COVID-19 mRNAワクチンにDNA汚染物質が含まれているという主張は、「出所不明」のバイアル瓶の調査に基づいており、COVID-19 mRNAワクチンが人のDNAを変化させるという証拠はありません。

【主張】

  • SV40はヒトの癌に関係している。

  • COVID-19のmRNAワクチンに)DNAが検出されたということは、COVID-19のmRNA注射にはヒトゲノムを改変する能力があるかもしれないということである。

  • 細胞質への形質導入は、細胞分裂の際に核が分解して細胞質と細胞成分を交換することから、遺伝子操作も可能である。

  • 規制当局は混入汚染問題があることを知っていた。

【評定】

《誤解を招く》

  • SV40はハムスターのような特定の動物に癌を引き起こすことが知られています。

  • 疫学調査ではSV40混入ポリオワクチンを接種したヒトに癌のリスクが上昇することは発見されていません。

《不十分な裏付け》

  • McKernanらのプレプリントも、論文に引用されている他の研究も、COVID-19 mRNAワクチンが有意なDNA汚染を含んでいる、或いはワクチンがヒトのDNAを変化させるという主張の根拠を示していません。

  • この主張の根拠となる分析は、出所不明のバイアルに対して実施されたものです。

【キーポイント】

  • 現在までのところ、COVID-19 mRNAワクチンがヒトにおいてDNAを変化させるという主張には、それがどのようにして起こるのかを説明する生物学的に信憑性のある証拠が欠如しています。

  • 1950年代から1960年代にかけて投与されたポリオワクチンには、動物に腫瘍を引き起こす可能性のあるSV40ウイルスが一定割合混入していました。

  • しかしながら、それ以降の疫学調査では、その時期にポリオワクチンを接種したヒトに発癌リスクが高いという結果は出ていません。

【レビュー】

2023年6月11日、《The Epoch Times》紙がオステオパスのJoseph Mercolaによる「COVID-19注射にサル・ウイルスのDNAを発見」と題する記事を再掲載しました

同記事は、科学者グループが「シミアンウイルス40(SV40)のプロモーターを含む大量のDNAがCOVID-19注射のmRNAに混入しているのを発見した」、「SV40はヒトのがんに関係している」、「DNAが発見されたということは、COVID-19注射のmRNAがヒトのゲノムを改変する能力を持っている可能性があることを意味する」と主張しています。

同様の記事は、ウェブサイト《Discern Report》でも再掲載されました。ソーシャルメディア分析ツール《CrowdTangle》によりますと、両記事合わせて、現在までにソーシャルメディア上で1万件以上のエンゲージメントを獲得しています。しかしながら、以下で説明されている通り、記事の内容は誤解を招くものであり、主張には根拠がありません。

COVID-19ワクチンに由来不明のバイアルが使用され、DNAが混入しているというプレプリントが発見される

この論文の主張は、核酸配列決定サービスを提供するMedicinal Genomics社の科学者グループであるMcKernanらが執筆したプレプリント(まだ査読を受けていない研究)を大幅に引用しています。

プレプリントの中で著者らは、Pfizer-BioNTech社のCOVID-19ワクチンからDNAを検出し、特にシミアンウイルス40(SV40)に由来する特定の遺伝子配列を検出したと主張しています[1]。この遺伝子配列はプロモーターとして知られており、プロモーターの後に位置する遺伝子の発現を増強することが出来ます。プロモーターの役割については、米国国立ヒトゲノム研究所がこちらの記事で詳しく説明しています。この発見は、COVID-19 mRNAワクチンがDNAを修飾し、癌リスクを増加させる可能性があるという記事の主張の根拠となっています。

しかしながら、最も重大な限界の一つは、テストされたバイアルが「出所不明」であったことであり、著者らはバイアルが「保冷剤なしで匿名で郵便で」送られて来たものではあるが、バイアルは「未開封」であったと説明しています。簡単に言えば、バイアルが実際にCOVID-19 mRNAワクチンのものであったかどうか、そして中身の完全性には疑問があるということです。The Epoch Timesの記事は、この事実を単に覆い隠し、DNA混入の決定的な証拠としてプレプリントの調査結果を論じているだけです。

ミシガン大学でDNA腫瘍ウイルスを研究しているMichael Imperiale教授は、この結果からCOVID-19 mRNAワクチンのDNA混入が蔓延していると断定することは不可能ですと、Health Feedback誌に電子メールで述べています。「この論文は査読を受けていないので、本当に重大なDNA汚染があったかどうかは不明です」と彼は説明しました。[ Imperiale教授のコメント全文はこちら ]

