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苦みのマズさと黄金色

子どもの頃、両親や大人が美味しそうに飲むビールを見て、

「ビールとは美味しいものなんだ。」という刷り込みができあがった。


何かの間違えで、ビールを口にしてしまったとき、その刷り込みは破壊された。

それはもう粉々に。

あんなにマズくて苦いとは知らなかった。

どうして、大人はあんなものを極上の飲み物みたいな顔して飲むのか不思議だった。

それ以降、ビールと聞くと、

「苦くてマズイもの。」

「絶対に飲みたくない。」

そう思うようになった。


そうなんけど……嫌よ嫌よも好きのうち。

という言葉があるように、嫌いなんだけどどうしても気になってしまう。

私はマズいと思っているビールを、皆美味しそうに飲む。

いつも気にしていた。


矛盾しているかもしれないが、私の夢はおばあちゃんと、ビールを飲むことだった。

両親が仕事で夜遅くに帰ってくることが多かったため、同居していたおばあちゃんと遊ぶことが多かった。


おばあちゃんはいわゆる「ザル」で、同窓会で飲み比べをして最後まで残って潰れた人を介抱していた話とか、ちっとも酔わないから飲んでも面白くないなど、お酒にまつわる話を時折私にしてくれた。


飲んだこともないお酒にまつわる話を、興味津々で聞いていた。

そして私に向かって「いつか一緒に飲みたいね」と続けてくれた。


そうしていつの間にか、私はおばあちゃんとお酒を飲むことが夢になった。


待ちに待った二十歳の誕生日、おばあちゃんからお金をもらってコンビニでビールを買ってきた。


ビニール袋を片手にぶら下げ、ウキウキとおばあちゃんの元へ帰る。

年齢確認をされたけど、堂々と学生書を見せて買えたことを自慢げに話した。

おばあちゃんはニコニコと話を聞きながら、グラスを準備した。

黄金色の液体が、グラスに注がれる。

待ちわびた瞬間が来たのだ。


片手にしっかりとグラスを握り、おばあちゃんのグラスと合わせて

「かんぱーい!!おめでとう!!!」

と一口飲んだ。


やっぱり苦くてマズくて全部飲めなかった。

涙目でおばあちゃんを見ると美味しそうにビールを飲んでいた。

「美味しい?」と聞くと

「美味しいよ。」と嬉しさがにじむ声で私に伝える。

「おばあちゃんの念願だからね」と。

夢が一つ叶った瞬間だった。


あれからさらに年月が経って、いつの間にかあんなにマズくて飲めなったビールを、率先して飲むようになった。

「乾杯にはビールよね。この苦みがたまらない。」とも思う。

人って変わるもんだ。

私自身がびっくりする。


外で飲むことが減り、家飲みの機会が増えた。

そうだ、たまにはおばあちゃんと飲んでみようかな。

写真の中で笑っているおばあちゃんの前に、黄金色の液体を注いだグラスを置く。

「おばあちゃん、ビール美味しいね。やっと味がわかるようになったよ。」

「かんぱーい!!」


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