David Ickeによる5GとCOVID-19を関連付けるデマの主張がソーシャルメディア上の動画により再燃しています。

【主張】

  • 60GHzの5Gは、人体や血液が酸素を吸収するのを止めるので、路上で倒れるだけだ。

  • この症状、この結果は、ニューヨークのこの医師がCOVID-19の症例で説明していることと酷似している。

【評定】

《誤り》

  • 5Gは現在、60GHzの周波数を使用していないため、人間の健康状態に観察される変化には関与するはずがありません。

  • 5Gで使われる電磁波は、体内の酸素を奪うことはありません。

  • それどころか、酸素が電磁波のエネルギーを吸収するため、電磁波は距離に応じて徐々にエネルギーを失っていきます。

《事実無根》

  • COVID-19は、SARS-CoV-2というウイルスによる呼吸器感染症であり、5G技術ではありません。

《裏付け不十分》

  • 無線技術による電磁界への現在の曝露が人に有害であることを示す証拠はありません。

【キーポイント】

  • 無線通信は、電磁波を使ってある地点から別の地点へデータを転送します。

  • この電磁波は、空気中を移動する際に、粒子や酸素などの物質と相互作用し、そのエネルギーの一部を吸収することが出来ます。

  • この現象により、電磁波は距離に応じて強度が低下しますが、大気中の酸素の量は変化せず、体内で利用不可能になるわけではありません。

  • 電磁波は生体組織とも相互作用しますが、現在のところ、人への健康被害とは関係がないとされています。

【レビュー】

2022年3月、陰謀論者で元サッカー選手のDavid Ickeが登場するTikTok発のFacebookリールが流行しました。その中でIckeは、5Gの周波数60GHzが「人体や血液が酸素を吸収しなくなる」と、COVID-19の症状に相通ずる結果を誤って主張しました。この動画はFacebookで455,000回以上、TikTokで345,000回以上の再生回数を記録しました。また、同様の主張の他の繰り返しもTikTokに掲載されました。

Tiktokの動画は、2020年4月6日に英国のオンラインチャンネル《London Real》で行なわれたIckeへのインタビューの一部で、Ickeは5G技術とCOVID-19パンデミックを結びつけるいくつかの誤った主張を行なっていました。このインタビューはYouTubeでライブ配信され、当時数百万回の再生回数を記録しました。

1990年代から、Ickeは陰謀論を唱えることで知られており、今回の《London Real》のインタビューはその一例です。Ickeのインタビュー後、YouTubeではCOVID-19の誤報に関するガイドラインを強化し、「症状が5Gによって引き起こされると主張する陰謀論」を含めたものとなりました。2020年5月、FacebookYouTubeは有害誤報に関するポリシーに違反したとしてIckeのアカウントを削除し、2020年11月にはTwitterがこれに追随しました。

5G 放射が血液と肺による酸素の取り込みを阻害するという具体的な主張は、このレビューで説明するように、科学的根拠がなく、誤りです。この主張は、以前からファクトチェック機関によって否定されています。

《5Gは環境から酸素を吸収することも、人体で酸素を利用不可能にすることもありません》

無線携帯電話技術は、電磁スペクトルの一部である電波を使用して、ある地点から別の地点へデータを転送します。 5Gとは、第5世代の携帯電話ネットワークのことで、以前のネットワークよりも高い周波数の電波を使用し、より高速で高品質な通信を提供する技術です。但し、5Gは異なる周波数帯を使用し、最初は既に使用されているものと同様の低周波(数百MHzから数GHzまで)を使用し、後にミリ波と呼ばれる高周波に拡張していく予定です。

5Gがどのように酸素の取り込みを阻害するのか、Ickeは明確に説明しませんでしたが、インタビューの時点で動画に表示されたグラフ(図1)がヒントを与えてくれています。このグラフは、電磁波の周波数によって、酸素分子が吸収するエネルギーの割合を示したものです。

60GHzの電波の場合、この割合は98%になります。このグラフを参照したIckeの主張の解釈として、電磁波が環境中の酸素の98%を吸収してしまい、人間が利用出来なくなるというものが考えられます。しかしながら、この解釈は誤りです。

図1.
乾燥大気中の酸素によるミリ波電磁波エネルギーの吸収を、1kmあたりの吸収率で示したもの。
波の周波数が60GHzの場合、大気中の酸素は透過したエネルギーの98%を吸収している。
出典はこちら: RF Globalnet

このグラフは、技術情報プラットフォーム《RF Globalnet》のウェブサイトにあったものと思われ、このグラフが「減衰」という物理現象を示していることが明確に説明されています。減衰とは、ある地点から別の地点への伝送中に、信号が粒子や物体との相互作用によって信号強度が低下することを意味する言葉です。電磁波の場合、酸素などの大気中の粒子との相互作用により、エネルギーの一部を吸収したり方向を変えたりすることで減衰が生じます。

