面形成を認め, 軸性GVが示唆された.
■ 数時間後,急激に血行動態が不安定となったため, 緊急手術となった.
■ 胃の軸性の回転と癒着を認めたが, 壊死の徴候はなかった.

■ 捻転部周囲の胃, 炎症組織, 癒着を慎重かつ段階的に剥離した後, 胃を反時計回りに回転させて捻転を解除し, 正常な位置に戻した. 噴門部を後方に回転させ, 食道中部に縫合する270度の噴門形成術と, 胃前壁を吸収糸で腹壁に固定する前胃壁固定術を行った.

■ 術後経過は良好で, 入院7日目に退院となった. その後, 合併症や再発なく良好に経過している.


【考察】
■ GVは稀な腸閉塞の形態で, 1579年にAmbroiseが剣創のある人の剖検で, 胸腔内GVを伴う絞扼性横隔膜ヘルニアの症例を報告したのが最初である.

■ GVとは, 胃の全部または一部が縦軸または横軸を中心に回転し, 高位閉塞, 絞扼, 虚血, 壊死を伴う胃拡張を引き起こす状態を指す.

■ 好発年齢は50歳代で, 小児の10-20%に発生する.

■ リスク:50歳以上, 食道裂孔ヘルニア, Larrey裂孔ヘルニア, Bochdalekヘルニア, 横隔膜弛緩症, 外傷性横隔膜ヘルニア, 横隔神経麻痺などの横隔膜異常, 遊走脾, 側湾症など

■ 症状は, 絞扼の程度とGVのタイプによって異なり, 3つに分類されている.
▫️急性型:重症でBorchardt三徴(急性疼痛, 嘔吐, 経鼻胃管挿入不能)を70%に認める. 虚血や嘔吐による粘膜裂傷による吐血を伴うこともある.
▫️慢性型:非特異的な症状が持続する. 胃が捻転し, 不完全に閉塞しているため, 慢性的な閉塞症状を引き起こす.
▫️間欠型:閉塞と改善を繰り返す.

■ 診断はCTでGVのタイプ, 原因, 胸腔内脱出による心肺への影響など包括的な評価ができる. 矢状断再構成により, 回転方向, 捻転点, 捻転に寄与する解剖学的因子の正確な同定が容易になり, 壁壊死の兆候も検出できるため, 適切なタイミングでの外科的介入の指針となる.

■ 胃内視鏡検査のGV検出における診断能は限られているが, GVを示唆する所見がある. 胃の解剖の歪みと幽門の観察ができないことはGVを示唆する.

■ GVの治療は保存的or手術である.
▫️第一に, 輸液と経鼻胃管挿入による早期の胃減圧と全身状態を整えることである. 胃壊死や縦隔炎のリスク, 手術部位感染予防のため, 広域スペクトルの静注用抗菌薬投与が推奨される.
▫️第二に手術である. 急性型は緊急手術の適応となる. 手術不適の患者では, 穿孔や壊死がなければ内視鏡的整復を試みる. 慢性GVは緊急性はない.

■ GVの外科的治療の基本は, 減圧, 整復, 再発予防である. Tannerは, GVの修復のためのいくつかの外科的選択肢を述べている. それには, 横隔膜ヘルニア修復術, 単純胃固定術, 胃結腸間膜切離術を伴う胃固定術(Tanner手術), 部分的胃切除術, 噴門幽門吻合術(Opolzer手術), 横隔膜弛緩症の修復などが含まれる.

■ 腹腔鏡下手術は,腹腔内へのアクセスしやすいため,しばしば実施される. 臓器の腹腔内への還納, 部分的または全胃切除術, 胃瘻造設術, 横隔膜の検索など, 追加手術が容易にできるというメリットがある. 開腹手術では, GVに対する従来の外科的アプローチは, 緊急開腹術と前胃壁固定術である. しかし, 壊死や胃穿孔がある場合は, 部分的または全胃切除術が必要になることがある.

■ GVにおける開腹手術と腹腔鏡下手術を比較したランダム化試験のデータはないが, 研究で腹腔鏡下手術の開腹手術に対する優位性が示されている研究もある.

■ Millet先生達が10例の胃捻転と20例の胃拡張症を比較した(Dig Surg 23: 169–172)

▫️この報告では幽門部に狭窄する病変がない・前底部が胃底部と位置が同じor高いことで感度・特異度100%と報告している.

▫️胃捻転の特徴:傍食道ヘルニアが多い・10cmを超える胃拡張は少ない・胃幽門洞にmassなし・前庭部の位置が胃底部と高さが同じor高位・前庭部が横隔膜内にあり

前庭部がヘルニアで横隔膜より上にあり, 体部よりも高位に位置している
前庭部が横隔膜より上にあり, 胃底部より高位にあり
これも前庭部が高い位置にきている

■ わかりやすいシェーマ

https://medicalrojak.wordpress.com/2015/11/09/gastric-volvulus/

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