Charlie Kirkの動画には、COVID-19ワクチンに反対する理由として、複数の誤った、誤解を招く、裏付けのない記述が含まれています。

【主張】⇦勿論 #あたおか 主張ですwww

  • COVID-19ワクチンは(十分な吟味をされずに)慌てて市場に投入された。

  • VAERSは、「ワクチンの有害事象、心筋炎、心臓関連の問題で異常な急増」を示している。

  • ワクチンが予防するはずのものに感染するのを防ぐ目的で、他の人のためにワクチンを接種しに行く必要はない。

【詳細な評定】

推論に瑕疵があります:

  • COVID-19ワクチンは、他のワクチンと同程度の安全性・有効性試験を経て開発されましたが、これまでの知見と前例のない大量のリソースにより、より迅速に開発されました。

裏付けが不十分です:

  • 米国VAERSデータベースの報告や逸話は、ワクチンが有害事象を引き起こしたことを実証していないため、ワクチンが安全でないことを示す証拠としては不十分です。

不正確です:

  • ワクチンを打たないという選択は、自分自身や他人を感染や重症化のリスクにさらすことになり、地域社会でのウイルスの蔓延を増加させるので、他人にも影響を及ぼします。

【キーポイント】

  • 米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)は、ワクチン接種による副作用の可能性を警告するシステムとして機能しています。

  • しかしながら、VAERSの報告には未検証の情報が含まれており、それだけではワクチンと有害事象の因果関係を証明することは出来ません。

  • 何百万人もの安全性監視データの体系的な分析により、COVID-19ワクチンは優れた安全性プロファイルを有し、COVID-19の重症化と死亡を防ぐのに非常に有効であることが分かっています。

【レビュー】

2022年10月4日、アメリカのラジオ司会者Charlie KirkがFacebookに「COVIDー19ワクチンの副作用についてメディアが伝えないことを暴露する」と題した動画を投稿しました。この動画は32,000回以上の再生回数と3,400回以上のインタラクションを記録しました。その中でKirkは、COVID-19ワクチンには「反対」だが、例えば麻疹・おたふくかぜ・風疹(MMR)ワクチンのようにCDCが推奨する他の小児ワクチンには反対しない理由を3つ挙げています。

Kirkの主張は、COVID-19ワクチンは開発が早すぎること、他のワクチンに比べて宗教上の免除が認められにくいこと、他のワクチンに比べて有害事象が多いこと等でした。これらの主張を支持するために、Kirkは、ファクトチェッカーが以前に論破したいくつかの不正確で誤解を招く、裏付けのない主張を再び繰り返しました。以下、これらの主張の一つ一つを検証していきます。

主張1( 誤解を招く):

[COVID-19]ワクチンは、全ての独立した測定基準によって、市場への投入が急がれた;他のワクチンと比較して、「同種の試験、同種の独立した試験がなされていない」

COVID-19ワクチンは確かに記録的なスピードで開発され、これまでの史上最速のワクチン開発(おたふくかぜワクチンの4年間)を上回りました。COVID-19ワクチンの開発スピードが速すぎるという議論は、しばしばその安全性に疑問を投げかけるために使われます。しかしながら、この迅速な開発は、Kirkが主張するように、ワクチン開発者と規制当局が安全性と有効性のテストに手を抜いたからだというのは誤りです。

COVID-19ワクチンは、緊急時使用承認(EUA)を受ける前に、他のワクチンと同程度の安全性と有効性のテストを受けました(図1参照)。まず、ワクチン候補は細胞内(in vitro)および実験動物内(in vivo)で試験され、ワクチンが免疫反応を引き起こし、ウイルスからの保護を提供することが確認されました[1-5]。


図1. 実験室での非臨床試験、ボランティアでの臨床試験、市販後調査等、
ワクチン開発の様々な段階を表している。出典:
EMA

その後、ワクチン候補の安全性と有効性が、3段階の臨床試験で、それぞれより多くの参加者を得て、ヒトのボランティアでテストされました[6-8]。これらの臨床段階のそれぞれで、FDAの厳しい要件を満たす必要がありました。

