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【Zatsu】マイワールド

おれの勤務先のビルには、よその会社も入っている。数もそこそこ多い。だから朝の通勤時間ともなれば、1階はかなり混雑するんだ。

エレベータも複数機あるんだけれど、全部フル稼働。それでも一度に全員はさばけなくて、常に順番を待つ列ができている。そんな状態。

当然ながら、エレベータの中も大混雑なのよ。いろんな会社の人が入り乱れ「すみません、降りま~す」という声が各階で聴かれる。なにしろキツキツなので、普段は自分のフロアにつくまであまり周囲を気にすることもなくじっとしているんだけれど、今日たまたま目を上げたとき、新人のAちゃんが同じエレベータ内にいることに気づいたのね。

なので、軽くあいさつをと思って声をかけようとしたその瞬間、
「!!!😨」
おれの動きがピタリと止まった。Aちゃんは手元のバッグをまさぐると、おもむろにパンを取り出し、開封し、かじりついていたんだ。

モグモグ……ゴクン――袋を眺める――再度かぶりつく――モゴモゴ……

狭いエレベータの中だ。しかも、ギュウギュウに混んでいるんだ。他人の息遣いがすぐとなりで聞こえるレベル。その状況で、パンにかじりついてモグモグできるって、どんな無頼漢だよ(Aちゃんは女性だが、この際そんな細かいことはどうだっていい)。

彼女にとって周りはもう景色なんだな。パーソナルスペースすら確保できないエレベータ内であっても、彼女のマイワールドは揺るがない。
食いたいときに食い、飲みたいときに飲む。
それでいいじゃないか😍。It's my world!

でもさぁ、やっぱり他社の目もあるからね。「会社あそこのひと、エレベータ内でモゴモゴしていたらしいぜ」が広まるとやっぱりまずいわけですよ。なので直接注意すべきか、でも最近は多様な価値観がうんたらかんたら。

いったいどうしたものか、同僚と話していると、そこへ女性の先輩がやってきました。このひと、社歴は長いんだけどちょっと変わっているというか、かなりの天然なのでどうかと思ったんですが、思い切って相談したんです。

「先輩、じつはAちゃんが、かくかくしかじか」

すると先輩はたいそうご立腹の様子で、「ダメよ! いくら個人の考えが尊重されるといっても、社会人としてのマナーが優先でしょ。アタシからも注意しとくわ」

これは、おれたちにとってちょっと意外だったんだよね。へえ、意外とまともな面もあるんだな、と。面食らったと同時に、先輩の印象が変わったというか、これまで色眼鏡でみていた自分たちが恥ずかしくなった。

「まあ、アタシにまかせておきなさい」そういう先輩を見て頼もしさを感じると同時に、なんとなく少し嬉しくもあったんです。
「はい、先輩。じゃあ、よろしくお願いします!」

すると先輩は去り際に振り返って言ったんだ。


「で、何パンだったの?」


いや、それ重要?🥴

やっぱこのヒト、変わってんなぁ。




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