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名もなきNote

脚本の魔術師、映画界のMr.マリックこと、テレンス・マリック監督の新作映画『名もなき生涯 (A Hidden Life)』を観たので、名もなき私が紹介します。この映画、きてます。

「名もなき」といっても"Nameless"の意味ではなく、"Hidden"の意味です。日本語って奥ゆかしい。Hiddenといえば「ドリーム事件」でお馴染みの映画『Hidden Figures』ですが、こちらはFiguresがダブルミーニングなのでやはり日本語訳は至難の技です。本作は無難な邦題に落ち着いて良かったです。ミニシアター系なので、名もなき映画館に行かなければ観れませんが、今は遠出しにくいですね。

時はWW2のまっさなか。場所はオーストリアの名もなき村ザンクト・ラーデグント。主人公はその村で愛する妻と3人の娘と暮らす名もなき農夫フランツ。もちろんハンドパワーなど使えませんが、周囲に流されず、あるがままの心で生きられる強さを持っています。しかしながら、自らの信念に従いナチスへの忠誠を拒んだことで、その平穏な日々は崩れていきます。

最近ではタイカ・ワイティティ監督の『ジョジョ・ラビット』をはじめ、戦争映画はその終結により救われることが多いので、フランツが逮捕されてからは、「早く1945年になってくれ!」と思わずにはいられませんでした。

オーストリアの荘厳な山々を自然光による長回しで美しく捉えた映像と、ジェームズ・ニュートン・ハワードによる力強く崇高な音楽が、フランツのその知られるべき生涯を一層神々しく引き立てます。

また、フランツは敬虔なキリスト教信者でしたが、理不尽な運命に対する「神の沈黙」は、マーティン・スコセッシ監督の『サイレンス』を思い出します。あの話も、名もなき宣教師の生涯を描いた、もう一つのHidden Lifeでした。

ところで、日本で「名もなき」で思いつくのは「万葉集」でしょうか。名もなき人々によって詠まれた歌が多数収録されています。そしてMr.Chirdrenの「名もなき詩」。ただし"Nameless"か"Hidden"が微妙なところですね。「名もなき歌」は愛する人に捧げられた歌ですが、「名もなき生涯」は今も世界中で自分を信じて戦う、名もなき人々に捧げられた映画でした。

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