最後に、COVID-19ワクチンは、市場に出た後でも規制当局がワクチンの安全性を評価出来るように、いくつかの市販後監視プログラムを通じて監視され続けています。

Health Feedbackが以前のレビューで説明しましたように、COVID-19ワクチンの迅速な開発は、安全性を損なわない理由によるものだからです。これらの理由には、科学的進歩、前例のない資源、官僚的妨害の少なさなどがあり、通常より早く結果を得ることが可能になったのです。

例えば、SARS-CoV-2に類似した他のコロナウイルスに関する既知の知識と、ウイルス感染に対する免疫反応の理解が深まったことにより、科学者はウイルスのスパイク・プロテインがワクチン接種の有効な標的であることを迅速に特定することが可能となりました。ワクチン技術の進歩により、従来のワクチンよりも迅速なアプローチが可能なmRNA技術の利用が可能になったのです。また、世界中で多くの感染者が出たことで、臨床試験において、グループを有意に比較し、ワクチンの効果を推定するのに必要な十分な症例が得られました。

更に、COVID-19のパンデミックは例外的な状況であったため、ワクチン開発における多くの一般的な制約、例えば資金、臨床試験用ボランティアの募集、科学と産業間の協力、官僚的なお役所仕事といった、他の方法ではワクチンの開発と承認を何年も遅らせていたような制約を軽減または排除することが出来ました。

主張2(裏付けがなく誤解を招く):

VAERSは「ワクチンの有害事象、心筋炎、心臓関連の問題で異常な急増」を示している。

COVID-19ワクチンが他のワクチンよりも多くの有害事象を引き起こしているというKirkの主張は、米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)のデータに基づいており、それ自体ではワクチンが有害事象を引き起こしたことを証明することが出来ないため、根拠がなく誤解を招き易いものです。

VAERSは、ワクチン接種後に起こったあらゆる病状(有害事象)の情報を収集する安全監視システムです。しかしながら、ワクチンを接種した後に有害事象が発生したという事実だけでは、その原因がワクチンにあることを証明するには不十分です。ワクチンと有害事象の因果関係を立証するには、Insightの記事でHealth Feedbackが説明したように、更なる調査が必要です。

VAERSは、米国で認可されたワクチンの安全性に問題がある可能性を検出する「早期警告システム」として機能していますが、VAERSレポートだけでは、ワクチンが安全ではないことを示唆したり、Kirkのように他のワクチンと比較してその安全性について推論するために使用することは出来ません。しかしながら、VAERSレポートは、ウェブサイトがその限界についてユーザーに明確に警告しているにも関わらず、COVID-19ワクチンが安全でないことを示唆する目的で繰り返し 誤用されています。

「VAERSレポートだけでは、一般に、あるワクチンが有害事象や病気を引き起こしたか、あるいはその一因となったかどうかを判断することは出来ません。一部の報告書は、不完全、不正確、偶然、または検証不可能な情報を含んでいる可能性があります。VAERSの報告には、接種されたワクチンの総数や比較のためのワクチン非接種群に関する情報など、文脈的な情報が欠けていることがよくあります。VAERSへの報告の大部分は任意であるため、バイアスがかかっている可能性があります。VAERSレポートからのデータは、常にこれらの限界を念頭に置いて解釈されるべきです。」

https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/safety/vaers.html 

加えて、COVID-19ワクチンは承認ではなく緊急時使用承認(EUA)の下で投与されたため、Health Feedbackが以前のレビューで説明したように、特別なVAERS要件の対象となっていることを意味します。

承認されたワクチンの場合、VAERSは、そのワクチンに関連した、或いは関連する可能性のある特定の有害事象を報告するよう医療従事者に要求するだけです。しかしながら、EUAのワクチンについては、医療従事者はワクチン接種後に発生した重篤な有害事象を「因果関係に関係なく」報告しなければならないのです。これには、先天性障害、生命を脅かすもの、入院を伴うもの、入院期間が長くなるもの、「通常の生活を営む能力が著しく損なわれる」有害事象が含まれます。VAERSはまた、心筋炎、心膜炎、多系統炎症系、COVID-19の症例で入院または死亡に至った場合、医療従事者が報告することを義務付けています。