The Epoch Timesはまた、プレプリントの筆頭著者によるSubstackの記事に基づいて、「規制機関は汚染問題があることを知っていた」とし、「Pfizer社がEMAに提出したデータによれば、サンプリングされたロットには1ng/mgから815ng/mgのDNAが含まれていた」と主張しました。

ここで重要なのは、815ng DNA/mL RNAという上限値は、報告書の脚注に明確に示されているように、誤ったDNA分解酵素で処理されたロットから得られたものであり、その結果、ワクチンにはより多くのDNAが残存していたことです。しかしながら、The Epoch Times紙はこの事実を無視しています。

この値を除外した場合の最高値は211ng DNA/mL RNAであり、これは報告書に記載されている欧州医薬品庁の「商業的許容基準」(≦330ng DNA/mg RNA)の範囲内です。

更に、その基準を大幅に超える残留DNAレベルのワクチンバイアルは、そもそもワクチン接種に使用されることはないでしょう、これは米国でも同様だと思いますよ、とImperiale教授は指摘しています。

また、残留DNAレベルの定量はRNAレベルとの相対的な測定に基づいているため、適切に保管されていないバイアルはRNAが著しく劣化している可能性が高いということが他の研究者 からも 指摘を受けています。対照的に、DNAはより安定しており、あまり劣化する可能性はありません。そのため、分析が実施されるまでにDNAレベルがRNAレベルよりも大幅に高くなる可能性があり、誤った結果が出る可能性があります。

SV40がヒトに癌を引き起こすという証拠は今のところ存在しない

SV40が癌に関係しているという主張は、1950年代から1960年代にかけて使用されたポリオワクチンにSV40が混入していたという初期の報告に端を発しています。SV40はサルとヒトの両方に存在するDNAウイルスであり、ハムスター等一部の動物に癌を引き起こすことが報告されているだけです[2,3]。

米国疾病予防管理センター(CDC)は次のように説明しています

「1955年から1963年まで、米国で接種されたポリオワクチンの推定10~30%がシミアンウイルス40(SV40)に汚染されていました。このウイルスは、当時ポリオワクチンの製造に使われていたサルの腎臓細胞培養物から発生したものです。汚染の大部分は不活化ポリオワクチン(IPV)に含まれていましたが、経口ポリオワクチン(OPV)からも検出されました。汚染が発見された後、米国政府は全ての新ロットのポリオワクチンにSV40が含まれていないことを確認するための検査要件を設けました」。

Historical Safety Concerns | Vaccine Safety | CDC

そのため、この汚染のニュースは、その時期にポリオワクチンを接種した人は癌のリスクが高いのではないかという懸念に繋がりました

その後、その時期にポリオワクチンを接種した集団について、いくつかの疫学調査が実施されました。その結果、これらの人々には発癌リスクの増加は認められず[4-7]、SV40が発癌リスクを増加させるという主張とは矛盾しています。Health Feedbackは以前のレビューでこの問題を取り上げています。フィラデルフィア小児病院も、この記事の中でこの問題を取り上げています。

2002年、米国医学研究所はSV40と癌の関係についてのレビューを発表しました[8]。その要旨では次のように結論づけています:

SV40は癌を引き起こすウイルスと一致する生物学的特性を持っているが、それがヒトに癌を引き起こしたかどうかについての決定的な証拠は見つかっていません。1955年から1963年の間にポリオワクチンを接種した人々のグループを対象とした研究では、発癌リスクが増加しなかったという証拠が得られています。しかしながら、これらの疫学研究にはかなりの欠陥があるため、医学研究所の予防接種安全審査委員会は、汚染されたポリオワクチンが癌を引き起こしたか否かを結論づけるには証拠が不十分であると結論付けています。

Immunization Safety Review: SV40 Contamination of Polio Vaccine and Cancer | The National Academies Press

ここで留意すべきことがいくつかあります。第一に、このプレプリントはSV40ゲノムの断片(プロモーター)のみを発見したと主張しており、完全なウイルスを発見したとは言っていない点です。このプレプリントの筆頭著者はAP通信に対し、「これはSV40ウイルスを完全に発見したのとは違います」と語っています。そして、動物で癌と関連しているのはこのウイルスであり、プロモーター断片だけではないのです。

