完全犯罪は2度繰り返す

「すごい……完璧だ」
計画書に目を通しながら、震えを隠せなかった。ここに書いてある手段を用いれば、あの男を……「ええ、殺せますよ」
黒スーツの男は悪魔的に微笑んだ。その眼の奥は凍りついたままに。
「あ、ありがとうございます……これで私は復讐を遂げる事ができます、必ずあの男を……!」
汗ばむ手を握りしめ、食い入るように“完全犯罪”の手順を頭に叩き込んでゆく。何重にも仕掛けられた殺意のアーキテクチャを自分のものとするために。
「ああ、お待ちなさい」
黒スーツの男が興奮した私を宥めるように手をかざした。
「は、はい。まだ何か」
「まだも何も、私の殺人計画書はこれでまだ半分ですよ」
黒スーツの男はそういうともう一冊の計画書をアタッシュケースの中から取り出した。
「これは……?だって、さっきの計画書に全て……」
「ええ、これで私の“殺人計画”は完璧に行えます。しかし、それだけではまだ半分にしか満たないのですよ、“完全犯罪”にはね」
そう言うと黒スーツの男は2冊目の計画書を開いて示した。
1ページ目には先ほどの計画書と同様、準備するべき物が記されている。

・蝋燭…3本
・塩…1kg
・麻縄…8m程度
・聖水…2瓶
・呪符…16枚

「あ、あの……何かの冗談ですか?」
黒スーツの男の目は変わらず凍りついたままだ。冗談などでは……無い。
「この2冊目の内容は現場での判断で行なっていただく部分が多々あり……」
「待ってください!こ、これは……なんの手順書何ですか!?」
「除霊ですよ。殺霊と言い換えても良いですが」
「除霊……って」
「霊は居ます」
黒スーツの男は変わらぬ調子で語る。
「完全犯罪が露見する主な原因は、殺した相手の霊の干渉によるものです、私の計画では人を殺し、霊を殺すことで完全な犯罪を遂行することとなります。それとも……」
黒スーツの男の口元が、嫌らしく歪んだ。
「貴方、人ひとり殺しておいて……本人から恨まれないとでも?」



【続く】

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