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参加者全体設計について考察した話〜交通事情について〜

本日は参加者全体設計について話したいと思います。
「参加者全体設計とは、関わっている参加者全ての視点を考え、最適なUXを導き出すこと」です。

私自身、プロダクトを立ち上げたり、デザインを行う中で必ず「参加者全体設計」を心がけています。ステークホルダーそれぞれの意見や行動をしっかり把握し、取り入れることで、より本質的な課題解決につながると思っています。

具体的に「交通事情」をテーマとして掲げ、社会心理学者の酒井さんと一緒に考察していきたいと思います。

日本での交通事故の死亡者は歩行者が最も多い(※1)

近年、悲惨な交通事故をよく耳にする機会が多く、とても悲しい気持ちになります。
統計から見たとき、日本での交通事故の死亡者は歩行者が最も多いそうです。
https://challengingpappa.com/2019/05/12/swedensafepedestrian/

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・日本と韓国は交通事故の死亡内訳が非常に似ている。
・日本と韓国は交通事故において乗用車の乗員の死亡割合が20%しかないのに対して、その他の主要国は概ね50%以上が乗員の死亡である。
・日本と韓国において、最も内訳が多い交通事故での死亡者は歩行者であり、40%と占める。
・それに対して、他の主要国は歩行者の死亡内訳は15%前後であり、交通事故の主な死亡者ではない。

歩行者に優しい自動運転車

歩行者との交通事故予防の施策を海外から紹介します。

北欧スウェーデンで開発された「歩行者に向かって微笑む自動運転車」です。
https://semcon.com/smilingcar/


この自動運転車は、センサーが歩行者を検知すると自動でブレーキをかけ、正面のディスプレイが点灯し、笑顔のマークが表示されます。その笑顔マークを見た歩行者は、自分は渡っていいんだ!と思い、安心して横断歩道を渡ることができます。

この事例は、従来にはなかった発想で、車に表情をつけて歩行者とコミュニケーションがとれるような仕組みにしていて、とてもユニークで安全なシステムです。

交通参加者全体のことを考えた社会デザイン

快適なドライビングの追求や、ドライバー視点のみのプロダクト設計は、一部の交通参加者だけを捉えており、参加者全体のことを考えた社会ではないと思います。

日本の車社会に必要なことは、交通参加者*同士の「対人交通コミュニケーション」*です。例えば、ハザードランプの点滅は、お礼のコミュニケーションとなっています。また、トラックの後ろに「法定速度遵守中、お先にどうぞ」といったメッセージをつけて、他の車とコミュニケーションを取っていることも見かけます。

*対人交通コミュニケーションでは,運転スキルを,一種のコミュニケーション・スキルと考えます。
*交通参加者とは,交通環境にいる人間。
例:歩行者,自転車,二輪車,乗用車,貨物車

蓮花(1996)の研究結果を見ると,下記の表があります。ここには,対人交通コミュニケーションのお作法が書かれています。先ほど例に挙げたハザードランプの点滅は,「お礼のハザードランプ」を意味します。

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これまでに軽視されていた「対人交通コミュニケーション」こそが、ドライバーの安全運転や、悲惨な交通事故の予防を促すための手がかりなのではないでしょうか?


交通心理学の研究では、交通事故を防ぐために、参加者同士のコミュニケーションの施策を打ち出しています。例えば、自動車の技術やドライバーのUXを研ぎ澄ませていくよりも、もう1つ上のレイヤー「交通のUX」つまり歩行者を含めた「参加者全体」で設計していくということです。


ドライバー優先のUXは日々進化していますが、スウェーデンの例のように、歩行者を思いやる自動車設計はまだまだ発展できる可能性があると考えられます。

※1(Road Safety Annual Report 2018)

参考文献
蓮花一己 (1996). 公式・非公式の対人交通コミュニケーションの理解に及ぼす運転経験の効果: スライド提示法を用いて  社会心理学研究, 12, 125-134. https://doi.org/10.14966/jssp.KJ00003724727

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