COVID-19ワクチンは重要な利益をもたらします;SSRNのプレプリントでは、COVID-19ワクチンがウイルスよりも「98倍悪い」なんて判断されていません。

既に以下の記事:

にて論破済ですが、HealthFeedbackさんのファクトチェック記事が出ましたので和訳して追加情報としたいと思います。記事はこれ↓:

【主張】

  • ハーバード大学とジョンズ・ホプキンス大学の科学者がCOVID-19ワクチンがウイルスより98倍悪いことを発見

  • ハーバード大学の研究によりワクチンがCOVIDより危ないことが判明

  • ワクチン物語が崩壊する

【詳細な評定】

情報源について誤解を与えている

このプレプリントでは、COVID-19ワクチンがウイルスよりも98倍悪いとは 報告されていません。この主張は、分析がブースター投与にのみ関係しているという事実等、プレプリントの以下に示すようないくつかの重要な制限を無視しています;

  • COVID-19の害に関する分析の尺度は入院に限定されており、ロングCOVIDのような他の深刻な結果は含まれていないこと

  • 分析が有害事象報告書に依存しており、それだけでは因果関係を十分に証明出来ないこと

【キーポイント】

  • COVID-19ワクチンは、重症化や死亡から人々を守る上で非常に有効であることが証明されており、また、ロングCOVIDを発症する確率を下げることが可能です。

  • 過去の感染によってある程度の防御免疫を得ることが出来ますが、感染によって誘発される免疫は、病気の重症度等、我々がコントロールできない多くの変動要因によるため、予測不可能です。

  • ワクチン接種は、COVID-19に対する防御を誘導するための、より安全で信頼性の高い手段であることに変わりはありません。

【レビュー】

2022年9月、COVID-19ワクチンはCOVID-19そのものよりも「98倍悪い」と主張するいくつかの記事が広まりました。たとえば、Gateway Punditによるこの記事、The Epoch Timesによる別の記事、そしてFlorida Standardによる記事等です。この主張は、Social Sciences Research Networkにアップロードされたプレプリント(まだ査読を受けていない研究)に基づいており、ジョンズ・ホプキンス大学とハーバード大学の教員を中心とする科学者が共同で執筆したものです。

このプレプリントは、大学でのブースター義務化は非倫理的であると結論付けていますが、その理由は、18歳から29歳の若年成人において、益よりも害をもたらすと推定されるからです。このプレプリントの著者らは、1人の入院を防ぐために、それまで感染していなかった若年層の何人にブースター接種を行なう必要があるか、また、そのような規模のブースター接種を行った場合、どれだけの重篤な有害事象が発生するかを計算し、この結論に至ったものです。

米国疾病対策予防センターとワクチンメーカーが収集した接種後の有害事象報告書を用いて、「以前に感染していない若年成人のCOVID-19入院を1回防ぐ毎に、男性でブースター関連心筋炎1.7~3.0例、日常活動に支障をきたすグレード3以上の反応原性1,373~3,234例を含む18~98例の重大有害事象を予測する」と試算しています。

しかしながら、このプレプリントの知見は、論文が主張するように、COVID-19ワクチンが病気そのものよりも悪いということを意味するものではありません。以下で説明するように、この主張はプレプリントの知見を誤って伝えています。

ワクチンがCOVID-19より「98倍悪い」という主張を見てみましょう。この数字は、COVID-19の入院1回あたりの重篤な有害事象の推定数の上限からきていると思われます。

しかしながら、これはワクチンがこの病気より「98倍悪い」ことを意味するものではありません。第一に、著者が病気の唯一の悪い転帰としてCOVID-19の入院だけを考慮したことを念頭に置いておきましょう。これには、若者にとっても障害をもたらす可能性のあるロングCOVIDといった他の深刻な転帰は除外されています。

第二に、ワクチン接種後の有害事象は一人で複数報告されることがありますが、COVID-19による入院は一人一回しか報告されないと思われます。つまり、COVID-19による入院の件数は、重篤な有害事象の報告件数よりも矮小化される可能性が高いのです。同じ問題は、以前のHealth Feedbackのレビューでも取り上げられました。そして、プレプリント自体もこのことを限界として認めています。

「また、複数の重篤な副作用が同じ参加者から報告された可能性もあり、そのような反応の影響を受けた人の数は、我々の推定値よりも少ないです。」

ミシガン大学のAbram Wagner研究助教授は、Health Feedbackへの電子メールで、この分析が「SARS-CoV-2感染動態の複雑さを考慮していない」と指摘し、全てのグループのワクチン接種率を上げれば、個人とコミュニティの両方において、感染、ひいては入院リスクを減らせると説明しています。

