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9mm Parabellum Bullet 「Termination」 8bit 制作記

はじめに

この記事に興味を持ってアクセスしていただき、ありがとうございます!

Joと申します。YouTubeでは「キケロイシュ」という名前で活動しています。9mm Parabellum Bulletの8bitアレンジやアコースティックアレンジを制作しています。

この記事は「Termination 8bit」の制作に寄せて書いたものです。1曲1曲ごとの制作解説や思い出のエピソードなどを書いています。

記事を読んだ方に、Terminationの世界観や良さが伝わることを願います。

Terminationについて

Terminationは、私が9mmを知って2枚目に手に取ったアルバムです。私は「新しい光」で初めて9mmを知ったのですが、その次に聞いたのが「Punishment」でした。「なんだこのヤベー曲は!!!」と思った私は、Punishmentが入ったアルバムをレンタルしました。それがTerminationだったのです。私はギター弾きだったので「9mm Parabellum Bulletっていう、弾くのが超ムズイバンドがある」というのは知っていました。Terminationを聴いて、その意味を理解したのです。今まで聴いたどのバンドよりもクセが強く、激しく、災害のようなバンドでした。

「どの時期に、どのアルバムと過ごしていたか」は、音楽体験で重要な意味を持ってくると私は思います。特に、多感な中学高校の頃に傾聴した曲は、後になってその時の風景や匂いや感情とセットになって思い出されます。私はTerminationを高校2年くらいの時に聴いていたので、とても思い入れが深いです。Terminationを聴くと、通学時の寒さとか匂いとか、そういうものが蘇ってきます。若い頃に聴いた、9mmの若いアルバム。「若い」というキーワードで親近感を抱き、高校時代を一緒に過ごしたアルバムでした。特に、このアルバムには「Discommunication」「Termination」という9mmの有名曲が入っており、9mmの世界へ引き入れてくれたアルバムでもありました。

8bit制作にあたって

アルバムの8bit制作は今回で4作目です。

前作「BABEL 8bit」を作り終えた時、次はどのアルバムにしようかと思いました。「BABEL」では基本的なバンドアンサンブルをカッチリ再現することに注力しました。余計な小細工はせず、パートごとのサウンドをしっかり作ってそれらを重ねることで、8bitでのバンドアンサンブルを実現できました。

今回は「BABEL 8bit」の流れに続き、シンプルでカッチリしたバンドアンサンブルの構築をより極めることを目標にしました。そこで選んだのが、1stアルバム「Termination」でした。

「Termination」は、9mmのアルバムの中ではバンドアンサンブルがシンプルな方です。9mmの特徴でもあるトリッキーなサウンドやリズムは、このアルバムにはあまりありません。ギターのダビングも多くなく、4ピースで再現できるサウンドです。

制作では「メカニカル」「ドライさ」「若さ」「9mm初期の無機質感」を出すよう心がけました。初期の9mmはとにかく爆裂感がありますが、1stアルバムからは特に硬質でスラッシーで乾いた印象を受けます。「Termination=終わり」というタイトルから連想されるように、終末感が強く哲学的な趣のあるアルバムです。このドライで無機質なサウンドが8bitで再現されることで、ゲームミュージックとしての新たな世界観が展開されるのではないかと思いました。

全曲解説

1.Psychopolis

記念すべき、1stアルバムの1曲目です。4/4拍子、BPM=126 、B♭m。

「このアルバムといえば!」な1曲です。自分はアルバムを通しで聴くことが多いので、Terminationを聴く時は必ずこの曲から入ります。実家のような安心感のある曲です。

怒涛のリズムパターン、美しいクリーンパート、シャウト、カオス、タッピングなど・・・9mm要素が詰まったこの曲。曲は短いですが、非常に密度が高く激しいです。近年ライブでやることも多いようですね。10th Anniversary Live 「act O」の一発目に演奏していたのが印象深いです。

この曲で特徴的なのは滝さんパートのギターです。Aメロから、歌と同じくらい存在感があります。このギターの響きがなんとも未来的な空気感を作っています。アレンジでは、エコーを多めに効かせています。

Psychopolis サビのギター(滝さんパート)

そして私が最高に好きなのが、クリーンパートです。ここではBPMを128から119に落とし、緩急をつけています。エコーをかなり聴かせています。ここのアルペジオの絡み、ベースライン、リズムパターンは何度聴いても飽きません。美しく、無機質で、未来的なパートです。そしてカオスになだれ込む様は圧巻です。8bit音源と相性が良く、いい雰囲気が出ていると思います。

Psychopolis クリーンパートのバンドアンサンブル

2.Discommunication (2022 Remake)