つまり、60GHzの電波は、Ickeが主張するように、体内ではなく大気中の酸素と相互作用しますが、酸素を吸収するわけではありません。それどころか、大気中の酸素分子が電磁波のエネルギーを吸収し、電磁波が進む距離を短くするのです。この減衰現象により、60GHz帯の電波は長距離をカバーすることが出来ないため、5Gでは異なる周波数帯を採用しています。更に、各国はいくつかの低・中周波の5Gバンドを配備し始めていますが、60GHz帯の高周波バンドは配備していません。この周波数はまだ使用されていないため、これまでのところ、人間の健康に観察された変化の原因にはなり得ません。

その他、ネット上で共有されている関連する主張は、5G電磁波が赤血球中の酸素分子やヘモグロビンを変化させるため、体の酸素吸収能力が阻害されるというものです。しかしながら、どちらの主張も正しいものではありません。

5Gの電磁波は、非電離放射線の一種です。米国原子力規制委員会は、この種の放射線について「通過する物質にエネルギーを預けますが、分子結合を壊したり原子から電子を取り除いたりするほどのエネルギーは持っていません」と説明しています

もしこの主張が本当なら、可視光線や紫外線(UV)のような更に高い周波数の波が、酸素分子に同様の、或いはより顕著な変化を引き起こすと予想されます。ところが、(実際には)そんなことは起こりません。可視光線も紫外線も、人が呼吸を止めて倒れる原因にはなりません。

更に、スウェーデンのStrömstad Academyの細胞生物学教授であるMats-Olof Mattson氏は、5Gが使用するタイプの電磁波は皮膚を貫通しないとHealth Feedbackに述べています

30GHz以上のいわゆるミリ波の場合、この深さは1mm以下であり、実質的に皮膚の表皮を超えることはありません。血液への浸透、ひいては赤血球内のヘモグロビンとの直接的な相互作用は非現実的です。

Conspiracy theorists claim that 5G increases vulnerability to COVID-19 with baseless theory that it affects hemoglobin - Health Feedback

その理由は、5Gの電磁波は可視光線よりも低い電磁波帯であり、体組織に浸透するほど強くないからです(図2)。

図2.
5Gを含む電離・非電離放射線の電磁波スペクトルの中の周波数。
出典:
SCAMP/Imperial College London/EBU.

《COVID-19の症状はSARS-CoV-2感染によるもので、5Gとは無関係です》

TikTok 動画における具体的な抜粋では COVID-19 について触れていませんが、インタビューの残りの部分から、Icke が話した症状が COVID-19 の症状であることが分かります。5Gが酸素を枯渇させず、血液中の酸素輸送を妨げることが出来ないという事実を考えれば、このメカニズムに基づいてCOVID-19の症状を説明しようとするIckeの主張には根拠がありません。

COVID-19は、SARS-CoV-2ウイルスによって引き起こされる呼吸器感染症です。Health Feedbackや複数のメディア、ファクトチェック機関が以前から説明しているように、SARS-CoV-2は5Gから 発生したものではなく、また5Gを通じて拡散することもありません。これは、Health Feedbackが以前のレビューで指摘したように、COVID-19がブラジルのような5Gが利用できない地域や国でも広く拡散したという事実が裏付けています。

《現時点でのエビデンスでは、5Gが健康被害を引き起こすとは示されていません》

Full Factによるこの記事では、5G技術とCOVID-19を結びつけるこれらの陰謀論が、パンデミックの前に既に広まっていた神話や恐怖に根ざしていることを説明しました。実際、無線携帯電話ネットワーク全般、特に5Gが有害であるという考えは、COVID-19よりずっと前から存在していました。

専門家も、無線技術に関する研究から得られた証拠は、懸念の理由を示していないことを強調しています。フランスの国立科学研究センター(CNRS)の生体電磁気学の研究者で、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のメンバーであるIsabelle Lagroye氏は、以前のレビューで、「既存の曝露限界値を大幅に下回る曝露に留まる限り、5Gが健康にとって脅威であると述べる科学的根拠は存在しません」とHealth Feedbackに述べています。

2020年、ICNIRPは「100kHz~300GHzの範囲における電磁界への曝露を制限するための新しいガイドライン」を発表しました。ICNIRPは、入手可能な全ての科学的証拠を検討した結果、認知、生理的・ホルモン機能、心臓、神経系、免疫、血液、生殖、発達、神経変性疾患や 癌の発症への悪影響はないことを明らかにしました。また、同団体は、ヒトにおいて健康への悪影響につながるようなメカニズムを示す証拠は何もないとしています。

5Gが人間の健康に及ぼす具体的な影響について取り上げた研究は殆どありません。しかしながら、WHOの説明によりますと、5Gで使用される高い周波数は、以前の携帯電話ネットワークの世代で使用されていた周波数よりも体内に浸透しにくく、5Gの周波数がヒトに悪影響を及ぼす可能性は一層低くなっています。

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