Slay Newsによる主張に反して、イングランドの死亡率データでは、ワクチン接種者のCOVID-19死亡リスクはワクチン未接種者より低いことが示されています。
【主張】
COVID-19注射は効果的ではない。
COVID-19が関与した死亡例の大部分はワクチン接種者間で起きている。
2022年のCOVID-19死亡例の92%は3回以上のワクチン接種者であった。
【詳細な評定】
欠陥だらけの推論:
この主張は、ワクチン接種者と未接種者の死亡数の比較に基づいており、分析にバイアスをかける複数の要因を考慮していません。
これらのバイアスを修正しますと、逆の結論になります。
即ち、ワクチン接種者は、ワクチン未接種者よりもCOVID-19による死亡から守られているのです。
事実に反しています:
2022年にCOVID-19で死亡した人のうち、少なくとも1回のブースター接種を受けた人の割合は、英国国家統計局の統計に基づくと79%であり、主張されている92%ではありません。
【キーポイント】
イングランドの2021年と2022年の死亡率データから、COVID-19ワクチンがこの病気による死亡を効果的に予防していることが確認されています。
ワクチンを接種した集団と接種していない集団の死亡数を直接比較することは不可能ですが、これは、ワクチンを接種している人の方が接種していない人よりも多いという明白な事実等、いくつかの統計的バイアスがあるためです。
このようなバイアスを考慮した厳密な分析によれば、COVID-19で死亡するリスクはワクチンを接種した方が低くなることが示されています。
【レビュー】
大規模な臨床試験と一般への市場投入後の実データから、COVID-19ワクチンが重症型の予防に有効であることが示されました[1-5]。このような証拠があるにも関わらず、ワクチン接種者のCOVID-19による死亡数がワクチン未接種者と比べて多いのは、ワクチンが無効であった、或いは逆効果であったことの表れであるという誤解を招く主張がなされてきました。Health Feedbackでは、過去にこのような 主張をいくつか検証し、死亡数の直接比較が誤解を招く理由を説明しました。
同じ内容で、2023年8月にスレイニュースに掲載された記事は、英国国家統計局(ONS)の公式データで「2022年のCOVID-19による死亡者の92%が3回以上のワクチン接種者であった」と主張しています。また、COVID-19による死亡者の大多数がワクチン接種者であったことから、「COVID-19ワクチン接種は効果がない」とも主張しています。
Slay Newsは以前にも、Health FeedbackがレビューしたCOVID-19ワクチンについて誤った主張をしていたことがありました。また、Media Bias/Fact Checkは、Slay Newsは事実関係の信憑性が非常に低いと判断しています。
最近の主張では、ONSが2023年2月21日に発表したイングランドにおけるワクチン接種状況別の死亡者数に基づいています。このデータセットによりますと、2021年にはCOVID-19ワクチンを少なくとも1回接種した人がCOVID-19による死亡者の大半を占め、2022年にはこの割合が更に増加したということです。しかしながら、これがワクチンの有効性の欠如を物語っているというSlay Newsの解釈は、Health Feedbackが過去に繰り返し警告したのと同じバイアスに陥っており、誤りです。
COVID-19による死亡者数をワクチン接種群と未接種群で単純に比較するのは欠陥のあるアプローチです。
Health Feedbackでは、ワクチン接種者と未接種者の死亡数を直接比較すると、多くのバイアスがかかることを既に説明しました。それらを修正しなければ、意味のある結論を導き出すことは不可能です。少なくとも、集団間の年齢差、集団規模の差、各ワクチン接種カテゴリーで個人が過ごした時間という3つの側面を考慮しなければなりません。
第一に、ワクチン接種を受けた集団とワクチン未接種の集団は年齢が異なっていますが、これはワクチン接種がCOVID-19に感染しやすい高齢者を優先したためです。このONSの方法論のページの2番目の図は、ワクチン接種者と未接種者の年齢構成がどのように異なり、時間と共に変化するかを示しています。COVID-19で死亡するリスクは患者の年齢に影響されるため、ワクチン接種者と未接種者の年齢差を考慮しなければなりません。
第二に、100%有効な防護策は存在しません。そのため、COVID-19による死亡はワクチン接種者と未接種者の両方で必ず発生します。また、英国ではワクチン接種者が人口の大半を占めており、2021年4月には12歳以上の54%だったのが、2022年8月には94%に上昇していることも分かっています(図1)。一方の人口が他方の人口より遥かに多ければ、たとえ個々の死亡リスクがその人口の方が低くても、前者でより多くの死亡者が出ることが予想されます。この数学的現象については、こちらで詳しく説明した通りです。このように、COVID-19による死亡の絶対数ではなく、各群におけるCOVID-19による死亡の割合を確実に比較する必要があります。
第三に、予防接種を受けた時期が異なるため、未接種と予防接種を受けたカテゴリーで過ごした期間が異なってしまうことです。2021年5月にワクチン接種を受けた人は、2021年4月から2022年12月までの期間の大半をワクチン接種群で過ごすことになります。この人がCOVID-19に感染して死亡した場合、ワクチン接種中に死亡する可能性が高くなります。これはワクチンが効かないという意味ではなく、単にその人がワクチン接種中にCOVID-19に曝露される可能性のある時間をワクチン未接種中よりも長く過ごしたということです。2022年11月にワクチン接種を受けただけで、その期間の大半をワクチン未接種のカテゴリーで過ごした人には、逆の推論が当てはまります。このように、各人がワクチン接種者と未接種者の各カテゴリーにどれだけの時間寄与しているかを考慮しなければなりません。