そのため、この計算では、COVID-19を受けることによる深刻な結果やCOVID-19ワクチン接種のメリットを十分に考慮しておらず、COVID-19とワクチン接種による悪い結果を表す指標も、前者が1人当たりでカウントされているのに対して後者は1イベント当たりでカウントされているので、同じようにはカウントされていないのです。

最後に、ワクチン接種後の有害事象の報告に基づいて計算されています。このような報告だけでは、ワクチンが有害事象の原因であることを示す十分な証拠とは言えません。しかしながら、この注意書きは論文では失われています。

全体として、プレプリントの計算方法のこれらの限界は、プレプリントの知見についての論文の表現が不正確で誤解を招くことを意味しています。

プレプリントの共著者の一人で、疫学修士号を持つメディカルライターのAllison Krug氏は、Gateway Punditの記事のようなプレプリントのこうした表現は不正確であるとLead Storiesに語ってくれました。

➡Lead Storiesの記事の和訳は最初に引用したnote記事にありますので参考にして下さい。

「『ブースター接種』や『若年層』を省くことで、記事はCOVID-19ワクチンが全体的に有害であることを暗示していますが、実際には我々の研究は特に18~29歳に焦点を当てたものなのです。我々は、病状や年齢によってリスクのある人はワクチン接種を避けるべきだと示唆するような、我々の研究の誤報を望んでおりません。」

「米国やその他の地域での若年層へのワクチン接種の推奨は、これらの人々へのワクチン接種(特に新しい二価ワクチン)が免疫力を高め、新しい亜種に対する予防効果をもたらすという考えに基づいています」とWagner氏は述べ、「有害事象報告に対する警戒を怠らないことが重要である」と付け加えています。

パンデミックの進展に伴い、COVID-19の増量投与のメリットとリスクを常に評価することが不可欠ですが、現在までにCOVID-19は既に世界中で600万人以上、米国内だけでも100万人以上が死亡していることも念頭に置いておくことが重要です。

また、COVID-19に感染した人の殆どは生き延びることが出来ますが、それでも長期的には深刻な事態に直面する可能性があります。

2022年6月から7月にかけての米国国勢調査局のデータによると、アメリカ人のほぼ5人に1人が、未だにロングCOVIDの症状が出ているということが分かりました。同じデータを用いたブルッキングス研究所の分析によりますと、200万から400万人のアメリカ人がロングCOVIDのために仕事を失っており、この結果は深刻な社会的・経済的コストを課す可能性があると推定しています。

COVID-19ワクチンは、重篤な疾患や死亡から人々を守るのに極めて有効であることが証明されており、ロングCOVIDの発症確率を下げることも可能です。過去の感染によってある程度の防御免疫を得ることが出来ますが感染によって誘発される免疫は、病気の重症度や人が感染したウイルスの変異型等、我々がコントロール出来ない複数の要因が影響するため、予測不可能なものなのです。COVID-19に対する防御力を高めるには、ワクチン接種がより安全で確実な方法であることに変わりはありません。

【SCIENTISTS’ FEEDBACK】

ミシガン大学公衆衛生学部研究助教授(疫学)          Abram L. Wagner氏による補足:

この論文の著者は、1人の入院を防ぐためにワクチン接種が必要な成人の人数を推定しようしています。この分析では、SARS-CoV-2の感染動態の複雑さを考慮しておらず、全ての集団におけるワクチン接種率の上昇は、個人と集団の感染(ひいては入院リスク)を減少させる可能性があるからです。更に、現時点では、ほぼ全員がワクチン接種、自然感染、またはその両方により、SARS-CoV-2に対する基礎免疫を獲得しています。そのため、(過去に感染していない人を想定した)彼らの分析は、現実世界の実際の集団に対しては、その有用性が限られるかもしません。

世界の様々な国で、生涯を通じてCOVID-19ワクチンの異なるタイプの推奨が実施されています。推奨は、地域の疾病疫学、病院資源、地域住民の併存疾患のレベル、及び費用対効果分析に基づくものです。

予防接種後の有害事象の継続的な監視が重要な意味を持ちます。米国やその他の地域での若年成人へのワクチン接種の推奨は、これらの人々へのワクチン接種(特に新しい二価ワクチン)が免疫系を強化し、新型の変異に対する保護を提供することが可能であるという考察に基づいています。COVID-19の制圧には、様々な年齢層で高いレベルの免疫力を持つことが重要です。

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