ホームレス経験者は、一般の人々よりもCOVID-19で死亡する頻度が高くなっています。
【主張】
COVID-19がそれほど致命的なら、なぜホームレスはパンデミックから生き延びたのか?自然免疫だろ?
【詳細評定】
《誤解を招きます》
ホームレス経験者がパンデミックを生き延びたという記述は、この人々が比較的無傷で済んだという誤解を招きます。
実際には、COVID-19による死亡率は一般集団よりも高いという調査結果が出ています。
《実際に不正確です》
この主張は、COVID-19による死亡率が一般集団よりも高いことを暗示しています。
死亡率のデータは、COVID-19が世界中で数百万人の死亡を引き起こし、パンデミック全体を通じて大幅な超過死亡の原因となっていることを明確に示しています。
【キーポイント】
ホームレス状態にある人々は、社会的弱者層として位置づけられています。
彼らは食料、シェルター、医療といった資源へのアクセスが困難な状況に直面しています。
このグループのCOVID-19の転帰に関する利用可能なデータによると、彼らは一般集団よりも高い割合で死亡していることが明らかになっています。
これは、糖尿病や心血管疾患といったCOVID-19の併存疾患の有病率が高いことからも説明することが出来ます。
【レビュー】
COVID-19の大流行中、COVID-19の実態や深刻さを軽視する主張が数多く浮上しました。しかしながら、Science Feedbackは以前、科学的データがこれらの主張はもろに食い違っていることを立証しました。本稿執筆時点で、COVID-19は2020年の流行開始以来、米国内で100万人以上、世界中で700万人以上の死者を出しています。
これらの数字はCOVID-19の致死性を示していますが、COVID-19がもたらす公衆衛生の脅威を疑う主張は根強く残っています。その一例が2024年8月のThreadsへの投稿で、COVID-19は大部分のホームレス経験者(PEH)の命を救っていると主張し、ウイルスは報告されている程致命的ではないとほのめかしています。この投稿は自然免疫についても言及しており、致死率が低いとされるCOVID-19を管理する方法として、感染誘発免疫に頼ることが適切であることを示唆しています。
しかしながら、これは誤解を招くものであり、その理由はScience Feedbackが以前のレビューで説明しましたように、感染誘発免疫はワクチン誘発免疫よりも予測しにくく、リスクが高いからです。更に、ホームレス経験者がCOVID-19から免れたという主張は、以下で説明するように、精査の対象にはなり得ません。
ウイルスが致命的である為に全人口を絶滅させる必要はありません。
パンデミック後にホームレス経験者が存在し続けたことが、COVID-19が致命的ではなかったことを示唆しているという議論は根本的に間違っています。この理屈でいけば、中世に大流行したペストでも多くの人が生き残ったから致命的ではなかったと主張することが出来る事になりますが、実際には2,500万人が死亡したと推定されています。
更に、パンデミック以前にホームレス状態になかった人々が、パンデミックの間に住居を失い、メディアによって報道されたホームレス経験者数の増加の一因となった可能性があることを認識することは重要です。そのため、パンデミック後にどれだけのホームレス経験者が生き残ったかは、その要因を考慮しなければ評価することは不可能です。従って、ホームレス経験者数だけでCOVID-19の深刻さを軽視することは出来ません。
ホームレス経験者のCOVID-19死亡データの欠如は、公衆衛生研究における長年の課題を反映しています。
ホームレス経験者のCOVID-19による死亡数に関する初期の数値は驚くほど低く、PEHの方が病気を防ぐ能力が高いという主張を表向きは裏付けていました。
しかしながら、エビデンスの欠如は欠如のエビデンスではなく、ホームレス経験者の死亡率に関するデータがないからといって、ホームレス経験者の死亡率が低いということにはなりません。後の2021年3月の記事で、ホームレス経験者の集団の研究に携わる専門家は、ホームレス経験者のCOVID-19による死亡率は「大幅に過小評価されている」と健康ニュースサイトSTATに語っています。
ホームレス経験者の死因は、パンデミックが始まるずっと以前から公衆衛生の盲点となっていた、とSTATは報告しています。通常、住宅事情は死亡診断書には記載されず、また、犯罪の兆候がない場合、公共の場所で死体で発見された人の検死は通常実施されません。従って、COVID-19で死亡したホームレス経験者の中には、公式にはCOVID-19による死亡と認定されなかった者が多数含まれていた可能性があります。
更に、ホームレス経験者に特有な特徴が前向き研究を困難にしています。このような研究では、COVID-19や死亡といった健康上の転帰について、同じ個人を長期に渡って系統的にモニターする必要がありますが、住居が不安定である場合、これを達成することは困難です。この困難さは、パンデミック時のホームレス経験者に関するある前向き研究[1]の著者によって強調されています:
ホームレス経験者は一般集団よりもCOVID-19で死亡するリスクが高いことが、入手可能なデータから示されています。
ホームレス経験者の死亡率に関するデータ収集が困難であるにも関わらず、このグループにおけるCOVID-19の転帰を明らかにした研究もいくつか存在します。
