NHSのデータは、心筋炎がCOVID-19ワクチン接種後にのみ発生するというEpoch Timesの主張を支持していません。

【主張】

  • 心筋炎と心膜炎はワクチン接種後にのみ起こり、COVID-19感染後には起こらない。

  • 心筋炎と心膜炎はワクチン接種者のみに記録されている。

【詳細評定】

裏付け不十分 :

  • この主張を支持するために使用されたプレプリント(まだ査読を受けていない研究)は、心筋炎を発症したワクチン接種者がCOVID-19にも罹患しているかどうかを評価していませんでした。

  • ワクチン接種とCOVID-19の両方が心筋炎の発症に寄与する可能性があることを考慮しますと、この心臓の炎症がワクチンによるものなのか、それとも病気によるものなのかを、このプレプリントだけから判断することは不可能です。

誤解を招きます:


  • この論文は、COVID-19自体が心筋炎やその他の心血管系合併症のより大きなリスクと重症度を伴うことを明らかにすることなく、ワクチンに関連した心筋炎のリスクを強調しており、読者に現実を歪めた認識を与えてしまっています。

【キーポイント】

  • COVID-19 mRNAワクチンは、稀に軽度の心筋炎を引き起こすことがあります。

  • 心筋炎やその他の重篤な心血管系障害のリスクは、ワクチン接種後よりもCOVID-19接種後の方が高いです。

  • 重篤な疾患に対するワクチンの有効性と比較した場合、COVID-19ワクチンの有益性は起こりうるリスクを上回ることが分かります。

【レビュー】

初期の臨床試験で、COVID-19ワクチンが安全で重症疾患に有効であることが実証され[1,2]、多くの国で保健当局による承認と認可に繋がりました。市場導入後のサーベイランスにより、COVID-19ワクチンの利点がそのリスクを上回ることが確認されましたが、臨床試験では稀であったために検出することが出来なかった副作用も明らかになりました。現在、mRNAワクチンに関連するそのような副作用の一つは、心筋炎のリスクが高くなるというものです。

心筋炎は心膜炎と同様、心臓の炎症によって起こる疾患です。心筋炎には様々な原因がありますが、最も一般的なのはウイルス感染です。症状としては、胸痛、頻脈(心拍が異常に速くなる)、息切れ等があります。

ワクチン関連心筋炎は通常、COVID-19ワクチン接種後の数日間に発症し、主に若い男性が罹患します。しかしながら、この副作用は稀であり、その発生率はワクチン接種者10万人当たり0.08~3例と推定されています[3-6]。ワクチン関連心筋炎は通常軽症で、速やかに回復します[7]。

2024年6月、The Epoch Timesは、イギリスの国民保健サービス(NHS)の新しいデータから、「心筋炎と心膜炎はワクチン接種後にのみ起こり、COVID-19感染後には起こらない」ことが示されたと主張しました。The Epoch Timesはこれまでにも繰り返しワクチンの誤報を掲載してきています

ワクチン接種反対派は、COVID-19ワクチンの安全性について誤った情報を広めるために、心筋炎は稀ではあるがワクチン接種の副作用として証明されているという事実をしばしば利用してきました。これは、Science Feedbackがこれまでに 何度か 解説していますように、心筋炎のリスクを誇張したり、COVID-19自体がもたらすリスクと照らし合わせなかったりすることによって行なわれるのが一般的です。

The Epoch Timesの2024年6月の主張も同様です。この記事によりますと、Andrews氏と同僚による2024年5月のプレプリント(まだ査読を受けていない研究)では、小児とティーンエイジャー[8]のCOVID-19ワクチンの有効性が評価され、「心筋炎と心膜炎はワクチン接種者のみに記録された」と述べております。しかしながら、The Epoch TimesはAndrew氏らによる研究を誤って伝え、ワクチン接種後の心筋炎のリスクをCOVID-19そのものによる心血管系合併症のリスクと照らし合わせることを怠っています。以下で詳細について述べます。

研究内容

Andrews氏らは、イングランドの40万人以上のティーンエイジャーと15万人以上の小児のワクチン接種状況に関するデータを収集しました。彼らは、ワクチンを2回接種した人、1回接種した人、未接種の人のSARS-CoV-2感染、COVID-19に関連した通院、重症治療室(ICU)への入院、COVID-19による死亡のリスクを比較することで、COVID-19ワクチンの有効性を評価しました。

著者らはまた、これらのグループ間でCOVID-19以外の病院受診と心筋炎の発生率を比較することにより、ワクチンの安全性を評価しました。ワクチン接種群では、25,000人以上がCOVID-19と診断され、12人が心臓炎を発症していました。

Andrew氏らは、ワクチンを1回接種したティーンエイジャーは、ワクチン未接種群に比べ、接種後2週間でCOVID-19に罹患するリスクが低く、COVID関連の通院リスクも低いことを明らかにしました。COVID-19に関連したICUへの入室や死亡はなかったため、これらの結果について統計的な結論は導き出せませんでした。12歳未満の小児におけるCOVID関連の転帰は稀であったため、研究者らはこのグループにおけるワクチンの有効性について意味のある結論を出すことが出来ませんでした。

