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小さなカケラ vol.8 / そろそろ枯葉の下で冬支度 カヒミ カリィ_ミュージシャン、文筆家

皆さん、お元気にしていらっしゃいますか?
 

ペンシルベニアはすっかり秋も深まり、朝夕は息がうっすら白くなることも。日差しはまだ暖かいけれど、じわじわと冬の気配を感じる今日この頃です。

アメリカはこの季節になると、家々の玄関先にハロウィンの大きなカボチャやクリサンテマムという可愛らしい小菊を飾る習慣があります。街路は秋風に吹かれ飛んできた赤や黄色の枯葉が何層にも重なり、まるで絨毯のよう。早朝にこんもりと積もった枯葉の上を歩くとカサッカサッと乾いた音を立て、何ともクセになる心地良さです。

今、我が家の庭ではコスモスや秋明菊、パンジーなどの蕾がいっせいに膨らんで、ポンポンと弾けるようにたくさんの花を咲かせています。


あと1ヶ月もしたら植物達も冬籠りに入るのかなと思うと何だか少し名残惜しい気持ちですが、本格的に庭仕事をするようになってから以前よりも、枯葉が降り積もるガランとした景色も静かで良いものだなと感じるようになりました。
 

地面にこんもりと積もった枯葉は、植物達にとっては寒さや霜から守ってくれるフカフカの布団のようなものでもあるし、春になる頃にはゆっくりと分解されたそれが栄養となって、休眠していた根々や新芽に元気を与えてくれます。


季節と共に移り変わる庭の様子を毎日観察していると、枯れた草花や時には腐ってしまった果実でさえ自然の中では無駄でなく、全てが良い具合に循環していて、それぞれに大切な役割があるということを実感できて、なんだかホッとした穏やかな気持ちになれるのです。

話は少し変わりますが、先日そんな風にして庭を眺めていた時に、自分が幼い頃、初めて植物に興味を持った時の事をふと思い出しました。


小学生の頃に定期購読していた子供向けの教育雑誌で、トマトがたわわに実った苗の根元にジャガイモがぶら下がっている不思議な写真を見つけたのです。同じ種類のものならともかく、こんな事が可能なのかと驚きました。植物が好きな外科医の父にその事を話すと「人間じゃこんなに簡単にはいかないねぇ」と笑いながら、接木や摘心、切り戻しなど、庭仕事をする時に必要な事柄を簡単に教えてくれました。父は食べ終わった果物の種を庭に蒔いて上手く成長させたりしていた事があったのですが、私が一人暮らしをするようになってオレンジの種などで試してみると思っていたよりも難しく、立派に育てるには色々なコツがあるのだという事が分かってきました。昔はインターネットがなかったので、何かに興味を持ったら本屋や図書館などに行って探さなくてはいけなくて苦戦ばかりで、仕方なく知識もないまま種を蒔いたり苗を買って挑戦しては枯らしてばかりいたなぁと懐かしく思います。



それから何度も引越を重ねましたが、いつも窓際や狭いベランダでも何かしら育てていくうちに、少しずつ上手に育てられるようになってきました。昔、父が教えてくれた接木や摘心、切り戻しなどは、植物が蓄えているエネルギーを理解して、それを枝や葉、花などに上手に促す方法なのだと分かってきました。失敗しても上手くいっても植物を育てていると感じるのは、同じ種でもちょっとした日当たりや土の質、水の与え方などで成長が随分変わること、そして良い環境でスクスクと育った植物はエネルギーも強くなり、自然に良い循環を促しているんだなという事です。

私達は植物とは違いますが、やはり身体にエネルギーを蓄えているのは共通しているので考えさせられることも多く、庭仕事をするようになってから自分のいる環境や日々の生活も見直す事が増えました。

植物ほどわかりやすくないかもしれませんが、私達も太陽や空気、水、風などから想像以上に影響を受けていて、そして食事からは植物や動物など生命のエネルギーを直接貰っているのだなぁと思います。Joscilleで紹介されているものは、その素晴らしい植物や環境のチカラがギュッと包まれているようで大好きです。これからどんどん寒くなり空気も乾燥していきますが、身体や心を労わりながら、毎日元気に過ごしたいですね!


カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー 。91年デビュー以降、国内外問わず数々の作品を発表。音楽活動の他、映画作品へのコメント執筆、字幕監修、翻訳など幅広く活躍。これまでカルチャー誌や文芸誌などで写真や執筆の連載多数。2012年よりアメリカ在住。
http://www.kahimi-karie.com
Instagram : @kahimikarie_official

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