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私の家族はあなたの家族が見えている

ドイツに着いて一週間が経ちました。日本を出発前に家の片付けで二徹したので疲れ果てていましたが、ようやく時差ぼけが治ってきて、毎日8時間たっぷり寝て料理もつくって朝昼晩をちゃんと食べる日々を送っています(この数年間のバタバタとと比べて、なんと非常に健康的な生活です)。

今回の滞在先はベルリンから電車で1時間半ほど離れている、デッサウというまちです。空港からの電車の中でほとんどの人はまだマスクをつけていましたが、電車を降りたときに迎えてくれたスタッフの第一印象は「久しぶりに初対面の人の顔を見た…笑顔だ...」というものでした。

着いた初日は8月末まで短期で借りることになったアパートを整えて、生活用品を買いにスーパーに行っただけですが、小さな不便が重なり思った以上にストレスフルでした。靴を履いたまま家の中まで入っていくこと。シャンプー、これはどんな種類のなんの香り...?なんだかんだフレーバーウォーターが多いけどこれは味が入っていない普通の水よね...とドイツ語のラベルを見て戸惑う。シャワーからは熱湯が出る(冷たい水の水圧が足りないと言われてまだ直っていない)。マットレスと枕が柔らかすぎる(まあまあ慣れてきた)。普段海外旅行に行くときは旅の醍醐味だと思ってよしとすることですが、これから四ヶ月間もここで暮らすことになること、しかも大好きな家を手放してここに来たのに…ということを考えると少しホームシックになりました。

今回のプロジェクトに参加している8人のリサーチメンバーにはドイツ人はいませんが、すでにドイツに住んでいる二人以外の、ポーランド、フィンランド、イギリス、南アフリカ、タンザニア、そして日本(私)から集まってきたメンバーは受入先のファウンデーションが連携している、現地の不動産からアパートを借りています。1969年から1972年の間に実験集合住宅として建設され、Y字形のフロアプランがあることから、通称「Y-Haus(Yハウス)」と呼ばれているアパートです。家のフロントドアは非常階段に思えるような踊り場にあって不思議な部分もありますが、Y字型のおかげでリビングがある東側も寝室がある西側も日が入るので、明るくて気に入っています。無機質なコンクリート外壁も社会主義だった東ドイツの質感を想起させますが、デッサウの中でも一番高い建物で、駅の向こう側にあるバウハウス校舎からも見えるのでデッサウの(ちょっとした)ランドマークとして知られているそうです。

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Y-Hausは3棟あって、エレベーターロビーとつながるベランダの外壁は緑、青、赤でカラーコーディングされていますが、自分はこの赤の1階(=日本の2階)に住んでいます。ちなみに、エレベーターは3、6、9階にしか止まりません。

3LDKの間取りで広さは56平方メートルくらい、Bekeという南アフリカ人の建築家/リサーチャーと二人でフラットシェアしています。コーヒーが好きな彼女は南アフリカからコーヒー豆、コーヒーミル、直火式エスプレッソメーカーを持ってきていて(毎朝とても助かっている)、食べものや飲みもの、ハンドソープやトイレットペーパーなどの生活用品も色が入っていないオリジナルや無色のものを選びたい派でしたので(とても大事)、一緒に住み始めてすぐに意気投合しました。

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Y-Hausのすぐ隣に大きな公園があって、リビングの窓も公園に面していて気持ちいいです。

Bekeの母語はZulu/ズールー語ですが、「sanibona(サウボーナ)」という挨拶を教えてもらいました。「Sanibona」の意味は「we see you」。この「we」「you」は”複数のわたしたち、複数のあなたたち”が含まれているという。なぜ複数なのかと聞いてみたら、「私の家族はあなたの家族が見えている」という意味を持っているそうです。先祖も含めた家族。挨拶の言葉で自分の家族を背負いながら話し相手の家族に立ち向かう言語を初めて知りましたが、かなり興奮して感動しました。

ちなみに、アパートではWi-Fiが繋がらなくて、他のリサーチメンバーがO2やVodaphoneなどのキャリアにいろいろ問い合わせた結果、データ量が十分にあって一番お得なプランでも一ヶ月70ユーロ(9,500円)かかって、しかもルーターを別途に買わないといけないので自分は加入しないことにしました。ネットを使いたいときはBauhaus Buildingのスタジオに行ってメールに返信したりSNSを見たり、先週からは事前にNetflixをダウンロードして夜に家で観ました(結局『ヒヤマケンタロウの妊娠』を一気見してしまって、今はBekeにおすすめしてもらった『僕と君と彼女の関係』を観ています)。SNSから少し離れた生活も悪くない。し、時間の流れをすごく意識するようになりましたが、ようやく自分のペースで動けて、自分のための時間ができるようにも思えました。ここで暮らしている間、ズールーの家族についてももう少し話を聞きたいと思います。


日本語添削:原田梨奈


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