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【Zatsu】バスの中のチキンな面々

いつも電車で移動することが多いんですが、きょう久しぶりに路線バスに乗ったんです。

慣れていないこともあるし、電光掲示板がバスの前方1ヵ所のみなので、車内が混雑しているとよく見えないんだよね。目的の停留所のまえで降車ボタンを押さなくちゃならないんだけど、車内アナウンスもよく聞き取れなかったりして、いまいち確信がもてない。

しかたないのでスマホの地図アプリとにらめっこしながら、「次だ!」というところで降車ボタンを押し(しかも、そこで降りたのは自分だけ)、何とか目的地へたどり着いたのでした。

ホッと一息ついて緊張から解き放たれたとき、ふと高校時代のことを思い出しました。

ウチの高校はバスで通っている奴が多く、最寄駅から校門前の停留所まで走っているバスは、高校生で混雑していた。ほぼ貸し切り状態だったといっていい。校門前で乗客が全員降り、無人のバスが走り去るという、まるで幼稚園の送迎バスのような光景が毎朝のように繰り返されていたんだ。

それでもいちおう路線バスだからさ、停留所の前で降車ボタンを押すわけです。で、ブザーに応じて運転手は停車するというね、実に当たり前の社会のルールですよ。高校生ともなれば、みんな理解はしている。

でも、車内の全員がウチの生徒なので、みんな押さないんです。誰かが押すだろう、なんなら「押したら負け」と思っているんですよ。そんななか、バスはみんなを乗せて最寄り駅を出発。
チキンレースの始まりです。
学校前の停留所が近づいてくる。やがて、だれかが我慢できなくなり降車ボタンを押す。車内に響くブザー音。
停留所についてバスの扉が開くと、次から次へと流れ出ていく学生の波。降車ボタンを押した奴だけがひとりうなだれ、敗北感を感じながら降車していくのです。

そんなある日、あいも変わらず展開されるチキンレース。しかし、普段と違うことがひとつだけありました。誰も押そうとしないんです。運転手さんも毎朝のことなので乗客がみんな高校生だということは当然わかっており、親切に「次は○○高校前です。お降りの方いませんか?」と声をかけてくれた。しかし、我々の耳にはそんな声も遠く聞こえる。

バス停が近づいてくる。どんどん、近づいてくる。
周りのみんなに緊張が走った。心の声が聞こえる。
「押せ! だれか押せ! はやく押しやがれッ!」

「まもなく○○高校前ですよ。お降りの方いらっしゃいませんか?」
「何やってやがる、はやく! だれかはやく!」

うつむく全員、必死に腹の探りあい。ところどころ、目を閉じて祈っている姿すら見受けられる。ギリギリの攻防。高鳴る鼓動。
――そして――

「通過しま~す」


ああぁ……😰
ため息とも落胆ともつかない、何とも言えない絶望の空気が車内を支配する。怒りに似た感情に表情をこわばらせるやつもいる(お門違いだが)。

乗降客がいない以上、バスを停車させるわけにもいかないからね、運転手さんの好意を無にしながら、バスは(大量の学生を乗せたまま)校門前を通り過ぎて次の停留所へ向かって走り出しました。


しかたないので、次の停留所でみんな降りてひとつ分戻る。フツーはそう思うじゃない?
違います。
次の停留所で降車して、ひとつ分を歩いて戻るってことは、すなわち「ほんとうは学校前で降りるつもりだった」ということ。
そして、次の停留所でボタンを押すという行為は、みずから「わたしは降りるつもりだったのにボタンを押しませんでした」と認めること。

すなわち、敗北宣言にほかならない。


こうして、チキンレース第2試合が幕を開けた😭
近づいてくる次の停留所。「ギリギリギリィ……」どこかで歯ぎしりの音が聞こえる。あきれ気味の運転手さん。
「お降りの方、いませんかぁ?」

そのときだった。

「ピンポーン🎵」


全員がハッと顔を上げる。そこには、たまたま乗り合わせたおばあさんの、ボタンを押す姿があった。こころのなかでは、まさにスタンディングオベーションである。
「停車しま~す」
名もないバス停で、おばあさんに続いて降車する信じられない数の乗客たち(おばあちゃんも何が起きているのか意味わからなかったと思うが)。

大名行列さながらに、学校へと続く人の列。
1限目は当然ながら大遅刻。ただ、交通事故もないのに大量の遅刻者が発生したことに、学校側は最後まで首をひねっていたという。

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