ANDREWS氏らはワクチン接種後とCOVID-19感染後の              心筋炎リスクを比較していません

The Epoch Timesの「心筋炎はワクチン接種後にのみ発症し、COVID-19感染後には発症しない」という主張を裏付けるには、COVID-19ワクチンかCOVID-19のどちらか一方に感染した人と、両方には感染しなかった人とを比較する必要があります。ワクチン接種を受けた人がCOVID-19にも感染し、その後心筋炎を発症した場合、その原因がワクチンなのかCOVID-19なのか、追加情報がなければ確かなことは分かりません。

より具体的には、臨床研究では2つのグループ、即ち研究期間中にCOVID-19を接種したワクチン未接種者と、追跡期間中にCOVID-19を接種しなかったワクチン接種者で心筋炎の発生を比較する必要があります。

しかしながら、Andrews氏らはそのような比較は行なっていません。先に説明しましたように、彼らはワクチン接種者と未接種者を比較したのです。心臓に炎症を起こした人の中にCOVID-19も接種していた人がいたかどうかは分かりません。従いまして、この研究はThe Epoch Timesの主張を支持するために必要な情報を提供するものではありませんでした。我々はこの研究の筆頭著者と連絡を取り、新たな情報が得られれば、このレビューを更新する予定です。

心血管系合併症のリスクはワクチン接種後よりも              COVID-19感染後の方が高いことが判明

ワクチンに関連した心筋炎のリスクに関する報告は目新しいものではありません。米国CDC欧州医薬品庁(EMA)といった保健当局は、既にそのリスクを認めています。米国FDAは2021年にワクチンのファクトシートを適宜更新しました

しかしながら、ワクチンに関連した心筋炎は通常軽度であり、COVID-19感染に引き続いて心臓に炎症が起こるリスクはワクチン接種後よりも高いということを念頭に置いておくことが重要です。小児循環器専門医のFrank Han氏とJennifer Huang氏は、The Conversation誌に掲載された論文の中で、「実際のCOVID-19感染後の心筋炎リスクは、ワクチン接種後と比較して全体的に有意に高い」だけでなく、「ワクチンによる心筋炎後の予後は、感染によるものよりも良好です」と述べています

この声明を裏付けるように、心筋炎のリスクを調査した研究のメタアナリシスでは、このリスクは成人においてワクチン接種後よりもCOVID-19感染後の方が7倍高いことが判明しています[9]。同様に、米国の医療記録を分析したところ、12~17歳の少年において、COVID-19感染後の心筋炎リスクはワクチン接種後の1.8~5.6倍高いことが示されました[10]。

更に、心筋炎の相対的リスクだけに注目するのは誤解を招きます。ワクチン接種によって稀に軽度の心筋炎を起こすことがありますが、COVID-19は血栓や心臓発作といった他のより重篤な心血管合併症と関連しています。イングランドの健康記録を分析した結果によりますと、COVID-19患者ではこのような心血管合併症のリスクが高く、ワクチン接種によってそのリスクが低下することが示されました[11]。

欧州心臓病学会の心不全協会の臨床コンセンサス文書[6]は、これらの観察を次のように要約しています

心筋炎の大部分は軽症であり、入院や重篤な合併症を伴うことはありません。このリスクは、SARS-CoV-2ウイルス自体による死亡、肺合併症、血管合併症、心臓合併症の遥かに大きなリスクとバランスを取らなければなりません。

Myocarditis following COVID‐19 vaccine: incidence, presentation, diagnosis, pathophysiology, therapy, and outcomes put into perspective. A clinical consensus document supported by the Heart Failure Association of the European Society of Cardiology (ESC) and the ESC Working Group on Myocardial and Pericardial Diseases - PMC (nih.gov)

及び:

調査された全ての年齢群において、SARS-CoV-2感染に関連した入院と死亡の全体的なリスクは、ワクチン接種後の心筋炎によるリスクよりも遥かに大きなものです。

Myocarditis following COVID‐19 vaccine: incidence, presentation, diagnosis, pathophysiology, therapy, and outcomes put into perspective. A clinical consensus document supported by the Heart Failure Association of the European Society of Cardiology (ESC) and the ESC Working Group on Myocardial and Pericardial Diseases - PMC (nih.gov)

要約しますと、Andrews氏らによるNHSのデータ解析は、COVID-19ワクチンが10代のCOVID-19の重症化リスクを減少させたことを示しています。ワクチン接種を受けたティーンエイジャーの中には心筋炎を発症した者もいましたが、この研究は心臓の炎症の原因がCOVID-19なのかワクチン接種なのかを判断することが出来るようにはデザインされていませんでした。

これまでに得られている臨床データでは、COVID-19感染はワクチン接種よりも心血管系にとって危険であり、血栓や脳卒中といった他の合併症に加えて心筋炎を重症化させる可能性が高いことが示されています。COVID-19感染による心血管系合併症のリスクはワクチン接種によって減少します。バランスから言えば、COVID-19ワクチン接種のメリットはそのリスクを上回ります。

引用文献


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