CDC-WHOの研究は、マスクが COVID-19の感染予防にはならないことを立証しているわけではありません。
【主張】
CDCとWHOの研究により、マスクではウイルスの感染拡大の予防が出来ないことが証明された。
【評定の箇条書き】
COVID-19と似たような広がり方をするインフルエンザを対象にした研究ですが、COVID-19については全く触れていません。
この研究はCDCによって発表され、WHOの支援を受けていますが、香港大学によって行なわれたものです。
この研究の著者の一人は、この主張は誤りであると我々に語っています。
【レビュー】
フェイスカバーによってCOVID-19の拡大を抑えられるかどうかが米国で議論されている中、Facebookで共有されている動画が、マスクとウイルス全般について激しい主張をしています。
CDCとWHOの2020年の研究結果によりますと、動画は 「マスクはウイルスの拡散防止効果がないことを立証している」と主張しています。
この動画は、Facebookのニュースフィードにおける偽ニュースや誤報に対抗するための取り組みの一環として、フラグが立てられました。(フェイスブックとのパートナーシップについてはこちらをご覧下さい。)
この研究の著者の一人である香港大学のBen Cowling教授は、この主張は研究の「誤った解釈」であり、「根拠の欠如と欠如の根拠を混同している」とPolitiFactに語ってくれました。
➡『根拠とするには統計学の知見からデータが足りませんので、根拠にすることは出来ません』と発言することと『データが足りないので統計学の知見から結果は有意ではないと見做してよいとする根拠があります』と発言することは意味が全然違うってことね。根拠だとして押し通したら、前者は #デマ吐き ですし、後者はデータの取り扱いに誠実なまともな科学者です。
コロンビア大学の研究員であるウイルス学者Angela Rasmussen氏は、動画で引用された研究について次のように述べています:「要するに、この論文では、マスクが感染を予防しないことを証明しているのではなく、入手可能なデータでは、統計的に有意な効果を示さなかったということです。」
「利用可能なデータは不完全であり、マスクが地域感染を減らすのに有効かどうかをよりよく理解するためには、より多くの研究を行う必要があります。そのため、私は公共の場ではマスクを着用し続けています。」
マスクに関する知見
これまでお伝えしてきたように、顔を覆うマスクはそれ自体がコロナウイルス対策として完全に有効というわけではなく、更なる研究が必要とされています。しかしながら、どのような種類のマスクであっても、社会的距離を置き、頻繁に手洗いをすることで、マスクをしていない状態よりも感染予防になるというのが、保健当局の大方の意見です。
CDCは、食料品店、薬局、ガソリンスタンド等、社会的距離を置くことが困難な公共の場でのマスク着用を推奨しています。
CDCは次のように言っています:「あなたのマスクが相手を守るかもしれませんし、相手のマスクがあなたを守るかもしれません。」
動画の内容
15分の動画は、「権力に真実を語るジャーナリスト!」と自称するBen Swannがナレーションを担当し投稿したものです。Facebookのフォロワーが48万6,000人も居るSwannは、「人類に影響を与える問題に焦点を当てたコンテンツ 」を提供するというTruthInMedia.comを運営しています。
この動画は同日、ロシア連邦から資金提供を受けているニュースネットワーク「RT」(旧称Russia Today)でもYouTubeでシェアされました(=日本からは見ることが出来ない模様)。
2018年2月、YouTubeは国家が資金提供する投稿や陰謀論を宣伝する動画にラベルを貼るようになりました。この措置は、YouTubeが 「米情報当局が『クレムリンの主要な国際宣伝機関』と呼ぶ」RTの主要なパイプ役になっていることもあり、大きな意味を持つとWall Street Journalは当時報じていました。
CDCとWHOとの提携研究
動画で引用されている研究は、香港大学の研究者によって行なわれたもので、動画で主張されているように、CDCとWHOによるものではありません。但し、提携はされています。
この研究は2月に発表され、CDCが発行する査読有りの専門誌《Emerging Infectious Diseases》5月号に掲載されています。この研究は、「非医療現場におけるインフルエンザの大流行に対する非薬品的介入の使用に関する WHO のガイドラインの策定準備のために実施された」とし、WHO の支援を受けています。
CDCは、この研究に参加していないことを確認し、コメントを控えたが、広報担当者は7月に発表された別のCDCの研究を引用しています。この研究は、COVID-19が確認された症状のある美容師2人に接した顧客を調べたものです。スタイリストがマスクを着用している間、マスクを着用した139人の顧客のうち、症状のある二次感染者は報告されませんでした。COVID-19の検査を行った67名の顧客のうち、検査結果はすべて陰性でした。「コミュニティと会社のフェイスカバーの方針を守ることで、COVID-19の蔓延が緩和された可能性が高い」と、本研究は述べています。
WHOは、我々が公表する前にコメントを出していません。
動画で引用された研究は、インフルエンザ研究のレビューです
Swannの動画で引用された研究は、個人防護具とインフルエンザの感染に関する研究のレビューに相当します。コロナウイルスやCOVID-19については触れられていません。
