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【Zatsu】転居と 窓と 新聞と

近いうちに引っ越しを考えています。
部屋探しの条件はいくつかあるんですけど、そのうちのひとつが「TVモニタ付きインタフォン」が設置されていることです。

みなさんはご自身がはじめて引っ越した時のことを覚えているでしょうか。おれは転居の経験はそこそこあるほうだと自負していますが、社会人になって最初の引っ越しの記憶は鮮明に残っています。

そのとき入居したのは、閑静な住宅街にある一軒のアパートで、1Fのいちばん奥の角部屋。
入居初日、たいして荷物もなかったので、レンタカーで軽トラを借りて自分で搬入したのね。そのあと玄関を開けたまま荷物整理をしていると、外で誰かの呼ぶ声がする。

「はい?」

出て行くと、わかりやすいヤ○ザが立っていました。新聞はインテリが作って「ヤ」が売るっていうけれど、まさにそのとおり。その日はなんとか丁重にお引き取り願ったんだけれど、それ以降まあくるわくるわ。3日に1回の割合で新聞勧誘がきました。
おれは新聞激戦区に引っ越してきてしまったらしい。
どうりで、1Fに誰も住んでいないはずだよ。勧誘が厳しくて、みんなすぐに越していっちゃうんだよな。

ただのドアチャイムだったので、相手を確認するにはドアののぞき窓から外に目を凝らすんだ。新聞取る気ゼロだったので、ドアの外にそれ系の人が立っていた時は基本無視。
いいかげんチャイムの音にうんざりしていたので、電池をはずしてチャイムも無効化していた。

そうしたら、やつらも手段を選ばなくなってきて、ある日、玄関をたたく音がするんで「どちらさまですか」って言ったら、「回覧板です」って。
別の日には「隣りに越してきたものですけど」ってのもあった。
もう、嘘でも何でもいいから扉を開けさせようとするのよ。

新聞勧誘で扉を開けちゃうとそこから会話がスタートするので面倒なんだ。でも、回覧板だとか、隣りに越してきたとか言われちゃ、開けないわけにもいかないじゃない? そんでまたバトル。ひたすら疲れる。

その部屋には半年くらい住んだけれど、いまにして思えばよく耐えたな。だって本当に3日に1回はきていたんだよ。180日を単純に3で割っても60回はやつらに襲撃されたってわけだ。
いちいち相手していられないから、誰かが来たときは、とりあえずドアののぞき穴で相手を確認。宅急便以外は居留守をきめこむ。電気がついていようが、テレビの音が漏れていようが、関係ない。留守なんです。オレはいないんです。1Fだから勧誘員が玄関から庭に回りこんで窓ガラスをたたくんだけれど、完全無視。徹頭徹尾。唯我独尊。無表情でテレビに見入ります。

けど、こんなのをずっと続けてると、ほんと普通の人はノイローゼになるよ。のぞき穴をチェックしたら真っ暗で何も見えなくてさ、新聞勧誘員が帰ったあとで扉を開けたら、表からガムテープが張ってあったりしたもの。すでにヤ○ザの追い込みですよ。

以降、のぞき穴をふさがれることが多くなったので、こっちもドアのわきにある窓(ハンドルを回すとゆっくり窓ガラスが回転するやつ)から応対したりしていた。

どちらさまですか?


そんなある日、最後の刺客がやってきた。こいつはいままでの勧誘員とは一線を画していました。コンプラとかいう言葉もない時代だからね。

ヤ○ザ < マフィア

もう、だめかも……。一瞬朽ちそうになり、グロッキー状態でコーナーに追い詰められたけど、それでも何とか追い返しました。オレ偉い。ほんとよくやった。

苦々しい顔をしたまま、扉の前から去っていく最強の刺客。つ、強かった。でもやっと倒した。崩れ落ちそうになりながら扉のカギを閉める。そのとき、ドアの向こうから野太い声が聞こえました。


次はもっと、強烈なやつ連れてくるから!



数日後、お引越し。

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