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秋山幸子[特定社会保険労務士 あおぞら人事・労務サポート]/こんなときはどうする? 副業Q&A

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副業にまつわる、あれやこれ。よくあるシチュエーション別に、どのような判断を下せばいいのかを見ていこう。

解説/秋山幸子[特定社会保険労務士 あおぞら人事・労務サポート]

Q1

副業をしたいというスタッフの意向は分かりますが、うちではスタッフの生涯雇用を想定しておらず、副業は独立した後で自由にしてほしい、というのが本音。副業を禁止することは可能でしょうか?

A1

就業規則で「副業禁止」とうたうこと自体は自由ですが…、

ある種の抑止力として、就業規則で「副業禁止」とすること自体は自由です。ただし、憲法では「職業選択の自由」が定められており、法令(ここでは憲法)と就業規則とでは、法令が優先適用されることから、副業を一律に禁止する就業規則は、強制力に乏しいといえます。また、労働関係の法令でも、労働者は就業時間外は自由に過ごしてよいとされていることから、副業も自由に過ごす一環として、禁止は難しいといえるでしょう。「副業禁止」とすることで、かえってスタッフは副業を隠してしまいかねず、長時間労働を把握できなくなる恐れもあります。また「過労で倒れた」「ダブルワーク先への移動中に事故を起こした」という場合、労災の認定などでトラブルが生じやすくなります。

Q2

就業規則でスタッフの副業を禁止しているにもかかわらず、一人のスタッフがひそかに副業をしていました。懲戒処分を下すことは可能でしょうか?

A2

大損害を与えたのでなければまずは話し合うべきです。

重要な企業秘密を漏らしたり、サロンに大損害を与えたり…というならともかく、A1でも述べた通り、就業規則で副業を禁止していたとしても、単に副業をしたというだけで懲戒処分を下すことはできません。

また、例えば「遅刻や業務時間中の居眠りが増えたのは隠れて副業をしていたせいだった」のように、業務に支障を来してはいるが、その程度が軽微な場合は、遅刻や居眠りに対しては注意を与えた上で、副業を続けなければいけない事情があるなら話してほしいこと、本業と両立できないならば副業を辞めてほしいこと、現状が改まらないならば懲戒処分を下さざるを得ないことなどを伝えるべきでしょう。それでもなお遅刻や居眠りが改まらない場合は、戒告などの軽い懲戒処分から下していくことになると思います。

Q3

スタイリストはともかく、アシスタントには技術習得に専念してほしい。就業規則にスタイリストは副業OK、アシスタントはNGと規定することは可能でしょうか?

A3

職種ごとの規定は難しいと思われます。

ほとんどのサロンでは、アシスタントは将来への投資として、赤字覚悟で雇用していると思います。だからこそ、副業などをせず、トレーニングと職務に専念し、早くデビューして生産性を上げてほしいというのが本音でしょう。しかし、例えば「主にアシスタント業務に就く者は副業・兼業を行なってはならない」のように、職種でOK・NGを区分することは、合理性を欠くと判断されそうです。

ただし、「従業員は会社の許可なく、社外の業務に従事または自ら事業を行なってはならない」と、副業を許可制にした上で、「入社後○年を経過した者」や「職務専念を要しないと認められた者」のように、本人の業務実績や資質などで区分をするならば、記載も可能と思われます。

Q4

スタッフが隠れて副業をしており、ある日突然、オーバーワークで倒れてしまいました。

A4

サロンの責任もゼロとは言えません。

使用者には、スタッフの健康管理義務があります。「突然倒れた」と言いますが、例えば顔色が悪かったり、注意力が散漫になっていたりといった、体調不良の前兆に、誰も気付かなかったのでしょうか? 体調が悪そうと感じたら、声を掛けて状況を確認するといった義務が使用者側にあると考えられます。

なお、もしも副業によるオーバーワークで体調不良となり、通勤中、交通事故を起こし、しかもそのスタッフは無保険で運転していた…というような場合、たとえスタッフが副業を隠していたのだとしても、使用者は上記のような義務があることを考えると、一部賠償責任が生じる可能性はあるでしょう。

Q5

うちでは副業を認めていますが、男性スタッフが勤務終了後、ホストクラブで働きたいと申し出てきました。自分はホストクラブに対してあまりいい印象を持っておらず、禁止したいのですが、可能でしょうか?

A5

個別の判断になると思います。

ホストクラブでの副業が「会社の名誉や信用を損なう行為」となるのかどうかが判断のポイントです。「ホストクラブで働かなくてはならないほど、あのサロンは薄給なのだろう」といった風評が付いて回るのならば、名誉や信用を損なう行為となるかもしれません。逆に、「接客や社会勉強の一環でダブルワークをしているらしい」という風評ならば、当該スタッフの評価が上がり、「そういった勉強を認めているサロン」として良い影響があるかもしれません。なお、ホストクラブなどの「水商売」では、雇用契約ではなく請負契約(業務委託契約)というケースも多く、この場合、当該スタッフは「個人事業主」として副業することになるため、労働時間を通算して管理する必要はありません。しかし、ホストクラブの業務は深夜遅くになるのでしょうから、副業を認めるとしても、オーバーワークで倒れてしまわないよう、常に体調に気遣う必要があるでしょう。

Q6

求人したところ、「美容師を辞めて他業種で正社員をしているが、今後は副業として美容の仕事をしたい」という応募者が。人柄も良く、技術も問題ないので採用しようと思いますが、何か注意点はありますか?

A6

時間外労働と割増賃金の取り扱いに注意が必要です。

スタッフを採用しようとする際、先に労働契約を結んでいる企業がある場合は、17ページで解説した通り、先契約の所定労働時間と後契約の労働時間を合算し、法定労働時間を超えた分は、後契約を結んだ側に、超過分の労働時間に対し割増賃金の支払い義務があります。つまり、先契約で週40時間(特例措置対象事業場でない場合)働いており、サロンで週15時間副業をするという場合は、副業のサロン側で丸々割増賃金を支払う必要があるわけです。この点で、通常のスタッフ採用よりも人件費がかかることは留意しなくてはなりません。

『美容の経営プラン』2020年12月号


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