2曲目です。4/4拍子、BPM=155、Dm。

説明不要の定番曲です。

そして、私が9mm 8bitで初めて投稿した曲でもあります。そのため、今回はリメイクバージョンです。当時とは制作環境も作り方も大きく変わったため、サウンドもかなり変化が感じられると思います。

ノリノリのダンスビート、中毒性のあるリフ。ライブの定番キラーチューンです。ライブではアレンジが進み過ぎていて (Rage Against The Machineのアレンジとか・・・) 、アルバムのオリジナルとはけっこう違ったサウンドになってます。ライブもライブでいいですが、アルバムのカッチリしたサウンドも好きです。ライブでは滝さんはほぼ必ずオクターバーを踏んでいますが、アルバムのリフはオクターバーがありません。その違いが1番大きいかなと思っています。

曲構成、編成ともに超絶シンプルです。編成はドラム、ベース、ギターx2、ボーカルです。音数も少ないので非常に8bit向きです。8bitの入門曲にしたいくらいです。意外にめんどくさいのがグリッサンドです。この曲、実はギターのグリッサンドがとても多いのです。グリッサンドって実は難しいです。書き方次第ですごくかっちょわるいグリッサンドになってしまいます。演奏だとかっこいいのですが、打ち込みだと再現するのが結構難しいのです。

Discommunication ギターのグリッサンドの再現がむずかしい!

今回はライブアレンジ(Freedomのリフ)はありません。原曲忠実にカッチリ作ってあります。

3.Heat-Island

3曲目です。4/4拍子、BPM=216〜230(!)、Bm。

とにかくバーストしてる曲です。カオスすぎるリフ、スネア連打、静と動の激しい切り替わり・・・。タイトルの通り、灼熱で容赦がない1曲です。

この曲は構成が変わっています。Aメロ、Bメロ、サビはあるのですが、すべてが全く一緒ではなく、どんどん変化していってるのです。リズムパターンが変わったり、コード進行が変わったり、メロディーの音形が変わったり・・・。曲が進むにつれてどんどん激しく、テンションが上がっていき、そして最後は同じリフで締め括るという、通しで聴かないととわからない気持ちよさがあります。

この曲の特徴はテンポ設定です。BPMが数小節単位で入れ替わります。制作においては、テンポに3種類のギア設定しました。

ギア1 (低) : BPM=216
ギア2 (中) : BPM=219
ギア3 (高) : BPM=230

ギア1と3のBPMの差は、数字で見れば14しかありません。しかしその違いたるや、すごいのです。BPMも200を超えるスピードになってくると、わずかな違いがものすごくテンション感に影響してきます。曲中も、この3種類のギアが次々入れ替わっています。落ち着いたりぶっちぎったりの繰り返しで、テンポ設定がすごくドラマチックな1曲と言えます。

Heat-Island BPMが目まぐるしく変わっていきます。

4.Sleepwalk

すかさず続く4曲目。5/4拍子、BPM=230、F#m。

9mmのトリッキー枠代表、Sleepwalkです。「Movement YOKOHAMA」のアンプラグドセッションでアコースティックに化けた曲でもあります。そちらはまた違ったサウンドで、クールでかっこいいです。

この曲はなんといってもダークで、メカニカルで、スラッシーなのが魅力です。初期9mmのダーク感で無機質な雰囲気が、この曲にはすごく詰まっていると思います。拍子も5/4と変わっています。

この曲の最大の好きポイントは大サビ前です。注目したいのがドラム。この曲は5/4拍子なのですが、大サビ前は4/4拍子が聴こえてくるリズムパターンになっています。スネアが奇数小節目で頭打ち、偶数小節目で裏打ちになり、リズムの印象がコロコロ切り替わっていきます。このトリッキーさがとてもクセになります。スコアを見るまで、どんなリズムパターンなのかまったくわかりませんでした。

Sleepwalk 大サビ前のドラムパターン

また、こだわりポイントとして、大サビに入る寸前のアコギの「ジャリン」っていう音があります。これはなんとしても再現したかったし、うまく再現できました。あるとないでは大きく違います。

5.砂の惑星 (2022 Remake)

ようやく落ち着いた5曲目。4/4拍子、BPM=145、B♭m。

皆さん大好き、砂の惑星です。初期の9mmでしか鳴らせないような、気が抜けたような、なんとも乾いた印象のある1曲です。

この曲もリメイクです。前バージョンを出したのは2年前です。間はそれほど空いていませんが、この2年の間に8bitの制作環境や作り方がだいぶ変わったため、サウンドも結構違っていると思います。大きな違いとして、前バージョンではリードギターにDuty比50 %の矩形波、ボーカルにDuty比12.5 %の矩形波を使っていましたが、今回はそれを入れ替えています。前バージョンは「act I」のライブ版を意識していましたが、今回はアルバムの原曲忠実に作ってあります。