ONSはこれら3つのバイアスのリスクを考慮しました。生の死亡数と共に、ONSは年齢により正規化した年齢標準化死亡率も報告しました。年齢標準化とはその名の通り、ワクチン未接種者とワクチン接種者の年齢差を正規化するものです。
更に、ONSは年齢標準化死亡率を10万人年当たりの死亡数で表現することにしました。人年は、各人がワクチン未接種またはワクチン接種のカテゴリーで過ごした時間の合計を表しています。そのため、この指標は、各集団の規模と、各集団の中で個人が過ごした時間を考慮しています。
以下の図2は、上記の要因を補正することがいかに重要であるかを示しています。図2Aは、1ヵ月当たりの死亡者数の生データを表しています。これを見ると、ワクチン接種者のCOVID-19による死亡が確かに多いことが分かると思います。これはSlay Newsが分析し、主張の根拠としたものです。しかしながら、この指標には多くのバイアスがあるため、ワクチンの有効性を結論付けるには適切でないことが今では分かっています。
そこで、死亡率を比較するためのより良い方法は、ONSが提供する年齢標準化死亡率を使用することであり、これは前述のバイアスを補正するものです(図1B)。図1Bを見れば、ワクチン接種者の死亡率が格段に低いことが明らかです。つまり、ワクチン接種者はワクチン未接種者よりもCOVID-19で死亡するリスクが低いということです。
COVID-19による死亡者の92%はブースター注射を受けた人ではありません
COVID-19による死亡者のうち、ワクチンの一次接種と少なくとも1回のブースター接種を受けた人、所謂「3回以上のワクチン接種者」が92%を占めるという主張は事実無根です。ONSの数字では79%となっています。
ONSのデータセットは、20212年4月から2022年12月までの各月にイングランドで発生した全ての死亡者を、COVID-19の関与の有無と死亡者のワクチン接種の有無で分類してリストアップしたものです。
従いまして、このデータセットから、2022年に少なくとも1回のワクチン接種を受けた人のCOVID-19による死亡者数(22,242人)と、ワクチン接種の有無に関わらずCOVID-19による死亡者数(28,041人)を抽出することが出来ます。即ち、3回以上のワクチン接種者の死亡率は、COVID-19による死亡総数の79%(28,041人中22,242人)であり、92%ではありません。
結論
死亡数の単純な数値比較は、データに複数のバイアスがあるために誤解を招きやすいものです。
これらのバイアスを考慮しなかったことで、Slay NewsはイングランドのCOVID-19死亡率データに誤った分析を行ない、根拠のない結論を導き出してしまいました。
対照的に、英国国家統計局は、年齢差や人口規模などいくつかのバイアスを考慮した分析を実施しました。
その結果、COVID-19による死亡リスクはワクチン接種者の方が低いことが示されました。
参考文献
1 – Huiberts et al. (2023) Vaccine effectiveness of primary and booster COVID-19 vaccinations against SARS-CoV-2 infection in the Netherlands from July 12, 2021 to June 6, 2022: A prospective cohort study. International Journal of Infectious Diseases.
2 – Andrews et al. (2022) Duration of Protection against Mild and Severe Disease by Covid-19 Vaccines. The New England Journal of Medicine.
3 – Link-Gelles et al. (2023) Estimation of COVID-19 mRNA Vaccine Effectiveness and COVID-19 Illness and Severity by Vaccination Status During Omicron BA.4 and BA.5 Sublineage Periods. JAMA Network Open.
4 – Solante et al. (2023) Expert review of global real-world data on COVID-19 vaccine booster effectiveness and safety during the omicron-dominant phase of the pandemic. Experts review vaccines.
5 – Brito dos Santos et al. (2023) The effectiveness of COVID-19 vaccines against severe cases and deaths in Brazil from 2021 to 2022: a registry-based study. The Lancet Regional Health Americas.