EUAの下でのワクチンに対する特定の要件は、COVID-19ワクチンを受けた人の間で重篤な有害事象の報告が増えるという報告の偏りを導入し、COVID-19ワクチンの有害事象の数について、承認済みのどのワクチンと比較しても結論を出すことが不可能になります。

主張3(裏付けがない):

「私の個人的な範囲では、このワクチンに有害事象があった人を大勢知っています」

動画の最後の方で、Kirkはこの主張を裏付ける根拠を示すことなく、彼の知り合いに起こった「数々の不幸な出来事」に言及しています。具体的には、ワクチンを接種した後に「腰から下が麻痺した」「心臓に問題があった」「死んでしまった」人について言及したのです。

その人自身の体験談といった逸話は、ワクチン接種以外の様々な要因に影響される可能性があります。ある出来事の原因を、その出来事の直前に起きた注目すべき出来事に帰することは、魅力的ではありますが、STAT Newsの記事が示すように、正しくありません。

「心臓発作は午前中に最もよく起こりますが、朝食が原因だとは考えません。しかしながら、COVID-19ワクチンの翌朝に心臓発作が起こるでしょうか?それはまた別の問題かもしれません」

https://www.statnews.com/2020/12/28/chance-illnesses-after-covid-19-vaccinations-could-test-public-confidence-even-if-the-problems-are-unrelated/ 

更に、逸話はしばしば検証不可能です。これらの問題から、科学的なデータの裏付けがない限り、逸話や個人の証言は有害事象の原因を推測する上で信頼性に欠けるのです。

主張4(誤り):

「ワクチンで予防出来るはずのものに感染しないように、他の人のためにワクチンを接種しに行く必要はない」

ワクチンを打たないという選択が、ワクチンを打たない人にしか影響を与えないという主張は正しくありません。以前、Health Feedbackが説明しましたように、人がワクチンを打たないという決断は、その人を取り巻く人々に影響を及ぼします。ワクチンの感染・伝播に対する防御力は重症化に対する防御力に劣りますが、それでもワクチン未接種の人が感染・重症化し、他の人に感染させる可能性は高いことが研究により示唆されています[9-10]。

一方、ワクチンを接種した人は、感染や重症化の可能性が低く、地域社会の人々、特に免疫不全の人や医療上の理由でワクチンを接種することが出来ない人を守るのに役立ちます。しかしながら、Kirkは、感染を100%防ぐことができないワクチンの有用性に疑問を抱いているようでした。 このような誤解を招く議論は、完璧な解決策が存在しないにも関わらず、不完全であることを理由に解決策を否定する「涅槃の誤謬」と呼ばれるものです。

100%有効なワクチンはありません。しかしながら、Health Feedbackが以前レビューで説明したように、公衆衛生上の利益を提供するためには、そうである必要はないということを心に留めておくことが重要です。The Conversationの記事で、免疫学者のSarah Caddy氏は、感染を予防しないワクチンでも、感染者の病気のレベルを下げることで、地域社会でのウイルス拡散を抑えるのに有用であることが証明されていると説明しています。

完璧ではありませんが、FDAが認可した3種類のCOVID-19ワクチンは、ワクチンの第一目標である重症化と死亡に対して高い効果を発揮しています。

結論

Kirkが動画内で提供しているCOVID-19ワクチン反対の論拠は、逸話と誤用された安全性データに基づいており、彼の主張を裏付けるものではなく、実際に現在利用可能な科学的証拠と矛盾しています。安全性監視データの厳密な分析によれば、COVID-19ワクチンは優れた安全性プロファイルを有し、ワクチン接種後の重篤な副作用は稀であることが示されています。

参考文献

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?