1946年から2018年までに発表されたランダム化比較試験に関する10の研究をレビューした結果、「フェイスマスクの使用によるインフルエンザ伝播の有意な減少はない」と判断されました。それは、感染者が着用するマスクや、一般社会の人が着用するマスクに関するものでした。
「我々は、外科用タイプのマスクを感染者が着用した場合、または一般社会の人が感受性を下げるために着用した場合のいずれにおいても、実験室で確認されたインフルエンザの伝播を減らすのに有効であるという証拠を見つけることは出来ませんでした」と、研究者は書いています。
「しかしながら、手指衛生と同様に、マスクも他の感染症の感染を減らすことが出来るかもしれませんので、医療資源が伸びるインフルエンザの大流行時には価値があります。」
この研究の著者の一人であるCowling氏は、COVID-19はインフルエンザと同様の方法で広がるので、この研究結果はCOVID-19にも適用出来るはずだと我々に教えてくれました。
その一方で、サンフランシスコ大学の研究者Jeremy Howard氏は、インフルエンザとCOVID-19は異なる病気であり、「インフルエンザの試験で得られたエビデンスがCOVID-19に関連するかどうかはわからない」と注意を促しています。
その一方で、サンフランシスコ大学の研究者Jeremy Howard氏は、インフルエンザとCOVID-19は異なる病気であり、「インフルエンザの試験で得られたエビデンスがCOVID-19に関連するかどうかは分かりません」と注意を促しています。
"We did not find evidence." というのは、インフルエンザの試験で得られたエビデンスがCOVID-19に関連するかどうか分からないということです。
エビデンスは見つからなかった」という表現は、マスクが有効か無効かのどちらかを証明するものではない、とハワード氏は述べた。
また、レビューされた10件の臨床試験のうち、パンデミック時に行われたものがないことも重要であると付け加えました。
Rasmussen氏は、「これは他の発表された研究の系統的レビューであり、我々が既に知っていることの多くを教えてくれます:医療現場以外ではマスクに関する良いエビデンスはありませんが、特に感染のメカニズムに関してはまだ多くの知識ギャップがあります」と繰り返しました。
テキサスA&M大学テキサーカナ校のウイルス学者Ben Neuman氏は、この研究はパンデミックの初期段階におけるマスクの理解を反映しているが、その後発表されたいくつかの重要な論文のために、科学的見解は変化していると述べています。
「その数週間後、同じ著者とコロナウイルスの専門家からなるグループが、マスクは感染者が空気中にウイルスを放出するのを阻止するのに非常に有効であることを示す論文を発表したのです。
この投稿では、CDCの研究により、マスクはCOVID-19を予防しないことが証明されたと主張しています。
しかし、それはCDCの調査ではないですし、マスクが効果的でないことを「証明」したわけでもないのです。
科学者達は、マスクとCOVID-19の予防についてまだ研究しています。私達はこの文章を「誤り」と評価します。
参考文献
Facebook, post (archived here), July 23, 2020
Lead Stories, "Fact Check: New CDC And WHO Study Does NOT Prove 'No Evidence' Face Masks Prevent Virus," July 26, 2020
Centers for Disease Control and Prevention’s Emerging Infectious Diseases, "Nonpharmaceutical Measures for Pandemic Influenza in Nonhealthcare Settings—Personal Protective and Environmental Measures," May 2020
YouTube, RT post of video, July 23, 2020
Email, Ben Cowling, professor of public health, University of Hong Kong, July 30, 2020
Email, University of San Francisco research scientist Jeremy Howard, July 29, 2020
Email, virologist Angela Rasmussen, associate research scientist at Columbia University, July 30, 2020
Email, Centers for Disease Control and Prevention spokesman Scott Pauley, July 31, 2020
Centers for Disease Control and Prevention, "Absence of Apparent Transmission of SARS-CoV-2 from Two Stylists After Exposure at a Hair Salon with a Universal Face Covering Policy — Springfield, Missouri, May 2020," July 17, 2020
Email, Texas A&M University-Texarkana virologist Ben Neuman, July 30, 2020
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