第二に、SV40によるポリオワクチン汚染は、ワクチン製造に使われたポリオウイルスの増殖にサルの腎臓細胞を使った結果だということです。Pfizer-BioNTech社のCOVID-19 mRNAワクチンの製造にはそのような細胞培養は使われておらず、科学者達が検出したSV40汚染疑惑の起源について疑問が投げかけられているのです。

COVID-19 mRNAワクチンがDNAを変化させる妥当なメカニズムは存在しない

The Epoch Times紙の記事は、プレプリントの筆頭著者であるKevin McKernan(元MITヒトゲノム・プロジェクトの研究開発責任者で、現在はMedicinal Genomics社の最高科学責任者)の「FDAでさえ、二本鎖DNAを注入する際に懸念するのは、ゲノムに組み込まれる可能性があることだ」なる声明を引用しています。 The Epoch Timesの記事はまた、「DNAの発見は、mRNA COVID-19ワクチンがヒトゲノムを変化させる可能性があることを意味する」と主張しています。

COVID-19 mRNAワクチンがDNAを変化させる可能性があるという(あたおか)主張は、ワクチンが開発中だった2020年まで遡ることが出来る長きに渡るものです。Health Feedbackの取材に応じた科学者達は、COVID-19 mRNAワクチンがDNAを変化させる生物学的メカニズムは知られていないと説明しており、彼らのコメントはこの2つレビューに含まれています。

一方、The Epoch Times紙の記事は、この主張に新たな捻りを加え、私達のDNAを改変することが出来るのは、スパイクmRNAではなく、ワクチンに含まれるDNA汚染物質、特にSV40プロモーターであると提唱しています。

しかしながら、「SV40プロモーターがいわゆる挿⼊突然変異原として作用する、即ち、細胞の癌遺伝子に隣接して統合され、その発現を活性化するという証拠はありません」と、Imperiale教授はHealth Feedback誌に語っています。

The Epoch Timesの記事は微生物学者Sucharit Bhakdiを引用し、細胞分裂(有糸分裂)の際に細胞核(DNAが収められている)を取り囲む膜が分解される「細胞質形質導入」が「遺伝子操作を可能にする」と主張しています。

しかしながら、Imperiale教授は、「このワクチンは、大部分が有糸分裂後の細胞を含む筋肉に投与されるため、細胞質と核の混合という考え方は適用さ れません」と指摘しています。有糸分裂後の細胞ー例えば神経細胞や骨格筋細胞等ーは、もはや有糸分裂を起こさないと一般的に考えられています。

コメント依頼に対するプレプリント著者の反応

我々は、SV40プロモーターがヒトゲノムに組み込まれる可能性があるというMcKernanの主張について説明を求めるため、彼に連絡を取りました。McKernanは私達の電子メールに返信しなかったが、私達の電子メールをツイッターに投稿しました。

ツイッターのスレッドにおいてMcKernanは

  • Health Feedbackが「人口レベルを下げることに執着している」と主張

  • レトロウイルスだけがヒトゲノムに統合可能であると我々が主張したと誤って主張

  • 彼の主張を支持する証拠としてPNASの論文を引用し、「もし非レトロウイルスのmRNAが統合可能なら、DNAはもっと簡単だ」と主張

Zhangらによって書かれた問題のPNAS論文は、SARS-CoV-2の感染後、SARS-CoV-2ゲノムの一部が不死化ヒト細胞株(HeLa細胞のように無期限に増殖可能な細胞)のゲノムに組み込まれたのを検出した、というものです[9]。

著者らは、この統合はヒトゲノムに存在するLINE-1レトロトランスポゾンシステムによって促進されたと報告しています。Health Feedbackでは、Aldenらの研究に基づく主張について、このレビューでLINE-1レトロトランスポゾン系をより詳細に論じています。

PNASの研究では、通常のヒト細胞では発現しないLINE-1を過剰発現させた遺伝子組み換えヒト細胞を用いているため、この研究で観察された効果がヒトでも起こる可能性があるのか疑問が残ります。

PNASの論文は科学界で論争を巻き起こし、他の科学者が結果を再現できないと報告したため[10]、研究結果の一般化可能性と信頼性に疑問を投げかけました。

McKernanはまた、1999年のDeanらの研究を引用し、プラスミド(円形の染色体外DNA分子)上にSV40プロモーターのある部分を含めると、細胞培養で増殖しているサルの腎臓細胞の核内へのプラスミドの移動が改善され、プラスミド上の遺伝子の発現が改善されたと報告しています。しかしながら、プラスミドが細胞のゲノムに統合することは示されませんでした。この研究は、ワクチン接種の文脈で統合が起こるという証拠を示してはいません。

