心筋炎に関する日本のプレプリントは、COVID-19ワクチンが心筋炎による死亡をより多く引き起こすことを示唆する不適切な方法を使っていました。

【主張】

  • SARS-CoV-2ワクチン接種は心筋炎死亡の高リスクと関連していた。

  • SARS-CoV-2ワクチン接種後の心筋炎死亡率比の高い相関は、因果関係があるのかもしれないと結論づけている。

  • 2022年10月19日に発表されたこの研究は、ポリエチレングリコールや酸化グラフェンのような毒性の強い物質で満たされた新技術を体に注入すれば、体が(中略)炎症反応を起こすことを示すものである。

【評定詳細】

裏付け不十分:

  • プレプリントの著者らは、心筋炎で死亡した人々の病歴を調べていないため、ワクチンとは異なるこれらの死亡の他のもっともらしい説明を説明することが不可能になっています。

  • また、著者らはCOVID-19を心筋炎による死亡増加の他の説明として考慮していませんでした。

【キーポイント】

  • 心筋炎は心筋の炎症であり、COVID-19や インフルエンザ等のウイルス感染によって引き起こされることがあります。

  • COVID-19のmRNAワクチンも、特に若い男性では心筋炎のリスクが高いことが知られています。

  • しかしながら、心筋炎のリスクは、ワクチン接種後よりもCOVID-19感染後の方が有意に高くなります。

  • 信頼性の高い科学的根拠により、COVID-19ワクチン接種の利点はその危険性を上回ることが示されています。

【レビュー】

medRxivというサーバーにアップロードされたプレプリント(まだ査読を受けていない研究)によりますと、パンデミック前の年と比較して、「SARS-CoV-2ワクチン接種は、若年層だけでなく全ての年齢層で心筋炎死の高いリスクと関連していた」と主張されています。研究者らは、2022年8月5日に日本の厚生労働省が発表した、パンデミック前の年の死亡データとワクチン接種後の死亡データを比較して、この結論にたどり着きました。研究者はこのデータを使って「心筋炎死亡率比」(MMRR)と呼ぶものを算出し、パンデミック前の時代の同年代と比較すると、全年齢層でMMRRが上昇し、若年層では7倍近くになると報告しました。

プレプリントの著者名を見て #読む価値無し と切り捨てたくなったw。

The Epoch Times新唐人(The Epoch Timesと同じ会社が運営)、Children's Health Defense等の #糞サイト が、ソーシャルメディア上でこのプレプリントの主張の踏み台になりました。また、2万3千人以上のフォロワーを持つカイロプラクターStephen Husseyは、プレプリントのスクリーンショットをInstagramで共有しました

Husseyはスクリーンショットに加えて、この研究が「ポリエチレングリコールや酸化グラフェンなどの毒性の高い物質が詰まった新技術を体内に注入するとどうなるか」を示していると主張しました。これは、COVID-19 mRNAワクチンに関する既存の誤った情報を蒸し返したものです。第一に、酸化グラフェンはCOVID-19ワクチンには含まれていません。第二に、COVID-19 mRNAワクチンに含まれる成分であるポリエチレングリコールは、ワクチンに使用されているレベルでは毒性はありません

更に重要なことは、プレプリントで収集・分析されたデータは、COVID-19ワクチンの害に関する著者の結論、ひいてはThe Epoch Timesや他のウェブサイトがソーシャルメディアで宣伝した主張に対して十分な証拠を提供してはいないことです。

第一に、ワクチン接種後の心筋炎による死亡は、COVID-19ワクチンの最終接種から28日以内に心筋炎の徴候や症状が発生した死亡と定義されました。 著者らは、剖検結果または死後生検結果に基づいて、心筋炎による死亡を推定しました。

しかしながら、著者らが心筋炎で死亡した人々の病歴を調査した形跡はありません。このため、心筋炎の他の原因、特にCOVID-19[1]、他のウイルス感染症、自己免疫疾患といった妥当な原因を考慮することは不可能だったでしょう。

第二に、COVID-19ワクチンによる心筋炎死亡リスクの変化に関する著者らの関連付けは、心筋炎死亡のパンデミック前と後の割合の比較に基づいています。

しかしながら、これは、2つの期間の間に変化したのはCOVID-19ワクチンの入手可能性だけであると仮定しています。COVID-19自体が心筋炎による死亡を増加させたという可能性は、正当な理由なく除外されています。COVID-19がCOVID-19ワクチンよりも増加の可能性が高いにも関わらず、著者らはCOVID-19を潜在的説明として排除する理由を示していません。

何故なら、過去に発表された研究に基づいて、COVID-19はワクチンよりも心臓の合併症を引き起こしやすいことが分かっているからです[2,3]。その為、因果関係の主張は、COVID-19ワクチンだけが心筋炎死亡率の変化を説明出来るという前提で成り立っていますが、それは真実ではありません。

米国心臓協会は、COVID-19ワクチンの有益性はその危険性を上回ると考えています。米国心臓病学会の専門家によるコンセンサスでも、「これまでに評価された全ての年齢と性別のグループに対して、COVID-19ワクチンには非常に良好なベネフィット対リスク比が存在する」とされています[4]。

図1. ワクチン接種後の心筋炎のリスクが最も高いCOVID-19 mRNAワクチン接種者には、有利なリスクに対するベネフィット比が存在[5]。入院率及び心筋炎発症率の予測は、2022年5月時点のコロナウイルス疾患2019(COVID-19)関連入院サーベイランスネットワーク(COVID-NET)の入院率から、mRNAワクチン100万回投与ごとに算出。ベネフィット/リスクは120日間で算出した。

第三に、この研究では、ワクチン接種後の心筋炎による死亡を38例(全死因死亡1,362例中)しか解析に含めていません。年齢層別のMMRRを設定しようとしたところ、各グループとも死亡数は非常に少なく、2桁に達するものはなく、あるグループは心筋炎による死亡が全くないことが分かります(表1)。これは、著者らが分析したパンデミック前のデータが、400万人以上の全死亡と400人以上の心筋炎による死亡を含んでいたのとは対照的なことです。

表1.
プレプリントには、ワクチン接種後28日目に何らかの原因で死亡した1,362人が含まれていた。
 このうち、心筋炎による死亡は38例であった。
ある年齢層では、心筋炎による死亡は記録されていない。

分析したサンプルサイズが小さく、サブグループに分けると更に数が少なくなるため、著者らが報告した関連が本物の効果の結果なのか、それとも統計的検出力が低いために単なる偶然なのかを確認することは困難です

全体として、このプレプリントがCOVID-19ワクチン接種が予想以上に高い心筋炎リスクを持つことを示したという主張は、プレプリントの著者が実際に行なった作業では根拠がありません。著者らは、COVID-19ワクチンとは別の心筋炎の原因を正当な理由なく考慮していません。分析したサンプルサイズも小さく、因果関係があるとされるのが本物の効果の結果なのか、単に統計的な偶然の産物なのかに疑問が投げかけられています。より大規模で信頼性の高い研究により、ワクチン接種後の心筋炎のリスクが最も高いグループにおいても、COVID-19ワクチンの有益性はそのリスクを上回ることが示されています

参考文献

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