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関西人の遠州弁学習記録

私は生まれも育ちも関西地方で、静岡県には住んだことがない。だが、縁あって浜松市出身の方から知遇を得て、私も相手のことを学ぼうと思うようになった。友人と知り合ってから二年が経ち、やっと違和感はない程度には話せるようになったので、ここにその記録を残したい。もっとも、言語を操るということに完成はないので、これからも改良を続けていきたい。この文章をご覧になった方で誤りに気付かれた方がいらっしゃれば、ぜひご指摘いただきたい。

学習の目標


友人(二十歳)と同じくらいの年齢の方が話す遠州弁を操れることを目標としたので、中高年の方が話すものとは乖離があるかもしれない。なお、友人は浜松の市街地で暮らしており、天竜区や掛川方面の出身ではない。
学ぶ手順として、アクセントを第一に学び、次によく使われる表現、その次にあまり使わない表現を学ぶという三段階をとった。私自身の経験として、メディアから流れてくる実態とは離れたステレオタイプな関西弁の使い方や、アクセントの違いを無視した語尾だけを真似たような言い方を聞いては落胆したことが多くあった。そのため、自分が他の地域の方言を使う時が来れば、アクセントはもちろん、なるべくその土地の人が使っている言葉をベースに話すようにしたいと思った。だから、私と同年代の人が今、話している言葉を使えるようになることを目標としてこの手順としている。

私について
一口に関西弁といっても世代や地域によって差異があるので、私がどんな世代で、どの地域の者か載せておく。私は二十一歳で、奈良県に生まれ育った。ただし、父親の家系が元々大阪(河内地方)に住んでいたので、その影響もあると思われる。私が想定しているのは、河内弁よりの奈良弁だと思ってほしい。

1.アクセント


関西弁と遠州弁の最大の違いはアクセントと言っても過言ではないだろう。関西弁は京阪式アクセントなのに対して、遠州弁は東京式アクセント(具体的には、外輪東京式)である。そのため、基本的には標準語と同じアクセントになる。「半袖」や「苺」など、特有のアクセントはあるが、まずは標準語のアクセントを把握すれば大方は習得できる。私の場合、アクセントで引っ掛かる部分を覚えておき、口に出す時に意識しておくと東京式アクセントでも発音できるようになった。もし私のような方がいらっしゃれば、自分の話し言葉との違いを意識して聞き、変だと思ったアクセントをひとまず記憶しておくと良い。もしくは、好きなドラマやアニメの台詞を聞きながら、普段の言葉遣いとの違いを意識したり、その台詞を真似したりする方法もおすすめである。
基本は標準語と同じアクセントで問題は無いが、地元の方の話し方を再現する上では、地名や会社名等の固有名詞でアクセントが異なるものは抑えておきたい(例えば、磐田、ヤマハ、スズキは頭高型になる、等)。ただし、個人差が大きい部分でもあるので、絶対的な正解があるとは考えず、とりあえずはよく使われる代表的なものを覚えるので十分だろう。

2.表現

方言特有の表現を紹介する場合には、なるべく標準語に直した形で紹介されることが多い。ところが、私はずっと日常会話では関西弁を使って来たので、標準語に直すとかえって意味が取りづらい。
そのため、完全に同じ意味にはならないことは承知で、会話での感覚がつかめるようにするため(友人に表現の使い方を尋ねたところ、感覚で使っているからうまく説明するのが難しい、と言われたので、それなら私が知っている関西弁の感覚に置き換えれば分かるのでは、と思ったのである)、なるべく関西弁に置き換えられないか試して行くことにした。最初は置き換えやすい語尾から始めて、関西弁と共通する表現・似ている表現を学び、徐々に特有の表現に馴染めるように進めた。以下でも遠州弁を関西弁に変換する形で述べるので、関西弁に馴染みがない方には少々理解しづらいかもしれないが、学んだ過程をそのまま記録するということでご容赦いただきたい。

語尾


①〜だら/ら?→やろ?
例文
・浜松にはパルパルランドがあるだら?→浜松にはパルパルランドがあるやろ?
・昨日イオンに行ったら?→昨日イオン行ったやろ?
・これ美味しいね/だら〜?→これ美味いな/せやろ〜?