簡単に言うと、McKernanのツイッターのスレッドには我々の質問に対する回答は一切ありませんでした。その代わり、彼はツイッターユーザーに「(自分達の)疑問を解決する」よう依頼しました。

注目すべきは、2023年2月、Zhangら(McKernanが引用したPNASの論文の著者)がViruses誌に発表した研究で、LINE1を介したSARS-CoV-2のヒトDNAへの組み込みに関する以前の研究結果の続報でした。 彼らはSARS-CoV-2に感染した細胞とmRNAを導入した細胞の両方で、SARS-CoV-2のmRNAが細胞のDNAに組み込まれた形跡があるかどうかを調査しました。mRNAを導入した細胞は、不完全ではあるが、mRNAワクチン接種で起こることのモデルとして有用なものです。

ウイルスに感染した細胞はSARS-CoV-2がヒトゲノムに組み込まれる兆候を見せたのに対し、ウイルスのmRNAを形質導入した細胞はそうならなかったのことが判明したのです[11]。

著者らは、「ウイルス感染細胞におけるレトロトランスポジションは、形質移入された細胞とは対照的に、ウイルスRNAの形質移入とは対照的に、ウイルス感染ではウイルスRNAレベルが著しく高くなり、細胞ストレスを引き起こすことによってLINE1の発現を刺激するため、促進される可能性がある」と結論づけました。

ホワイトヘッド研究所のプレスリリースも同じ所見を示しています:

研究者達は、SARS-CoV-2のmRNAを形質導入しても、感染と同じようにゲノムの統合には至らないことを発見しました。感染すると、当然ながら大量のウイルスRNAが産生され、細胞に炎症反応を引き起こします。このような細胞ストレスは逆転写装置のレベルを上昇させるのです。 形質導入ではこのようなことは起こらないので、 研究者らは、TagMapが正常細胞においてLINE1によるウイルスゲノム統合を引き起こすという証拠を発見することが出来ませんでした。

New research supports finding explaining why some patients may test positive for COVID-19 long after recovery | Whitehead Institute (mit.edu)

PNASとVirusの両研究の上席著者であり、ホワイトヘッド研究所の共同設立者であるRudolf Jaenisch氏は、「我々の結果は、ワクチンRNAが統合しないことと一致しています」と述べているものの、実際のmRNAワクチンを用いた更なる研究が必要であると注意を促しています。

McKernanは、我々のメールに反応した彼のツイッターのスレッドでは、この研究については触れていません。

結論

要約しますと、COVID-19 mRNAワクチンに含まれるDNA汚染物質がDNA改変と発癌のリスクをもたらすというThe Epoch Timesの記事の提案は、十分な証拠によって立証されたものではありません。あるプレプリントでは、DNA汚染物質がPfizer社のCOVID-19 mRNAワクチンの小瓶に含まれていたとされていますが、この知見は出所不明の小瓶から得られたものです。しかしながら、この事実は覆い隠され、この重大な制限にも関わらず、プレプリントの所見は混入の決定的な証拠として論じられています。

このプレプリントには、COVID-19 mRNAワクチンがDNAの変化を引き起こすという証拠も、それが起こる妥当なメカニズムも示されておらず、SV40が癌と関連しているというThe Epoch Timesの記事の主張は誤解を招くものです。

【SCIENTISTS’ FEEDBACK】

ミシガン大学微生物学・免疫学教授 Michael J Imperiale氏:

このプレプリントは査読を受けていないため、本当に重大なDNA汚染があったかどうかは不明であることをお断りしておきます。FDAがそのような汚染のあるワクチンのロット発売を許可していないことは確実です。

SV40プロモーターがいわゆる挿入型突然変異原として作用する、即ち、細胞の癌遺伝子と一体化してその発現を活性化するという証拠はありません。更に、ワクチンは大部分が有糸分裂後の細胞を含む筋肉に投与されるため、細胞質と核の混合という考え方は適用されません。次に、たとえDNAが核に入ったとしても、プラスミドが細胞ゲノムに組み込まれることは極めて稀な出来事です。最後に、これらの細胞はウイルス抗原(SARS-CoV-2スパイク・プロテイン)を発現しているので、免疫系によって破壊されます。

参考文献


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