ミツバチがいる


 ある国がとなりの国からいっぽうてきにせめこまれて、ミサイルやバクダンで家も畑もめちゃくちゃにされ、植物も動物も人も虫もたくさん死んでしまいました。
 この国にはもともと数えきれないほどのミツバチがいたのですが、生きのこれたのはほんのわずかでした。あたり一面花も何もかもなくなってしまったので、生きのこったミツバチたちはあてもなくただブンブンとびまわるしかありませんでした。
 そんな国の様子を太陽はずっと空から見ていましたがだまっていました。そこである女王バチが太陽に語りかけました。
「太陽さん、あなたはいつも青空から見ているだけです。あなたはまだご自分の大きな力をつかっていません。その力でこのあれはてた国を助けてください。」
 この女王バチの声がとどいたのか、太陽はかなしみのなみだをこぼしました。するとなみだの落ちたところにヒマワリ畑ができました。ヒマワリは太陽のこどもたちでした。
 ミツバチたちはびっくりしながらも、すぐにヒマワリたちの大きな顔に次つぎとびこんでゆきました。ミツをすったり、手足をこすりあわせて花粉のおだんごを作ったり、からだいっぱいに花粉をくっつけてヒマワリの間を行き来したり、ひさしぶりの大いそがしです。さいしょはどこかさびしげだったヒマワリたちも、くすぐったそうにニコニコし始めました。
 この様子を見て太陽は、今度はよろこびのなみだを明るい雨のようにふらせました。すると太陽のなみだがまたそのヒマワリ畑に落ちて、あっという間にヒマワリがあちこち生えてすぐに花ひらきました。
 こうしてひとつのヒマワリ畑のなかで、かなしみのなみだから生まれたヒマワリとよろこびのなみだから生まれたヒマワリとがいっしょになりました。どちらのヒマワリも見た目にはちがいはありませんが、ミツバチたちは花粉を運びながら、かなしみとよろこびを行き来しているのを感じていました。
 まもなくたくさんのヒマワリのたねができました。それにつれてこの国の人びとも少しずつ元気をとりもどし、巣箱を作ってミツバチたちにもかってのように集まってもらいました。そのおかげてたくさんのハチミツができて人生をなんとか立て直すことができました。
 ミツバチたちがこのヒマワリ畑をもとに作ってくれたハチミツは、世界中に運ばれてとてもよろこばれました。人間たちはハチミツの美しい色とやさしい甘さに平和を感じたのです。ミツバチたちのねがいがつたわったのかもしれません。
 ミツバチは花と平和を愛しています。平和でなければ花も自分も消えてゆくことをよくわかっています。何もわかっていない人間だけがこわすことを知っていて、こわしていることに気づけません。もしミツバチがいなくなり始めたら、それは何かのシグナルなのです。

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