バンドアンサンブルはとてもシンプルです。余計な音がありません。かなりスカスカしています。そのため、各パートがどんな動きをしているかがよく聴こえる曲でもあります。

イントロのタクローさんギター、結構再現に苦労しました。音の長さ、アルペジオの鳴るタイミング、かなり気を使って作っています。あの枯れた感じが出るまでには、前バージョンもそうでしたが、とても苦戦しました。でも8bitのカリカリ感がこの曲にはマッチしている気がします。

砂の惑星 ものすごく気を使ったタクローさんのギターリフ

6.Heart-Shaped Gear

6曲目、前半最後です。4/4拍子、BPM=214、Am。

タイトルの通り、機械じかけのカチカチした曲です。規則的なドラムパターンとリフ。

音数は少なく、バンドアンサンブルとしてはシンプルです。あくまで傾向としてですが、音数が少ないほど8bitに向いてる気がします。ファミコン音源はもともと同時発音数に制限があり、4パートくらいしか重ねられないのです。私の8bit制作においてはバンドアンサンブルを8bit音源で作ることを念頭に置いているので、同時発音数は守っていません。そのため曲によっては音が多過ぎて、まったくファミコンっぽく聞こえないものもあります。パート数(声部)が少ないほど、本来の意味でのファミコンアレンジとして映えるのだと思います。

この曲はギターのリフが好きです。まさに機械じかけな感じのフレーズです。音の配置が巧妙で、ベースとドラムの間をうまく埋めています。なので、アンサンブルはスカスカなのですが、物足りない感じがしません。滝さんの職人芸です。

Heart-Shaped Gear メカニックなギターリフ

歌詞も、わかりやすく格好つけていていいですよね。

7.Sundome

後半一発目です。4/4拍子、BPM=180、Cm7。

この曲は本当に大変でした。大きな山場でした。

難しいポイントはたくさんあります。
・音数が多い
・音色切り替えが多い
・空間表現が難しい
・曲がドラマチックである
・メッセージ性がある
とにもかくにも、曲のテーマが重く、シリアスであること。曲構成も凝っていて、いろんなフレーズが出てきます。奥行きのあるミックスで、空間に広がりがあります。原曲のこういういろいろな要素を、8bitで再現するのがすごく大変でした。エネルギー消費の多い曲です。

この曲のキモはベースラインです。ただ打ち込むだけでなく、音の長さや切り方、フレーズ終わりのグリッサンドなどなど・・・ニュアンスひとつですごく印象が違ってきます。ベースは目立つので、丁寧に作ります。

Sundome Aメロのベースライン

8.Battle March

あったまってきた8曲目です。4/4拍子、BPM=128、Am。

9mm初期を代表するスルメ曲です。9mmファンの間では結構人気が高い曲のように思います。

この曲は珍しい要素たっぷりです。フラメンコっぽいイントロのカッティング、Am → B♭のコード進行、Esus4のアルペジオなどが、エスニックな雰囲気を醸し出しています。スペインのような趣があります。

この曲、じつは、「タイトロープ」と共通する要素があるのです。コード進行です。この曲はキーがAmなのですが、AメロとBメロはずっとEsus4 → Fの繰り返しです。この曲ではE(sus4)は、キーであるAに落ち着こうとする役割を果たします(Eはドミナントです)。そのため、Aメロ、Bメロではずっとキーに落ち着きたい・・・張り詰めた緊張感があり、非常にプレッシャーが高いのですね。この構造は、じつは「タイトロープ」でも同様なのです。「タイトロープ」はスリルやギリギリ感を極めた曲で、曲中の随所に緊張感を高める技が仕掛けられています。しかしその萌芽は、この「Battle March」ですでに見られるのですね。

この曲は面白フレーズがいっぱいあります。個人的に一番好きなのは、2番Bメロのアンサンブルです。「ダツツダツツダン」という、ドラムのマシンガンのようなアクセント移動がとってもかっこいいです。

Battle March 2番Bメロのバンドアンサンブル

9.Butterfly Effect (2022 Remake)

9曲目です。4/4拍子、BPM=122、Cm7(11)。

この曲もリメイクです。前バージョンは6年前なので、今回とはかなりクオリティが違います。他のリメイク曲もそうなのですが、この曲は「前回を超えるクオリティを叩き出そう!」という想いが特に強かったです。

この曲はかなり手強いです。音符や譜面はとってもシンプルで、打ち込みは一瞬で終わりました。この曲の難しさは譜面に表れていない部分にあります。空間表現であったり、音色の作り込みであったり、フレーズの処理であったり、盛り上げ方であったり、音の密度の増やし方であったり・・・
とっても再現が難しい、独特な雰囲気を持った超難曲です(メンバーも「むずい」と言ってますし・・・)。