確認の意味を持つ疑問文で用いる。そのため、単純に疑問を尋ねる時には使えない。〜だらは用言、体言に付くが、〜らは用言にのみ付く。また、「だら」は相手の発言を受けて同意を求める場合にも使われるが、これも「やろ」と使い方は同じ。

②〜じゃん/〜じゃんね→やん/やんな・やんか
例文
・今日が締切日じゃん→今日締切日やん
・明日は金曜日じゃんね→明日は金曜日やんな(やんか)

断定、確認の接尾語。断定の意味で用いるのは一般的な使い方と変わりないが、確認で「〜じゃんね」と聞く用法は中部地方に特有で、よく使われる。
なお、「〜じゃんね?」と過去にあったことを述べて話を繋げる用法があるが、これは関西弁でいう「〜んやんか」に置き換えられる(と思う)。「〜やんか」は相手に前提知識がある上で使うのに対して(つまり、じゃんねの用法の一つと同じ)、「〜んやんか」は相手が知らない場合に用いる。
例文
昨日スーパーに行ったじゃんね?そしたら…

昨日スーパーに行ったんやんか、そしたら…

③に/〜だに→で/やで
例文
・ここに居るに→ここに居るで
・これが浜名湖だに→これが浜名湖やで

自分の伝えたいことを強調したい時に用いる語尾。「〜ら」と「〜だら」の関係と同じく、「〜に」は用言に付き、「〜だに」は体言に付くという違いがある。

他によく使われる語尾として、疑問詞の「〜け?」があるが、これは関西弁(厳密には河内弁)にもある表現なのでそのまま使うことができる。ただ、友人曰く親しい仲でないと使わないようなので、知り合って日が浅い人には使うべきではないのだろう。

接続詞


遠州弁の特徴的な表現に、接続詞として、〜で/〜だで/〜だもんで を用いることが挙げられる。非常によく使われる表現なので、友人も方言とは思っていなかったようだ。そのため、アクセント、語尾に続いて接続詞の用法を使えるようになると、かなり地元の人の話し方に近づけることができる。これも関西弁に置き換えて考えてみる。

〜で/〜だで/〜だもんで はいずれも意味はほとんど同じだが、だもんでは単独で用いることができるが、それ以外は単独では使えないという違いがある。

「〜で」は「〜よって」と用法が近い。これは用言に付いて接続詞としてはたらく。
例文
・そんな格好でいたら寒いで風邪引くに→そんな格好でおったら寒いよって風邪引くで

「〜だで」は「〜やよって」と用法が近い。体言に付いて理由を述べるときに用いる。
例文
・食事中だで静かにしろ→食事中やよって静かにしいや

「だもんで」は「せやよって」と用法が近い。「だもんで」は単独で用いる時はそのままだが、文中で用言に付けて用いる時は「〜もんで」に変化する(体言の場合は、「だもんで」であり、この場合は「やよって」に対応する)。「せやよって」も、文中で用いる時は「〜よって」に変化する。
例文
・だもんで浜松が好きなんだに→せやよって大阪が好きなんや
・さっき起きたもんで何もしてない→さっき起きたよって何もしてへん
・古い機種だもんで何も映らん→古い機種やよって何も映らへん

余談だが、私と同年代で「〜よって」を用いる人は体感ではかなり少なく、「〜やから」の方がよく用いられている(ここでは遠州弁と対比し、意味を把握するのに便利なので「よって」を用いている)。「〜よって」は元々関西で用いられていた表現で、「〜やから」は共通語の「〜だから」の影響を受けて、成立したものであるらしい。地方特有の表現が未だによく使われる遠州と、土着の表現に代わって新しい表現がよく使われる関西とは対照的である。