あるシステマティック・レビューでは41の研究[2]が報告されており、そのうちの5つは死亡率に関するデータに基づいて報告されています。死亡率に関する5つの研究はいずれも、一般集団と比較してPEHのCOVID-19死亡率が高いことを明らかにしました。
とはいえ、著者らは、データの不足やホームレスの定義に関連した不正確さにより、大部分の研究は質が低いか中程度であると指摘しています。
このレビューに含まれていない他の研究も同様の結論に達しています。2020年1月から2021年11月までのロサンゼルス郡におけるホームレス経験者を対象としたある研究では、ホームレス経験者の年齢調整死亡率は一般集団と比較して2.35倍高いことが判明しています[3]。
別の研究では、カナダのオンタリオ州で最近ホームレス状態にあった約3万人を6ヵ月間追跡調査しました。この研究では、最近ホームレスになった人では、住居が確保されている人に比べてCOVID-19による入院が20倍以上高かったと報告しています。また、前者は後者に比べ、COVID-19検査陽性から21日以内のCOVID-19関連死のリスクが5倍高いという結果が出ています[4]。
フランスとオランダの研究では、COVID-19による死亡率は調査されていませんが、ホームレス経験者のCOVID-19による入院率が高いことが報告されており、著者らは、このグループは一般集団に比べて危険因子の有病率が高いためであるとしています[1,5]。
最後に、Coalition For The Homelessは、パンデミック開始から2021年2月までのニューヨーク市のシェルターにおけるホームレス経験者の死亡率の調査を実施しました。ホームレス経験者の人口はニューヨーク市の一般人口よりも若いため、年齢で調整した後の調査では、避難所にいるホームレス経験者のCOVID-19による死亡率は10万人あたり436人で、一般人口の死亡率よりも49%高いことが判明しました。
このように、ホームレス経験者を研究する際に研究者が直面する困難にも関わらず、入手可能なデータから、ホームレス経験者は一般集団と比較してCOVID-19による死亡頻度が高いことが立証することが出来ました。この基本的な理由は、ホームレス経験者がより脆弱な集団であり、食料、住居、医療へのアクセスという点で格差に直面していることであると思われます。
更に、ホームレス経験者は糖尿病や心血管疾患といったCOVID-19の重症化リスクの高い健康問題の有病率が高くなっています。これは平均寿命の短さにも表れています: 平均して、ホームレス経験者は米国の一般人口より12年早く死亡しています。
結論
ホームレス経験者は、社会的弱者層です。彼らは多くの場合、資源や医療へのアクセスが限られており、重篤なCOVID-19のリスクを上昇させる可能性のある病状に罹患する割合が高くなっています。
ホームレス経験者を対象とした研究を実施することは、公衆衛生上の長年の課題となっています。ホームレス経験者におけるCOVID-19の転帰に関するデータは、結果として不足していますが、ホームレス経験者のCOVID-19死亡率は一般集団に比べて高いことが分かっています。そのため、ホームレス経験者がCOVID-19の流行から免れたと主張するのは不正確です。それどころか、ホームレス経験者のデータは、COVID-19パンデミックが特に致命的な健康危機であったという事実を裏付けているのです。COVID-19パンデミックは、世界中でかなりの超過死亡を引き起こしました。
引用文献:
1 – Loubiere et al. (2023) Morbidity and mortality in a prospective cohort of people who were homeless during the COVID-19 pandemic. Frontiers in Public Health.
2 – Ogbonna et al. (2023) The Impact of Being Homeless on the Clinical Outcomes of COVID-19: Systematic Review. International Journal of Public Health.
3 – Porter et al. (2022) Race and Ethnicity and Sex Variation in COVID-19 Mortality Risks Among Adults Experiencing Homelessness in Los Angeles County, California. JAMA Network Open.
4 – Richard et al. (2021) Testing, infection and complication rates of COVID-19 among people with a recent history of homelessness in Ontario, Canada: a retrospective cohort study. Canadian Medical Association journal Open.
5 – Mennis et al. (2024) COVID-19 related morbidity and mortality in people experiencing homelessness in the Netherlands. Plos One.
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