アルペジオの残響からしてかなり不思議なんですね。本家のミックスは、アルペジオのドライが右側で鳴っていて、ウェット(リバーブ)が真ん中から左側にかけて鳴っています。この再現はとても難しいです。DTMスキルが足りず、このパンニングはうまく再現できませんでした・・・

こだわりとして、この曲ではベースに三角波を使っています。三角波の無機質感が、この曲にはピッタリです。

曲全体を眺めると、だんだん音の密度が濃くなっていっているのがわかります。「Butterfly Effect」の意味が曲にそのまま表れていますね。職人芸です。

Butterfly Effect 曲が進むにつれて激しく、音の密度が高くなる

10.Termination

山場、10曲目です。4/4拍子、BPM=194、Em。

アルバムのタイトルトラックです。そして9mmを代表する有名曲。

この曲は、タイトルの通り「終わり」の曲なのだなと、8bit制作を通じて感じました。いろいろなものが終わりに向かっていく・・・歌詞もそうですが、構成からしても終末感が強く感じられる曲です。声のない8bitでも、この曲の終末感を強く、むしろゲームの世界観ならではの終末感が味わえる仕上がりになっていると思います。

8bit制作を経てようやく気づいたのですが、「ダダッダッダダ」というキメのフレーズはターミネーターのオマージュなのでしょうか。ターミネーター好きなカズ中村さんが考えたのでしょうね、きっと・・・

この曲は、アウトロ前のコード進行がとてもエモいです。「集めた渡り鳥の歌・・・」の部分の、タクローさんのギターですね。このコード進行が、それまでと違って少しだけ明るくて、すごく終わりに向かう感じを出しています。

Termination アウトロ前のコード進行

そして好きなのがラストです。ここはテンポを落として、音色をすべて矩形波にしています。まさに終末です。とってもゲームっぽい世界観が出ていると思います。

Termination ラストのアンサンブル

11.The World

ラスト前です。6/8拍子、BPM=115、D。

この曲も(というかアルバム後半はだいたい)山場です。

この曲は紛れもなく大曲です。ドラマチックな曲構成とコード進行。Sundomeに似た重さがありましたが、この曲はまた雰囲気が違います。世界がゆっくり閉じていくような終末感もありますが、見ているものがくっきりして開けていくような、広がりを持った曲でもあります。いずれにせよ、大変なエネルギーが必要な大曲でした。

この曲はなんといってもコード進行が素晴らしいです。泣けます。全体的にセブンスが多くて曇った響きがしているのですが、暗いばっかりじゃないのです。中間部のコード進行はどことなく明るい印象があります。ラスサビ後のコード進行はとっても複雑です。タクローさんパートのギターだけで4音重ねていて、「ファミコンアレンジ」としてはアウトなのだろうと思います。ですがやっぱりどの音も必要でした。

今回は原作忠実がテーマだったのですが、ライブ版のタクローさんのハミングが自動的に脳内で再生されました。本当に切ない名曲だと思います。

The World ラスサビ後のコード進行

12.Punishment (2022 Remake)

ラスボスです。4/4拍子、BPM=218、Dm。

The Worldのしっとり感を一気にぶっ飛ばしてしまう、説明不要のモンスター曲です。

この曲もリメイクです。前バージョンとはドラムが大幅に変わったため、今回はよりメタルなサウンドに仕上がりました。

この曲は最速最短で完成しました笑。曲の持っている勢いに乗っかって、とにかくダッシュで作れてしまいました。以前に作ったことがあるというのもありますが、この曲はとにかく走り出したら止まれない勢いがあります。

スコアでカズ中村さんがコメントしていますが、この曲について語ることは特にありません。なんかいろいろと説明不要、というか、説明できないのです。モンスター曲としか言いようがありません。

今回の大きな工夫はアウトロ、カオス部のノイズの作り込みです。前作「BABEL 8bit」を経て、ノイズの使い方が身につきました。それがここで活かされています。ノイズって難しくて、ただうるさく鳴らすだけだとあからさまというか、かっこ悪いのです。かっこよく、9mmの言う「壁」サウンドを再現するノイズの使い方ができたと思います。

Punishment アウトロ、カオスパートのノイズ

おわりに

この度は「Termination 8bit」を聴いてくださり、また、この記事を最後までお読みくださり、ありがとうございました。前作アルバムより8bit制作環境が固まり、コンスタントに9mm 8bit制作を進めることができるようになりました。今回も、12曲という多い曲数でしたが、なんとかアルバムを作り終えることができました。次回のアルバムも頑張っていきます。

ありがとうございました!

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