似た表現

しんとかん→しやんとあかん(せなあかん)
ほとんど意味は同じ。
例文
・バスの出発時刻が九時だもんで、八時には家を出んとかんのか→バスの出発時刻が九時やよって、八時には家を出やんなあかん(出なあかん)のか

えらい
一応しんどいに置き換えることもできるが、遠州弁での意味と同じく疲労を表す用法も関西弁にあるので、そのまま用いることもできる。
例文
・階段を急いで上ってきたでえらい→階段を急いで上ってきたよってしんどい(えらい)

打消の「ん」
関西弁における用法とほとんど同じ。未然形に付いて打消の意を表す。
例文
・見えんかっただら?→見えんかったやろ?

特有の表現


これは置き換えが容易なものもあれば、難しいものもある。変換できるものはしつつ、できないものは一つ一つ用法を覚えていく。置き換えられるものとそうでないものを明らかにすることで、会話で学び取るべき点も明らかになる。

(置き換えられるもの)
線引き→さし
定規のこと。

しょんない→しゃあない/しょうもない
例文
・それはしょんないら→それはしゃあないわ
・しょんないことに真実がある→しょうもないことに真実がある

うっちゃる→ほかす
例文
・それうっちゃって→それほかして

ど/ばか→めっちゃ
強調表現。凡そ同じ意味だが、「ど」は形容詞に付くのに対して、「ばか」は動詞にも付く。
例文
・今日はど寒いら→今日めっちゃさぶいなあ
・ばか腹立つ→めっちゃ腹立つ

しゅうら→人ら
例文
・ああいうしゅうらが居るで騒がしくなる→ああいう人らが居るよって騒がしなる

(置き換えにくいもの)
・ぶしょったい
・けっこい
上から見苦しい、綺麗の意。類似した意味の単語はないので、実際に使っている様子から学ぶ必要がある。

・〜だよ、〜だけど、〜だね
「〜したんだよ」とはせずに「〜しただよ」、「〜しただけど」、等で表すことがある。つまり、助詞を抜いた形で言うことがある。
例文
昨日はハンバーグを食べただよ→昨日はハンバーグを食べたで

細かな違いはあるだけど、大体一緒だに→細かな違いはあるんやけど、大体一緒やね

3.参考にしたもの


以下に、自分が遠州弁を学習する上で参考にした動画やWebサイトを挙げる。

ザコシの動画

ザコシは静岡市清水区の出身なので厳密には遠州弁とは異なるが、投稿している動画には静岡弁が使われていることが多く、静岡方言の雰囲気を掴むことができる。冒頭では友人と知り合って二年で話せるようになったと書いたが、実は中学生の頃からザコシの動画を見ていたので何となく静岡弁の特徴は知っていたのである(詐欺のようでごめんなさい)。
この他にも、「〜だら!?」や、「ばか〜」といった表現が他の動画で見られる。

富神風さんの動画

こちらは遠州出身の方による解説動画。語尾からアクセントまで丁寧な解説に解説されている上、練習問題もあるので一通り見れば遠州弁について大方理解できるはず。落ち着いた声で聞いていて心地が良く、理解が捗る。

遠州弁の解説サイト

こちらも遠州の方によるサイト。遠州弁についての情報が網羅されており、単語を確認したり、文法の参考にしたりする上で非常に役立つ。また、実際に浜松で産業に携わっている方から収集しており、実用的なものが集まっているといえる。

東海オンエアの三河弁

地理的に近いため、三河弁と遠州弁は共通する語彙が多く、基本的な文法はほとんど同じなので話し方を知る上で参考になる。ただし、三河弁には「〜りん」や「〜かや」等頻出単語でも遠州弁では用いない表現もあるので、その点は注意が必要である(逆に言えば、遠州弁を話せるようになったら、細かい部分を変えれば三河弁もある程度は話すことができる)。

最後に…スペシャルサンクス 友人

そして、読んでいただいたあなたにも…


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